詐欺師がペディキュアを塗ってくれる

「楽しい?」

頭上から聞こえる問いに「おう」と答えれば感心したような声が帰ってきた。
刷毛に取るのは赤、それを薄いピンクの爪先に滑らせていく。
名前の視線が一度俺の手元に落ちて、それから賑やかなテレビへ戻った。
どうせ内容なんて入ってないだろうし、暇だから観てるだけなんだろうな。
全ての爪を赤で彩り、それから乾かすようにふーっと息を吹きかける。
何も言わなかったからか、面白いくらいに名前の体が跳ねた。
思わず肩を揺らして笑えば控えめに髪をぐしゃぐしゃと乱される。

「ちょっと!」

「動くとはみ出るぞ~」

名前の動きを制すようにわざと足を高く上げてやると、そのまま体勢を崩してソファーの背もたれへ勢いよく寄りかかった。
何か言いたげな表情を黙殺してそのまま続ける。
本当は赤じゃなくて淡い青が似合うんだろうな。
髪や目の色に似合うのは青だ。
でも自分の好む色に少しでも染めてやりたいと思うのは俺のわがままか。
全ての指に赤を塗り終え、次は反対の足を手に取った。
意外と足の裏が固い、そりゃあんだけパンプスで走り回ればそうなるな。
それにパンプス履いてるくせに足の形は綺麗だ、履いてる時間も長いと足の形も変わるだろうに。
ぎゅ、と親指で土踏まずを辺りを押せば名前から悲鳴が上がる。

「痛い痛い痛い痛い!!」

「うっわ……かってーな」

「やめてくんない!?」

「ここは胃か?夜な夜な食ってるから痛いんじゃねえのか?」

「あだだだだだだだだ!」

色気ねえなー。
足の裏を押すのをやめれば、仰け反って騒いでいた名前が恨めしそうに俺を見た。
いつかやり返してやるからな、そう言っているような気がするが知らんぷりだ。
足の裏からふくらはぎへ手を滑らせる。
走り回って適度に引き締まった肉は案外柔らかい。
肌に傷もないし、ずっと触っていても飽きないなこれは。

「……なんかさ」

イケナイことしてるみたい。
小さく落とされた言葉に、名前の足を抱えるように腕を回して膝に顎を乗せれば名前の顔がほんのり赤くなった。
あー淡い青が似合うって言ったのは嘘だ、だってこんなにこいつには赤が似合う。

「なら夜にでもするかァ?イケナイこと」

赤い顔のまま目を逸らして俯くのは肯定とほぼ同じ。
さっさと塗ってしまえば夜は待たなくていいだろうな。
名前の顔よりは赤いペディキュアを刷毛に取り、手早く爪に滑らせた。

2023年7月25日