「よぉ名前、サボりかぁ?」
「げっ……伊武さんじゃん……」
あー疲れた、今日は変な客少なくて助かるけども。
そんな気分で溜め息を零しながら煙草を咥えて火をつける。
店の裏で適当に積んであるビール瓶のケースに腰かけ、大きく息と共に煙を吐き出した。
ここら辺は物騒だ、治安最悪、パタパタ人が死んでんじゃないかってくらい、半グレとかヤクザとかの喧嘩が酷い。
その街に店を構えているからうちも巻き込まれないわけがなく、まあ腕っ節にはそこそこの自信しかないけどここで住み込みで用心棒をしながら働くようになったわけで。
そんな折に会ったのが伊武さんだ。
初対面で喧嘩よ喧嘩、口じゃなくて殴り合いの。
河内組がケツ持ちするから守り代納めろって話に納得しなかったから、私が。
私がいんのに必要なくね?って思うじゃん。
気に入らねえじゃん、私が。
ので殴り合いしました。
勝敗?その時伊武さんと一緒に来てた柳楽さんに止められたから引き分けってことで。
「サボりじゃなくて休憩。マスターが今は客少ないからいいって」
「じゃあ俺も休憩しようかなあ」
何故そうなる?
私の隣に腰かけた伊武さんが煙草、と手を出したからポケットに入れていた煙草とジッポを取り出して乗せる。
慣れた手つきで煙草を取り出し、それを咥えて伊武さんが「ん」と煙草を指差した。
いやつけねえよ?ジッポ渡したじゃん。
煙草を咥えたまま、やだよ、と言いかけたところで首の後ろに手を回されてそのまま引き寄せられる。
突然の事で動けなかった。
目を丸くする私から見えるのはめちゃくちゃ近い距離で伏せ目がちの伊武さんの顔。
お互いの煙草を先端がくっついていて、思わずそのまま少し吹き出せば伊武さんは息を吸ってそのまま私の煙草から自分の咥えた煙草へ火を移す。
火がついたところで首の後ろに回された手が離されて、勢いよく距離を取るように身を離せば私の体はケースからひっくり返った。
辛うじて煙草を口から離さなかっただけ凄くない?
「な、ななななななな……!」
「はは、つれねえなぁ」
「ば、っかじゃないの!?」
なんなのこの人!
あれじゃん、シガーキスじゃん。
マジでなんの脈絡もなくするの何事!?
満足そうに笑った伊武さんがひっくり返って尻もちをついた私に手を差し伸べる。
その手を取って転がしてやろ、と思って力を入れて引っ張るも伊武さんはなんてことはないようにそのまま私の手を引いて私を立たせた。
「お前意外と初だな」
初だろうがなかろうがいきなりそうされたら誰でもひっくり返るくらいびっくりすると思うけど。
いや、まあ、顔近かったし、意外と綺麗だなとか、思ってない、思ってないったらニマニマすんな!