その手は優しくないはずだった

寝てる時に夢を見て知らず知らずのうちに泣いてる時がある。
あ、泣いてたのかな?って思うのは枕元に散らばった真珠を見てからだ。
起き抜けに心臓がひゅっと冷える感覚がする時は黒い真珠があって怖い夢見てたのかなって、もうちょっと寝ていたかったなあって思う時はピンクの真珠があって優しい夢でも見たのかなって。
夢の内容なんて起きた頃にはほとんど忘れてしまっているけれど。

「……まただ」

体を起こし、目を擦りながら視線を落とすと黒い珠と薄紅の珠がシーツに転がっていた。
あまり怖い夢と優しい夢をいっぺんに見ることないのに、何故か不釣り合いな色が混ざるように転がっている。
不思議、こんな状況だっていうのに。
あの日から何日経っただろう。
大分経ってる、とは思う。
ただの女子高生が敵に敵うわけもなく、どんなに泣いて怒って抵抗したところでかるーく捩じ伏せられておしまいだ。
窓があっても高い場所にあるし、鉄格子かかってるし、ドアもしっかり施錠してあるし何より思い出したかのように足を銃で撃ち抜くものだから常に怪我をしている状態。
今は血も止まってるし、渡されてる痛み止めの効果でか痛くはない。
ちゃっかりルビーまで回収されてるからほんとにそういう目的でここにいるんだなと実感する。
逃げよう、なんて何度も思ったし今も思っている、けれど。
あんな人相手にして出し抜けるわけがない。
転がっている真珠を拾って色を分け、枕元に纏めておいた。
ふと窓を見上げると、まだ外は薄暗いのか暗い光しか入ってきていない。
もう少し、もう少しだけ寝よう。
優しい夢が見たい、むしろ夢から醒めたい。
こっちが夢なんだと。
体をベッドに横たえて、丸くなって毛布を握りしめる。
お父さんとお母さんに会いたい、友人に会いたい。
自然とぽろぽろと涙が溢れて真珠になって落ちていく。
薄いブルーの小さな真珠。
会えないの、悲しいなあ。

わしわし。
そんな擬音が似合うような感覚に意識が少しだけ浮上した。
ほとんど微睡んでいるような感覚と、寝ぼけ眼でぼやける視界では何が起きてるかはわからない。
けれど、これ嫌いじゃない。
大きな手が私の頭を撫でてる。
そのまま続けてほしくて自分からその手に擦り寄るように動くと、戸惑うように一度手が止まった。
はあ、と溜め息が頭上から落ちてきて、それからまた頭を撫でられる。
さっきより少し柔らかく、たまに泣き腫らしたままの目元を擽って離れて。
これ、夢なのかもしんない。
だってきっとこの手の主は優しくなんてないし、むしろ傷つけるしかしない。
追いかけて追い詰めて、傷つけて、温かくなんてない、金属のように冷たい。
優しく感じるのは、私がまだ夢の中にいるからだ。
頭を撫でたその手が背中に向かい、寝かしつけるかのような手付きに半分開いていた瞼がまた閉じそうになる。
ちらりと最後に視線を上に向ければ、金に似た目と合った、ような気がした。

2023年7月28日