「ご気分はいかがですか?」
「さいっあく」
虎屋の一室だろうか。
珍しく祓魔師の正装のメフィストがにまにまと私を見下ろしていた。
額に乗っかってた手拭いを取りながら体を起こすと、腕に点滴の針が刺さっている。
パック自体は2つ。
……一番重症なんじゃないか、これ。
ズキズキと頭と胸が痛い。
どうやら不浄王は無事に祓えたらしい。
「胞子嚢が破裂する前に倒れたのが幸いでしたね。そのまま戦っていたら最悪、死んでいたかもしれませんので」
「戦線離脱して幸いも何もないでしょうよ……」
「生きているのだから幸いでしょう?」
ぽんぽんと宥めるようにメフィストが頭を撫でる。
わかってる、そんなのわかってるよ。
それでも悔しいものは悔しくて。
ギリッと歯を食いしばると、横からメフィストが何かを差し出した。
手鏡、少し大きめの、それ。
受け取らずに視線を彼に向けると珍しく真面目な顔。
何を意図して鏡を差し出しているのかわからないわけではない。
どうやら、悔しがってる暇はないらしい、いろんな意味で。
溜め息を吐きながら手鏡を受け取り、意を決して覗き込む。
映るのはもちろん、私。
私、だけど……
「……変色、進んでる」
いきなり変わったわけではないだろうけど、京都に来た直後よりも髪は白く、目は濁った緑になっている。
つまり、不浄王の瘴気が体内の瘴気に影響を与えてしまったということか。
だからいつもより体の不調を感じるのかもしれない。
なんてこった、また苦しくなるじゃないか。
ただでさえ調子悪いのに。
「大至急効き目の強い薬を用意させましょう。あと、定期検診も増やしなさい。結構深刻ですよ……その進み方は」
「……」
そこまでか。
メフィストが言うってことは、かなりやばい状態らしい。
しばらくヴァチカン本部で休養なさい、あそこの方が医工騎士も多く、ゆっくり休めるでしょう。
手鏡を私の手から取っていくメフィストに頷いた。
私だって自分のことがわからないほど馬鹿じゃない、そりゃ生きてるから幸いだよ……こんな状態じゃあさ。
まあ、京都での任務は終了したんだ。
とりあえずは一段落したのだから、ゆっくり休もう……
メフィストからヴァチカン本部への鍵と学園への鍵を渡される。
「私は帰りますので、ゆっくり休むんですよ、名字上一級祓魔師」
「わかりました。日本での任務等がございましたら呼び戻してください」
「……ほんと、そういう時だけちゃんとするんですね」
「公私混同はしませんので」
「はいはい。もう一眠りしてからヴァチカン本部に行ってくださいね。話は通しておきます」
「あーい」
鍵をチェーンで首からぶら下げて、そのまま横になった。
ヴァチカンか……あの人に、会えるかなぁ。