「ヒーローの卵だったんだってな?」
よくわからんテロリストに個性使わせたオール・フォー・ワンいつかぶん殴る、なんて真顔で思っていたら声をかけられた。
I・アイランド、海の上を動く巨大な移動都市、科学者たちが集まる場所。
ヒーローやってる従姉妹の姉さんとその妹と一緒に訪れたことはある。
旅行できないけれど大抵の施設が揃ってる、自由のようで不自由な場所だな、と中学生ながら思った。
タルタロス並のセキュリティだってのに、乗り込む敵なんて聞いたことがない。
それに、今こいつ私に喧嘩売ったよね?
そこで待ってる黒霧には悪いけど、もう少し待たせよう。
「……それが何か?」
「あの方から聞いたんだよ、あの人の娘だってのにヒーロー目指してたってな」
なんだろう、地雷踏み抜きたいのかな?
あの方ってのはオール・フォー・ワンのことだろう、さっき個性渡されてるの見たし。
あの人ってのは、そうだと思いたくないけれど確実に私のクソ親父のことだろ。
私も知らないクソ親父の話題出されてもなんか腹立つ。
自然と舌打ちが零れる。
目の前で喉を鳴らすこいつをはっ倒してやりたい。
現地のヒーローにこてんぱんにされちまえ。
「ヒーローなんかじゃなくて敵らしい面してるじゃねえか」
はい無理。
黒霧の「やめなさい!」なんて制止は右から左。
体が動いた。
そいつの雑な鉄仮面をぶん殴ってやろうと距離を縮めて右拳を奮う。
ガァン!と鈍い音と共に拳に反動。
私の拳がそいつに届く前にそいつの個性だろうか、床から壁ができて盾の役割をしていた。
細められた目が私を見下ろす。
舐められてる、馬鹿にされてる。
本格的に動こうと思った瞬間、目の前にぶわっと黒い靄が広がって一度瞬きしたら私は黒霧の隣にいて、あいつとは距離が空いていた。
黒霧の個性で移動させられてたらしい。
「ウォルフラム、名前を刺激するのはやめてください」
「じゃれてやろうとしただけだろ?」
「爆発物なんですよこの娘」
誰が爆発物だ誰が。
腹いせに黒霧の足を踏み抜こうと思い切り足を踏み下ろしたけど、それを読んでいた黒霧が足をひょいと動かし、私は思い切り床に穴を空けただけに終わる。
「……戻る」
「ええ、さっさと戻りましょう」
「次は猫じゃらしでも用意してやるよ」
「次なんかない、ヒーローにやられちまえ」
お前がやられたら腹抱えて笑ってやるよざまーみろって!
黒霧の個性でバーに戻った直後、イライラは止まらなくてカウンターで座っている死柄木の椅子を蹴り飛ばした。