言葉足らずにご注意

「……来ちゃった」

今日の昼過ぎ、名前の家に行くね。
そんなLIMEメッセージが入ったのは早朝だった。
寝起きの頭でなんと返したのか覚えていなかったけれど、さっき見返してみたら『別にいいよ』なんて返信済みで。
……来なくていいよのつもりで返したのかな、私。
それに吏来がどう思ったのかわからないけれど、何度も不在着信が入っていて、でも私はちょうどペットたちのケージや水槽を掃除しながら戯れていたから気づくのがとても遅かったんだよね。
それに焦ったのだろうか、昼過ぎどころか昼前に吏来がうちに来た。
ちょっと走ったのかな、少し息が上がっていて、でも私を見るとふにゃ、と表情を柔らかくする。
病み上がりなんじゃないの?無理しなくていいのに。
さすがに帰ってなんて言うことはできないから、そのまま招き入れた。

「ごめんね、急に」

「ううん、どうしたの?」

何か飲むかな……初売りで買った紅茶かコーヒーならあるけれど。
吏来は甘いもの苦手だけど、シュガーもミルクも使わないコーヒーと一緒にならマドレーヌくらい食べられるかな。
ソファーに座ってていいよ、と声をかけて台所に足を向ける。
ええっと、吏来のマグカップは……食器棚を開いて吏来がうちで使っているマグカップに手を伸ばそうとした時、急に体を引き寄せられた。
誰に、なんて確認しなくてもわかっている。
私のお腹に腕が回り、私の肩口に吏来が顔を埋め、私の頬に吏来の髪が触れて擽ったい。
どうしたの、と訊く前に吏来の口から「ごめん」が零れた。

「名前を突き放すつもりじゃなかったんだ。でも、俺、本当に体調悪かったから、名前に移るの嫌で、あんなに強く言うつもりなくて……」

……なんか、あの、気のせいじゃなければちょっと泣いてませんか?
控えめに鼻を啜る音にちょっとだけ確信する。
あとごめんね、そもそも何の話なのかちょっとわかってない。
んー……吏来が体調悪い時って言ったらあれか、年末にインフルエンザに罹ったやつ。
私は予防接種もしているし、移らないように気を付けるから看病しに行こうか?って聞いたんだ。
年末年始は休みで、吏来の家の中のこと手伝うよってメッセージ送ったけれど、彼から返ってきたのは思ったよりも素っ気ないもので。
ああ本当に体調悪くてなんならメッセージもしんどいんだろうな。
そう思ってそこでメッセージを終わらせた覚えはある、それに年明け早々『あけましておめでとう』のメッセージを送ってそのままだったのも。
……え?それだけ?吏来は別に悪くないんじゃない?
力強い腕の中で体を反転させれば吏来と向き合えた。
泣いては……いないけれど、今にも泣きそうな、ゆらゆらと揺れた目をしている。

「大丈夫だよ、怒っていないし、そもそも体調悪いのに気を遣わせたのがよくなかったよね。ごめん」

「……あと、逢と由鶴と樹帆と恭耶を呼んだやつ……誘っても既読だけだったから……」

「あー……あれね、吏来と飲もうと思っていた日本酒空けて夜更かししていたら昼過ぎまで寝ちゃって……」

「え!?あれ全部飲んじゃったの!?」

「美味しくて……ごめんね?」

嘘だろ取っておいてよ……と項垂れる様に肩を落とし、私をぎゅっと抱きしめる吏来の背に腕を回した。
なんか言葉足らずとタイミングだったかな?
吏来の体調が良くなって安心した、一緒に年越しできなかったのは残念だったけど、そっちが一番大事だもの。

「改めて……あけましておめでとう吏来。今年もよろしく」

「うん、こちらこそよろしくね、名前」

「本調子じゃなかったら養命酒でも飲む?あるけど」

「もう体調はばっちりだから遠慮しておくよ」

じゃあコーヒーでも一緒に用意しようか。
思っていたお正月とはかけ離れてしまったけれど、一緒に過ごせるだけでもいいよね。

 

2026年1月5日