あーあ、気が重い。
来るのが嫌で嫌で仕方なかった。
いくら卒業生とはいえ、その後に発覚した件でここは立ち入り辛い場所になってしまったから。
学生時代にもらった学生証をジーンズの後ろポケットに突っ込み、遠慮なく門をくぐる。
ああ、懐かしい匂いがするなぁ。
3年前まではまだここの高校生だったんだ。
ヒーロー科で、大好きなあの人の生徒で、同級生たちとしのぎを削って、それなりに充実した高校生活だったと思う。
卒業直前までは、だけど。
「せんせー、久しぶり」
「……おま、は?」
「ちょっと顔出しに、あとせんせーに会いに」
私が来るなんて思わなかった、そんな顔を隠しもしない相澤先生に思わず吹き出す。
顔出しに来たわけじゃない、せんせーに会いに来たわけじゃない、会えればいいなとは思ってた。
ちなみに驚いたのは相澤先生だけじゃなくて、マイク先生や職員室にいる先生方もだ。
……あの、マイク先生……苦手だから大声はやめてよね。
ちらりと相澤先生の手に持つプリントを見る。
──カリキュラム。
あいつらが欲しいって言ってたやつか。
「なんか……窶れたな」
きょとんとした顔のまま、せんせーは私の顔をまじまじと見た。
そこは痩せた?って言おうよ、なんてからかうように言えばデコピンされる。
気を緩めると泣きそうだなー。
「変わりはないか?」
「……うん、特には、ない、かな?」
嘘。
本当にはたくさんある。
助けてほしいくらい、周りの環境が変わった。
「名字妹には会ったのか?」
「あの子が入学してからはまだ会ってないよ。雄英生としての晴れ姿は見てあげたいね」
「名字姉には?」
「卒業してから一度も、ほら、あの人はヒーローやってて忙しいから」
「……名前、お前本当に変わりないのか?」
──ここで言えたら、彼は助けてくれるのだろうか。
ねえ、しょーちゃん。
私を、助けてくれないかなあ?
言葉を何か出そうとして口を開く。
でも言いたい言葉は出てこない。
「相変わらず酒に呑まれてるくらいで、何もないよ」
嘘、ほんとは助けてほしい。