宝月茜を信じている

※流血表現有

あーあァ、お団子に丁寧に纏めてたのに髪の毛解けちゃってるぅ。
体が痛いなぁ、そっか、ボコボコにされたんだぁ。
事件現場で証拠が見つからなかったから、少し離れたこの路地でごそごそしてたら凶器とか、被害者の所持品と思われるものとか、そんなものがビニール袋に纏められて入ってて。
茜ちゃんにとりあえず電話して、どこにいるのか伝えた時に後ろから鈍器で殴られて、アスファルトに倒れ込んでも何回か殴られたんだぁ。
冷たいアスファルトに俯せになって倒れてる。
霞む視界に映るのは私の携帯電話と血痕かなぁ。
頭上では犯人と思われる人物が複数、慌てた口調で怒鳴っていた。
……次の事件の被害者は私かなぁ、嫌だなぁ。
犯人の顔、見えてないから、見とかなくっちゃ。
せめて私の血液を服につけてやらないとぉ。
全身の痛みに顔を歪めて震える手を口元に持っていく。
口の中が切れててピリピリするし、鉄の味がして気持ち悪いなぁ……
親指に血をつけて、近くにいた人物の足首を掴んだついでに爪を立てた。
すぐ跳ね除けられたけど。
……うん、こんだけあれば茜ちゃんには十分でしょお。
大丈夫、茜ちゃんなら大丈夫。
からからと何かを引き摺る音に、意識が薄れる中覚悟を決める。

「名前!!」

一番呼んでる人の声が聞こえた、ような気がした。

 

 

 

「ほら、あーん」

「あーん」

しゃぐしゃぐとりんごを頬張る。
うん、もらったお見舞い品のりんごは美味しいなぁ。
ありがとぉ、とお見舞いに来てくれたオドロキくんとみぬきちゃんに言うと、なんとも言えない表情が返ってきた。
白い部屋、白いベッド、特徴的な消毒液の匂い。
ここは病院だ。
もっと言うなら警察病院ねぇ、他の病院より少しは治療費安くなるからぁ。

「とりあえず、現行犯で逮捕はできましたけど、名字刑事の追ってた事件の真犯人かはまだ否認してるんですね。俺が担当することになりました」

「そっかぁ、まあ期待の新人弁護士のオドロキくんなら大丈夫だよぉ。茜ちゃんも、事件現場と私が襲われた現場の検証をやったしぃ」

相手方がどんなに言い逃れしようと思ってもむりでしょお、検察側はガリュー検事だし。
怪我のため私は証言台に立てないけれど、最低限の証言は文書にしたためてもらった。
何か裁判中に発展があるなら茜ちゃんを通して私に連絡をするように打ち合わせはしてある。
ね、茜ちゃん!
りんごをフォークに刺してこちらに向けてくれる茜ちゃんにそう言えば、深く溜め息をつかれた。
私が気を失う直前に警官数名率いて駆けつけてくれたのは茜ちゃんだった。
携帯電話の電源はつけっぱなし、落ちた衝撃で画面は割れたけど通話状態だったからそこから電波を素早く辿ってくれたんだってぇ。
さすが茜ちゃん。

「いろんなところを余すことなく捜査するのはアンタの長所だけど、フッと気を抜くのは短所ね。まったく……心配、したんだから」

「宝月刑事凄かったんですよ名字刑事!持ってたカリントウ犯人になげてて!!みぬきたちが駆けつけたらカリントウが散らばってました!」

「言わなくていいから!!」

「ん、ごめんねぇ。でもほら、茜ちゃんなら来てくれるのはわかってたし、信じてたからさぁ」

へへ、と笑うと茜ちゃんは私の口にりんごを突っ込んだ。
お顔真っ赤だぁ。
オドロキくんとみぬきちゃんは、部屋に備え付けの時計を見ると慌てて立ち上がった。
聞けばこれから犯人と面会らしい。

「また来ますね名字刑事。今度はお見舞いとしてパンツから果物出します!」

「名字刑事、お大事にしてください。裁判、大丈夫ですから!」

なんとも頼もしい子たちだなぁ。
ひらひらと病室から出ていく2人に手を振って、私のベッドに腰かけた茜ちゃんに視線を向ける。
真剣な顔をして、それからすぐ顔をくしゃくしゃにして私の胸元に顔を押し付けた。
弱々しく、よかった、と聞こえる。
両腕が痛いのを我慢して茜ちゃんの背中に腕を回した。
大丈夫だよぉ、茜ちゃんのおかげで、怪我だけで済んだんだからぁ。
言葉の代わりにぎゅうっと抱きしめて、茜ちゃんの髪の毛に頬を寄せる。

「茜ちゃん」

「何よ……」

「うさちゃんりんご、明日剥いてねぇ」

「しょうがないわねぇ、うさちゃんでもワニさんでもやってやるわよ」

鼻声だったのは、何も言わないでおこうっとぉ。
その後、お見舞いに来たガリュー検事が私たちが抱き合ってたところを目撃して、茜ちゃんと検事とで一悶着あったのはまた別のお話ってことにしといてねぇ。