イングウェイと半吸血鬼と傷痕

伸ばされた手に反射的に避けたらなんか傷ついた顔をされた。
物理的に傷ついているのは私の顔ですけどね。
この前ライブラの要請で血界の眷属の討伐に赴いたはいいものの、動きを止めた程度でリタイアした。
なんか銀髪色黒の男と黒髪スカーフェイスに嫌味言われたけれど、報酬分のお仕事はしました。
大体私の血液にあいつらの細胞を傷つけるような力はないんですよ……あくまでダンピールとしての力だけなんですよ。
どんだけ傷だらけでも、酷いと半分が治療費で吹っ飛ぶのでこっちの仕事はしなくちゃいけない。
こっちの仕事は仕事で店長に宛にされてるしさ。
報酬少なくてもそういう仕事って心が癒される、どんだけ扱き使われようと労わってくれるし。
ライブラはですね、ダンピールの時点であまり信用されてないしなんなら気を抜くと尾行されてるから別ですね。
話を戻そうか。
私が一歩引いて傷ついた顔をしたのはいつもこの店によくわからん曰く付きの品物を持ち込んだり買ってったりするふたりのうちのひとり。
黒髪の方のイングウェイだ。
珍しく、片割れもいつも連れている犬もいない。

「悪かった。……痛むのか」

「思ったよりざっくりいっちゃったし、あと純粋にびっくりした」

頻繁にガーゼを替えてはいるけれど、出血が落ち着いても痛みはなかなか落ち着かない。
いつもセンター分けの前髪でガーゼがでかでかと貼ってある頬を隠そうにも、長さが足りなければガーゼや絆創膏のいらない程度の細かな傷はいくつかある。
残らないとは思うけれど。

「他に傷は」

「擦り傷があるくらいかな、酷いのはこのガーゼのやつだけ」

「……血界の眷属と戦ってたにしては軽傷だな」

「うん、それは自分でも思った。まあサポートだけだったから、そんなもんなんじゃない?」

危ない危ない、変にダンピールだって言ったら物珍しさから何されるかわからないから……ちゃんと黙っとこ。
なんかカマかけられた気もするけど慎重に慎重に。

「女なんだから、体は大事にな」

「……うん」

ガーゼの貼ってない頬をするりと手の甲で擽るように撫で、イングウェイは口元に薄らと笑みを浮かべた。
それから何歩か歩くと瞬く間に姿を消す。
……何しに来たんだろう……不思議だわ……
とりあえず姿も気配も消えたことを確認して、私も相変わらず嫌な気配のする店の中に戻った。

2023年7月28日