雨が降っている。
あいにくの天気に自然と溜め息が零れた。
そうだ、オオサカの天気予報しか確認していなかった……
中王区への出張、とはいえ本当に私が必要だったのかわからない仕事を終え、久しぶりに実家と古巣のあるヨコハマに寄ろう、と新幹線と電車を乗り継いできたのはいい。
まだ実家とヨコハマ署に顔を出した時には曇り空、休憩兼ねて行きつけだった喫茶店から出て雨が降っているのを見た時には傘ないなぁ、なんて他人事のような感想だけ。
雨宿りとして入ったコンビニでさて、どうしようかなと首を傾げた。
両親と元同僚たちにオオサカ土産を渡し、少しだけ身軽になった鞄を肩にかけ直す。
スマホを取り出して天気予報を確認すれば、明日の朝まで雨が降り続くことがわかった。
コンビニでビニール傘でも買おうか、いやでもビニール傘買ったところで今日このためだけだし。
お金がもったいないとかじゃなくて、一度ビニール傘を買ってしまうと今後も買う癖がついてしまいそうだ。
どうせ駅までの距離だし傘なしで走るか?
うーん、と唸っていると不意に肩を叩かれた。
「よう、オオサカからヨコハマまでたァ警部補さんもご苦労だな」
「……天谷奴さん?」
振り向けば、オオサカにいると思っていた天谷奴さんが。
行動範囲広いなこの人。
……まさかとは思うけど、詐欺しにわざわざこっちまで来たわけじゃないよね?
じとりと天谷奴さんを半目で見れば、違ェってと笑う。
「別件だよ別件。お前がヨコハマに来ているってのに目の前でするわけねぇだろ?」
「いや天谷奴さんのことだから私が隣にいてもやってそう」
「ひでーなぁ」
からからと笑う天谷奴さんに肩を竦め、棚に陳列されているチョコを取って天谷奴さんに渡した。
じゃあこれ奢ってくれたら目を瞑るよ。
安い賄賂だねェ。
ついでに缶コーヒーも渡しておいた。
……まあ、目を瞑るもなにも、なんだかんだ言って私の目の届く範囲でそういうことしないのは知っているから。
「あ、傘も欲しい」
「傘くらい俺のに入れてやっから」
「ほんと?」
「たけーぞ?」
「桁違いの請求されそうだからやめとく」
冗談だよ冗談、なんてまた天谷奴さんは笑う。
今日はなんかよく笑うなぁ、含み笑いなんかじゃなくていたずらっ子みたいな笑顔だ。
手早く会計を終えた天谷奴さんについてコンビニを出れば、相変わらず雨は降っていた。
心なしか少し強くなったような……
うわ、とげんなりしていると天谷奴さんに買ったものを渡される。
それを持てば代わりにと肩を抱かれて身を寄せた。
「この年で相合傘なんてなァ」
傘の下で言葉を交わせば、普段よりよく聞こえる。
息遣いとか、触れているところから伝わる体温とか、言葉以外のものも。
「意外と悪くないかな……」
「そうだな」
少しはみ出てしまうところは濡れてしまうけれど、こんなに彼と近い距離になるなら気にしないかな。
簓くんと盧笙先生にお土産買っていこうよ、と寄り道を提案すればいいねェと乗ってくれた。