伊武隼人のカチコミについていく

泣き声が頭にこびり付いて離れない。
友達の、助けて、って、声が途切れない。

「ってことで眉済さんにも許可もらったんで着いてく」

「……は?」

「えっ、名前さん来るンスか……?」

私の言葉に珍しく伊武さんが目を丸くし、阿蒜くんが口の端を引き攣らせる。
最近、花宝町で起こってる件が理由だ。
嬢をハメる半グレのクソ野郎、その毒牙に仲良くしている嬢がかかってしまった。
写真や動画を撮られたかもしれない、脅されている、怖い、助けて。
そんな言葉に私は「任せておいて、データもそのクソも砕いてくんから」と返し、花宝町をシマにしている河内組の眉済さんに話を持ちかけ、今に至る。

「大丈夫、リーダーはやらないから、実行犯ボッコボコにできりゃいいから」

「そうじゃないですよ!名前さん一応カタギですよね!?ここは俺たちに……」

「──友達が、泣かされてんの、助けてって、私に泣きついたの、やらない理由、逆にある?」

「アッナイデス」

真正面から阿蒜くんを見れば、阿蒜くんは少し顔を青褪めて伊武さんの影に隠れた。
そっちこそそれで大丈夫か。
そんなこんなで伊武さんと阿蒜くんについていくことになって、道すがら阿蒜くんからクソ野郎の情報を聞く。
別に要らないんだけどね、これからボコボコにする人間の情報なんてさァ。
ただ、京極組って言う黒焉街をシマにしている極道も来るらしい。
すげーな、さすがに極道の組織複数に喧嘩売るの、いや凄いんじゃなくてただの馬鹿なのかもしれない。

「やらねえと思うが京極組に喧嘩売るなよ」

「売られたら買うかもだけど」

「やめとけ」

その状態のお前ならやりそうだ、なんて伊武さんは溜め息をひとつ。
大丈夫、分別はつくから、クソ野郎以外の。
とまあ、そんな感じでふたりについて半グレの根城に行けば、既に始まっていたのか中では知らない男がふたり暴れていた。
あれかな、京極組って。
まあいいんだけど、なんでも、誰でも。
伊武さんと阿蒜くんが挨拶かなんかしているのを横目に私は目的の人間を探す。
彼女から覚えている男の特徴は聞いた、あとはぶん殴るだけ。
と、伊武さんが私に指を差してこいつは──と紹介する直前に私は走り出した。

「お前か私の友達に非道を働いたクソ野郎は!!」

「あっ、コラ」

「あー!名前さん突っ込まないでー!」

制止の声がふたつ聞こえたけれどもう知りません、私のターンです。
友達から聞いた特徴に当てはまる男の顔面に飛び蹴りをして、倒れたところで馬乗りになり、胸倉を掴んでただ殴る。
そこからはどこもかしこもこっち側の一方的なものだった。
半グレったって素人の集まりなわけで、なんだっけな、羅威刃なんかだったら大きな勢力らしいけどそれ以外ならぶっちゃけなんともない。

「……えっと、阿蒜……あの人は……?」

「あー……伊武の兄貴が懇意にしているバーで店員をしてる名前さんです……」

「……店員とは?」

「オーバーキルにも程がある」

「花宝町で被害に遭った嬢の中に名前さんのお友達のいたらしくて……」

ボコボコにした男からスマートフォンを取り上げ、カメラロールを隈無く確認し、念の為クラウドのバックアップを削除して、さらに念を入れてスマートフォンを初期化してからそれを床に叩きつけた。
綺麗に木っ端微塵。

「次、花宝町で姿見つけたらお前がこうなる番だからな」

「こっわ」

「え、花宝町のバーの店員ってみんなこう?」

「風評被害!!名前さんだけです!他の店員さんは普通の人!」

「コラ名前、帰るぞ。……どうせ、二度と花宝町には、いや、どこにも行けねえさ」

男の胸倉からぱっと手を離し、ゴトンと頭を床に打ち付けたのを見た後追い討ちとばかりに蹴りつける。
やめねえか、と伊武さんに鉄棒で小突かれたので何すんだよと噛み付けばそのまま首根っこを引っ掴まれた。
あ、ちょ、首!首締まるから!!
私を引き摺りながらじゃあなと京極組の人に声をかける伊武さんと阿蒜くん。
私もふたりを真似て手を振ればなんとも言えない顔をされる。

「……やべーな、狂犬みてーな女だった」

「はい……花宝町のバーに行くの気をつけます……」

聞こえてますけど?