03

「うっそでしょ」

鞄を開けると「やあ」とでも言ってそうな白蛇が入っていた。
小さい頃、神社で拾った白蛇のシロ。
学校に連れてっていいのは梟、猫、ヒキガエルだけだったみたいで世話できるかちょっと怖かったから置いてきたと思ったのに。
神社で拾ってから、神聖なものだと思われるシロは大切にしていたつもりだ。
この子、脱皮が下手だからよく手伝ってはいたけれど……
ちろちろと舌を出すシロを鞄から取り出して自分の隣に下ろす。
私以外誰もいないコンパートメントでよかった……混むとか言ってたけどこっちの方は空いてるようだ。

「えー……来てくれるのは嬉しいんだけど先生方にバレたら怒られるかなあ?家からシロのゲージとか送って貰わなきゃ……」

そもそもそんな重いものを梟のソラが運べるのか!?
だったらシロを送り返した方がいいか!?
ううん、と悩んでいるとシロはするすると私の腕に巻き付いた。
薄手のパーカーの下に入り込んでいるから一見わからないかもだけど、明らかに不自然な膨らみになってる。
器用にそのまま上がってきて、肩口から見えるか見えないかのところで頭を覗かせた。

「……ま、いっか」

心強いっちゃ心強いしね。
それからしばらくは見慣れない風景を眺めていた。
なんていうんだろう、この、日本とはまた違った風景。
カメラあればなあ、でもこんなに早くちゃ撮ってもボケちゃうか。
父さんと母さんも見たことある景色、それを今私は見ている。
ちょっと小腹が空いて、鞄の中からお菓子を出して封を開けた。
ボリボリとクッキーを食べながら視線は外へ。
もう少ししたらおにぎり食べよ……
風景の見ながらシロの頭をうりうりと撫でていると、コンパートメントがノックされる。
入ってきたのは半泣きの気弱そうな男の子。

「あ、あの、ヒキガエル見なかった……?」

「見てないよ。……シロは食べてないよね?」

「え、ええっ!?蛇!?」

心外だ、とでも訴えるかのようにシロは大きく口を開けて威嚇した。
そうだね、シロに大きさにもよるけどまだヒキガエルは大きいもんね。
冗談だよ、そう言おうと思ったら男の子は──泣いている。
ごめんね!冗談だった!!ほら、泣かないで!目ェ擦ったら赤くなるから!!見つけたら教えるから!ね!?
思わず男の子に駆け寄り、タオルを目元に当てて5分ほど慰めていた。
シロが呆れたようにシューッと泣いたような気がする。
ほんとごめん……