静かに開いた障子、音なく畳を滑る足、いつもより動かない表情、冷たい目。
いつもとは違う雰囲気に思わず息を飲む。
御堂さんは静かに後ろ手で障子を閉めると、畳を滑るように私のところへやってきて隣に腰を下ろした。
何かあったのかな……いつもより表情が険しいような気がする。
私の腰に腕を回して抱き寄せ、その手で私の頬に触れた。
なんか、怖い。
冷たく節くれだった頬の上を滑り、擽るように撫でていく。
どうしよう、声をかけようかな。
いつもより体に回る腕が強い、それとなく身動ぎをして体勢を変えようと思ったらそのままひょいと抱き上げられた。
やや乱暴に膝の上に乗せられて、さっきと同じくらいか少し強い力で抱きしめられる。
く、苦しい……
絶対何かあったやつ、私を巻き込まないでほしい。
御堂さんは私に腕を回しながら、器用に私の腕を自分の首に回すように誘導した。
ええっと、これは……こう……?
おそるおそる腕に力を入れて、御堂さんを抱きしめるようにすれば、少しだけ御堂さんから力が抜けた気がする。
……怒っていた、のかな?なにかに。
特に深く考えていたわけじゃない、でもこうしたらいいのかなって思って。
そっと御堂さんの髪に触れた。
後ろへ流すように整髪料で整えられちょっと硬い髪質、触ったことなかったかも。
何度か繰り返し、その手を御堂さんの頬に滑らせる。
そこで改めて御堂さんの顔を覗き込んだ。
さっきよりは柔らかい表情になったかも……?いつも見慣れているものに近くなったかな……?
御堂さんは目を少し丸くすると少しだけ目を弓形に細めた。
「すまないね……少し痛かったな」
ゆるしておくれ、と私の頬に唇を寄せる。
よかった、少し機嫌が直ったのかな……?
別に御堂さんの機嫌が悪かったからってやったわけじゃなくて。
ただ機嫌の悪い御堂さんに抱きしめられたら苦しかったから、それが嫌でやったわけで。
かさついた御堂さんの唇が私の頬に、額に、唇に落ちてくる。
それから「私にもしておくれ」と頬を差し出すように向けるもんだから、御堂さんの頬に手を添えて応えれば、少しだけこそばゆそうに御堂さんが肩を揺らした。
お互いに何度かそれを繰り返していくと、いつの間にか唇を何度も重ねていて。
唇を食まれるように柔く歯を立てられる、ぬるりと唇の間から熱い舌が入り込んで私のそれに絡みつく。
感覚でも麻痺したのだろうか、不思議と嫌とは思わない。
自然と御堂さんの首に腕を回して言葉はなくとも「もっと」と強請ってしまう。
何度も何度も浅く深く唇を重ね、気が付いたら御堂さんの膝の上で抱きしめられていたはずなのに畳の上に押し倒されていた。
「明るい時間だと何をしなくても君のことを暴けてしまいそうだ」
……でもそれは、御堂さんは自分を自分から曝け出すことになるのでは?
思っても言わない、なんかそんな雰囲気だもの。
私を見下ろす御堂さんの紫がかった目が存外優しく細められる。
いつまで経ってもわからない、なんでそういう目を私に向けるのか。
ああ、でも、受け入れている自分が当然のようにいるの。
嫌とは思わない、だからって好きってわけではないはず。
ただ、そう……満たされる感じがするんだ。
それに名前を付けることはできないけれど。
御堂さんが私の頬を撫で、それから首筋を撫でて着物の襟に手をかける。
明るいのはやだな、と思いながら自分から御堂さんに手を伸ばせば優しくその手を絡め取られた。
「今度は私が君をとびきり甘やかしてあげよう」
名前は甘えるのが好きだろう?とわかり切ったことばを口にするなんて意地悪だと思う。
