死柄木にされるがままの日もある

気が乗らなかった。
ただそれだけだ。
それを言うと余計に拗れて終わりが見えなくなるのでやめておく。
殴られた顔は痛いし蹴られた腹も痛い。
口の中は血の味がするし鼻から血が垂れてる。
胸倉を掴まれたまま、ぼんやりとしていたら目の前の死柄木が盛大に舌打ちをした。
いつもと違う私たちの様子にいつも止めに入ってくる黒霧やトゥワイスは呆然としているらしい、ふたりとも表情わかりにくい。
いつもニヤニヤしているトガだってびびった顔して少し青ざめている、猟奇的なJKのくせに。

「なんでやり返さないんだよ」

何回も同じことを聞かれるけれど、答える気はない。
最初思ったのと同じ、気が乗らなかった、ただそれだけのこと。
死柄木は、構ってもらえない子どもみたいだ。
実際子どもっぽいし、私よりは年上だったはずだけど、絶対精神年齢ひっくいだろ。
黙り込んだままでいると、左頬に衝撃。
バシン、とありきたりな音にまた叩かれたのだと察する。
それで最後だと言わんばかりに雑に私の胸倉から手を放すと私は尻餅につき、死柄木は踵を返して部屋から出て行った。
……最後、張り手か、女子かお前は。
ヒリヒリチクチクジンジンと痛む顔を自分で撫で、はあ、と溜め息を吐く。

「なんでやり返さないんですか、名前ちゃん」

「……」

「らしくないです」

「……そう?」

口元を雑に撫でれば手のひらに血がついた。
自然と個性を発動させて、自己治癒力を高める。
明日の朝には切れた唇も腫れた頬も痛む腹も治っているだろう。

「なんでだろうね、気が乗らなかった」

「……言わなくてよかったと思うよ、もっと酷い顔になりそうだもん」

トガが自分の手が私の血で汚れるのを気にしないで私の唇の端を撫でる。
だろうなあ、最悪殺されてるんだろうなあ。
手当てしますよ、と手を差し出したトガを見て重い腰を上げた。

2023年7月28日