待ち合わせは店内で。
私が早い時もあれば天谷奴さんが早い時もある。
そもそもどこかで待ち合わせしてそこに天谷奴さんがいれば絶対騒ぎになるし収集がつかないからいつしか待ち合わせは現地店内集合になっていた。
夏は涼しく冬は暖か、なんて快適な待ち合わせ。
今日は私が早かったから席を連絡しておいて先にビールとおつまみを注文する。
フライングしてしまえ。
「おいおい薄情だな、お疲れの俺も労わってくれよお嬢さん」
「私もお疲れなんですぅー、つーかお嬢さんなんて年じゃないし」
年下の部下である女性陣に影でババアって呼ばれてたからクソガキがってちょっとした言い合いになったけど。
店員さんを捕まえて追加のビールとまた何品かおつまみを注文した。
天谷奴さんがコートとハットをハンガーにかけているのを横目に私は煙草とジッポを取り出してテーブルの上に置く。
後輩からもらったジッポには犬のシルエットが刻印されていた。
ご丁寧にその犬のシルエットの中に二桁の数字も刻まれていて、凝ってるなぁと思う。
外面のいい悪徳警官なのに一度懐に入れた人間には甘いというか。
煙草を一本咥えながらそのジッポを眺めていると上からそれを掠め取られた。
「珍しいもん持ってんな」
「後輩からもらったの。可愛いでしょ」
サングラスを外し、左右違う色の目でそれをしげしげと眺めてから火をつけて私の前に差し出す。
オイルの匂い。
熱気で火の周りが揺らめくのを見てから煙草を口にしたまま顔を近づけた。
煙草の先に火がついたのを見て、それから深く息を吸う。
姿勢を戻して慣れ親しんだ苦めの煙と息を吐き出せば天谷奴さんは私の目の前にジッポを置いた。
「いつも安っぽいライターだったろう」
「短スパンでなくすって言ったらこの前送ってきてくれたんだよ、高いものならなくさないでしょうって」
「あー……確かに会う度違うライターだったな」
「それを見兼ねたみたいでね」
仕事中は御守りがてらジャケットの内ポケットに入れてるよ。
ほぉー、と何か含みのある声の天谷奴さんと私の前に注文していたビールとおつまみが置かれる。
天谷奴さんがそれに手を伸ばすのを見て、私は灰皿の上にに煙草を置いた。
「ま、今日は仕事の話はなしに飲もうぜ」
「さんせーい」
はいかんぱーい。
ジョッキを手に取り割れない程度にそれをぶつける。
さあ今日は飲むぞ。
一杯目は私も天谷奴さんも一気飲みして、すぐに次を注文した。