「名前!」
「佐野。……と愉快な仲間たち」
「ちょっと待て!」
「誰が愉快な仲間たちだ!」
「一括りにするな!」
今日はいい天気だなぁ、小雨降ってるしなんなら夕方は土砂降り予報だけど。
イベントの帰り道、コンビニで雨宿りしていると最近知り合ったやつらが声をかけてきた。
なんだっけ、黒龍とかいう不良チーム。
そのチームを纏め上げているのが佐野真一郎。
この前校外学習で都内に来た時に知り合ったんだ。
不良に絡まれていた私を庇ってくれたけれど、なんかあっさり殴られたけど。
その絡んできた不良は私の制服引っ張って破いたら処した、いやー鞄っていいね、お手軽鈍器になって。
リーダー格っぽい不良を鞄で殴ったら覚えてろよなんて三下の台詞吐いて逃げてったから本当にそういう台詞吐くやついるんだな、都内すげえ、なんて思った。
どっちが助けたんだかわからない状況にはなってしまったけれど、迷うことなく助けに入ってくれた佐野にはそれなりに恩を感じる。
自分より強いやつに立ち向かうって勇気いるだろうに、凄いんだな佐野は。
「珍しいな、オマエがこっち来てるなんて」
「イベントあったから出てきた」
「イベント?ああ、名前は絵を描いてんだよな」
知り合いとイベントに出た帰りだし、雨でせっかく買ったものが濡れるのはいやだからこうしてコンビニで雨宿りをしているってわけ。
土砂降りになる前に一度雨止むらしいからその隙に駅までは行きたい。
ビニール傘を買おうとも思ったけれどどうせその後使わなくなるしな、悩むところだ。
コンビニで買ったコーヒー片手に四人にそう言えば、名案を思いついたとばかりに佐野が手を挙げる。
「じゃあ駅まで送ってってやるよ。オレらは人数分傘あるし、武臣なんかは傘たくさん持ってんからもらってけよ」
「流れるように決まるオレの傘の行方……まあいいけどよ」
とりあえず入れよ、と言われて佐野の広げた傘の下にお邪魔した。
傘からはみ出そうないくつかの荷物は前で抱えようとしたけれど、あっという間に今牛と荒師が取り上げる。
重いよ、と言ってもこんくらい余裕なんて言われた。
中身はお小遣いの範囲で買った絵だ。
ちょっと奮発して素敵なものを買ったから大切に扱ってくれればありがたい。
「オマエはどういうの描くの?」
「いろいろ、空はよく描くよ」
「そりゃ見てみたいモンだな」
「今日は持ってないから機会があればね」
こっちに絵を描きに来るのはねえからなあ。
今日だってイベントに参加していたものの、自分のものは家に配送しちゃったし。
今度な、とちょっと浮き足立っている今牛と荒師に言う。
信号で止まる時、ちょっとだけ顔を出して空を見上げた。
薄暗い雲で覆われた空、雨粒が落ちてきて、たまに街灯や信号、建物の光でキラキラと光る。
次は雨空描くのもいいかもなあ。
「不思議なんだけどさ」
「ん?」
「佐野は私を傘に入れてくれるけどそういうの彼女嫉妬するんじゃないの?」
「ぶふっ」
「んっふ」
「くっ……」
私の言葉に明司と今牛、荒師が笑いを堪えるように吹き出した。
佐野は佐野で顔を赤くして、口をパクパクと開けては閉じる。
なんか変なこと言った?
チーム率いていたり、強さはどうあれ見ず知らずの私を庇ったり、こうして傘に入れて送ってくれたり。
普通に彼女とかいると思うんだけど。
何も言葉を発さない佐野の代わりにぼそりと明司が私に耳打ちした。
「こいつ彼女いねえよ」
「え、いそうなのに?」
「名前、追い討ちって知ってっか?」
「容赦ねえなー」
「でも真のことそう思ってるんだろ」
「オマエら好き勝手言うなよ!!」
顔整っていると思うのに意外だな。
へー、なんて佐野を見るけれど、佐野はぷいっと顔を逸らした。
「名前は?彼氏いねえの?」
今牛の問いにうーんと首を傾げる。
彼氏ねえ……何度か告白されて付き合ったことはあるけれど、結局ひと月もたないで別れてるんだよな。
理由としては自分勝手なやつが多いというか。
私は自分がマイペースなのはわかっているし、他人に合わせるのはぶっちゃけ苦痛だ。
それを話して断わろとしても押して押して押して来るもんだから仕方なく首を縦に振ることもあった。
絵を描きに行きたいのに無理矢理手を引いて街中に連れてかれたり、無理矢理キス迫ったり。
その度に彼氏だったやつの横っ面に遠慮なく平手打ちをした覚えがある。
それが三人続いてもう彼氏とかいっか、って思ってるからなあ。
「じゃあタイプとかは?それくらいあんだろ」
「ないかな。彼氏いなくても困らないし」
「名前らしいな」
佐野だけじゃなくて明司も今牛も荒師もいそうだけどね。
顔を真っ赤にして黙り込んでしまった佐野を余所に四人で話しながら歩いていると駅に到着した。
屋根のあるところまで入り、今牛と荒師からは荷物を受け取り、明司からは明司の傘を受け取る。
本当に傘いいの?
「いいんだって、たくさん傘あんのは本当だしな」
「今度返しに来るよ」
「おっマジか。じゃあその時出かけようぜ」
そのままこの日にしようと明司と決めて、自宅の連絡先を教えた。
今牛も荒師も都合がつくらしいからどうせならこのメンバーで出かけようか。
都内にあまり来ないから案内してもらったら楽しいだろうな、行く機会の少ない大きな画材屋さんにも行きたい。
「送ってくれてありがとうね」
「いいって、またな」
「今度は絵を見せてくれよ」
「気をつけて帰れよ」
手を軽く振り、黙ったままの佐野の顔を覗き込んだ。
顔あっか、ピュアかオマエは。
「佐野、またね」
「お、おう!またな福寿!」
赤い顔のままだけど、太陽みたいに笑った佐野につられて私も少し笑う。
それに四人が目を丸くしたけれど、軽い足取りで身を翻して駅のホームに向かった。
灰谷兄弟の親戚のおねえさん
初代黒龍と出会っていたらな世界線。
以前不良に絡まれた時に佐野真一郎に庇ってもらったけれど逆に殴られた佐野くんに代わって不良に重いものが入った鞄をぶん回した。
都内に出て会う頻度も増え、武臣さん、ワカさん、ベンケイさんとも関わるように。
後日五人で都内で遊ぶ。
初代黒龍の皆さん
カッコつかない出会いだったけれどおねえさんからの好感度が高めの佐野真一郎、多分ピュア、そういう会話苦手そう。
武臣さんもワカさんもベンケイさんもおねえさんと話すの楽しく感じる。
おねえさんと遊ぶ約束をした武臣さん、さすが軍神。
その頃の灰谷兄弟 小学生の姿
……今、ねえちゃんがこっちに来てるような気がする!
探しに行こうぜ兄ちゃん!
残念ながら帰った後です。