鏡を見るのが嫌いになった。
この髪が、目が、段々と変色して、顔は私なのに私じゃないみたいで気味が悪くなってきた。
両親からもらった、自慢の黒い髪に黒い目、日本人の象徴だと言う様なものだったのに。
同級生や知り合った人たちに聞かれるのも嫌だ。
毎回毎回「そういう病気になってしまったの」って言われるなんて、ふざけてる。
病気なわけないのに、可哀想なものを見る目で見ないで。
色が変わるだけじゃない、視力は段々落ちてきた。
そろそろ眼鏡を用意しないと日常生活に支障をきたすとまで言われてしまった。
本当は長く伸ばして遊んで見たかった髪も切った。
目だけは隠したくて前髪は長めに残した。
嫌だ。
こんなことに囚われる自分も自分だけど、こんな体にしたあいつらが大嫌い。
だって、今でも髪は白くなっていく、目は濁った緑になっていく、体内の瘴気を抑えるために薬も飲まなきゃならない。
なんで、私なんだろう。
「全く!八つ当たりでゲームを壊すのはやめなさい。せっかくレアスチルを全てコンプリートしたのに……!!」
「はは、ざまぁ。いだっ!」
「さっさと鼻血拭いて塾に行きなさい。奥村先生に手伝いを頼まれてたでしょう」
制服のポケットからタオルを出してそれを鼻に当てる。
折れては、ないよね?
少しボサボサに乱れた髪を手櫛で整えて、ブラウスの下に隠してる祓魔塾への鍵を取り出した。
「ちゃんと服薬はしていますか?いつもより顔色が悪い」
「それ多分あんたにボコられたからかと」
「いやその前からですよ」
「飲んでる飲んでる。じゃあ、次来たら今度はハンマーで叩き割るね」
「この鬼!」
適当なところの扉で鍵を使い、塾へ。
確か今日の手伝いはなんだったかな……
悪魔薬学だから座学か。
どっちかって言うと座学苦手なんだよね。
しかも教える側になるとさ、いざ質問されるとこう……畏縮しちゃうの。
元々人前に出るのは苦手だから、余計にね。
歩きなれた塾の廊下を歩いて目当ての教室に向かう。
「名字さん!」
「あ、雪男くん。遅れてごめんね」
「……まだ授業前だからいいんですが…………その……」
廊下で出会った雪男くんは私の顔をまじまじと見て言いづらそうに顔を顰めた。
メフィストのやつにやられて鼻血出てるから?
あいつのゲームを水没させたら見事にボコボコにされてきたことを話すと、慌てたように首を振る。
「顔色悪いなって」
「え、さっきも言われた」
「調子はどうですか?」
「悪くはないよ」
「辛かったら教えてください」
そうか、そんなに顔色悪いのか。
ピルケースを取り出して、処方されている薬を2錠口に含んだ。
水持ってくるの忘れてたな、と反省して無理矢理そのまま飲み込む。
喉を通る違和感に眉を寄せれば雪男くんが困ったように笑った。
さあ、授業といきましょうか。