半吸血鬼を助けるタイクーンブラザーズの話

あっこれ死んだかも。
なんて思ったのはライブラの依頼で彼らと共に血界の眷属と対峙していた時。
馬鹿みたいに高いビルからボロボロの体を放り投げられた。
ダンピールではあるけれど、血界の眷属みたいに体の形を変えることも、血脈門を開くこともできない。
つまりは詰んだ。
そりゃあ普通の人間に比べたら頑丈だよ。
でも普通の人間のように死ぬこともあるんだよ。
血界の眷属に比べたら脆いよ。
でも血界の眷属を殺す力は持っているよ。
要は中途半端なんだ、私という存在は。
ここまで血界の眷属にボロボロにされて、落ちたら普通の人間は間違いなく即死の高さから放り出されたら、ダンピールでも死ぬわこりゃ。
不思議と頭は冷静だ。
私の名前を呼ぶ彼はなんだっけ、ラインヘルツだっけ。
レンフロが血液を紐のように伸ばしてくれるけど、それは届かないし、手を伸ばす気力すらない。
ああ、死んだなこれ。
きっと体が地面に叩きつけられてもそれを痛みと感じる間もなく死ぬんだろう。
もういいか。
牙狩りが心配しなくても、ダンピールが死んでも血界の眷属にはならないからさ。
ただやってくるであろう衝撃を受け入れようと開けるのもやっとだった目を閉じた。

「名前ッ」

落ちているだけの妙な浮遊感、誰かに名前を呼ばれて、それから浮遊感は終わって落ちていたはずの体が止まる。
ガシャン、なんて音がして、ちょっとだけ振動が体へ伝わった。
誰?私の呼んだのは。

「名前」

もう一度名前を呼ばれる。
ゆっくりと目を開けると、心配そうに私の顔を覗き込むマクシミリアンがそこにいた。
私と目が合うとマクシミリアンはホッと息を吐き、それから私の顔を撫でるようにして傷から滲んでいた血を拭う。
もしかして、助けてくれた?
何か言おうとしても、それはヒューヒューとか弱い息に変わるだけ。

「喋らなくていいよ。結構酷い傷だ」

「……」

「君をここまでやったのは、あの血界の眷属か」

私を抱き上げたマクシミリアンが立ち上がり、それから窓の外へ視線を向ける。
どうやらビルの窓を突き破るようにしてここへ入ったらしい。
それに、私を仕留めきれなかったと判断したさっきの血界の眷属がここまでやってきた。
私がダンピールだからここで仕留めたいんだろうな。
そりゃそうか、他の牙狩りのように血液を用いなくても血界の眷属を殺す手段を持っている私は目障りか。
儀式めいているから正直血界の眷属を殺したことほとんどないんだけど。

「そのダンピールを渡してもらおうか」

「断る、と言ったら?」

「お前も血界の眷属ならわかるだろう?本来寿命が短くてもおかしくないはずの出来損ないがそこまで成長し、我々を脅かす力を有しているのだ。殺さない以外の選択など必要ない」

「……なるほど、確かに一理はある」

けれど、とマクシミリアンは言葉を続け、私に回す腕に力を入れる。

「この子は僕たちのものだ。同じ眷属でもそれは許さない。……そうだろ、イングウェイ」

「──当たり前だ」

マクシミリアンの言葉に応えるように血界の眷属の後ろを取ったイングウェイが血界の眷属の体目掛けて赤い針を投げた。
的確に血界の眷属の体を貫いた針が形を変えて内側から血界の眷属をさらに貫いていく。
あ、本当に強いんだなこのふたり。
悲鳴を上げる血界の眷属が膝をつき、それを見逃さずにイングウェイは血界の眷属を窓の外に放り投げた。

「我々が直に手を下しても構わない。だが、名前のようにズタズタになってこの高さから落ちてでも遅くないだろう」

えっげつないな。
イングウェイが窓枠に足をかけ、また手にあの赤い針を手にする。
それを落ちているであろう血界の眷属に投げると、外を何かの巨体が落ちてきた。
あれは、ラインヘルツだ。
まさか落ちる形で追ってきたのか。
ラインヘルツの姿を見ると、イングウェイはバイザーの下の目を丸くしてそのまま窓から離れる。
追撃の必要はないと判断したみたいだ。
もうあの血界の眷属はいい、ラインヘルツが来たってことは、そういうこと。
マクシミリアンに抱き上げられたまま、動かすのが億劫な手をポケットに突っ込んでスマートフォンを取り出した。
あー画面割れてる……でも使えそう。
ひとつの連絡先をタップして、そのまま電話をかける。

『ああよかった!無事か!?』

「なんとか……このまま、離脱するよ……」

『怪我は?』

「知り合いが、来て……くれたから、問題ない……」

『そうか……助かったよ、報酬はいつも通りに』

「……ん」

ライブラと彼らを会わせるのはまずいしね。
通話の切れたスマートフォンをポケットに戻せば、いいの?とマクシミリアンが首を傾げた。

「名前の怪我は?」

「手酷くやられたみたいだ。すぐに死にはしないと思う」

「そうか。さっさと戻ろう、お前の家で問題ないな?」

イングウェイの問いに頷けば、イングウェイは私の顔を撫でるとそのまま血脈門を開く。
いつもならうちに行くまでそんなことしなくていいと言うけれど、そんな余裕は全くない。
というか、安心した。
眠ってていいよとマクシミリアンが言うので目を閉じる。
大丈夫、ふたりは私の味方をしてくれるから。
すぅっと意識が遠のく中、どちらかが転化されてくれればいいのに、と呟いた。

2023年7月28日