ヴァチカン本部の医務室ではベッドで横になりながら資料を読むか、メフィスト経由で送られてくる学校の課題を片付けるか、それとも寝るかだった。
だって一応病人だし、重症の。
でも暇だ。
凄く腕のいい医工騎士の人に処方された薬を飲んで、効き目の強い点滴打ってれば元気。
医務室から出るのは禁止されてるから余計につまらないというかなんというか。
でもあの先生に口答えしたらベッドに縛り付けられる……あーつまらない。
「課題終わっちゃった……」
せめて読書、読書させてくれ。
ペンケースにシャーペンをしまってベッドにゴロンと横たわる。
点滴が終わるまではまだまだ時間はあるし、夕食もまだまだ先。
シャワーは女性祓魔師の付き添いで朝に行ってきたし、手持ち無沙汰というかなんというか。
あの後、塾生たちは今度は海に悪魔祓いに行ったらしい。
おっきなイカ相手にお疲れ様ですってのが感想だ。
不浄王の後ならそんなに苦戦はしないだろう、ダミーをたくさん作るからそれに対策考えれば平気なはず。
少し薬臭い枕に顔を埋めて目を閉じた。
…………本来なら私もそこにいたはずなのに、ほんと情けない。
寝過ぎてなかなか眠気が来ないことにげんなりしていると、医務室の外から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
この声確か……!
ガバッと勢いよく顔を上げるのと、医務室の扉がノックされて開くのは同時だった。
「やあ、お見舞いに来たよ」
「エンジェルさん!」
現聖騎士のアーサー・A・エンジェルさん。
エンジェルさんは私が使っているベッドまで来ると、手に持っていた可愛らしい小包をサイドテーブルに置く。
丁寧にラッピングを解くエンジェルさんの横顔に視線を向けた。
会えた、会えた、嬉しいな。
凛々しい顔付きに、金糸のような綺麗な髪、聖騎士だけあってとても強いし、ちょっと天然なところもあるけれど、好き。
それが憧れてるからこその感情なのか、思春期にありがちな恋愛から来る感情なのかはまだ決めれないけど。
「生花だと世話するのが大変だと思ってこれにしたんだが、どうだろう」
小包の中身はボトルフラワー。
これはガーベラ、かな?
透明なガラスに閉じ込められている花が鮮やかで、綺麗。
「ありがとうございます」
「ゆっくり休むんだぞ。また後で来るから」
「はい!」
三賢者との話があるらしいエンジェルさんは私の髪をぽんぽんと撫でると、マントを翻して医務室から出て行った。
ボトルフラワーをサイドテーブルに置いたまま、それをベッドに座って眺める。
嬉しいなぁ、嬉しいなぁ。
エンジェルさんがお見舞いに来てくれて、会いに来てくれて。
その日は1日中締まりのない顔をしていたのだろう。
点滴を換えに来た医工騎士が何とも言えない表情で私を見ていた。