特別な日をあなたと

本当にうちでよかったの?
そんな私の言葉に吏来はにこにこしながら頷いた。
明日は吏来の誕生日、ないかしたいこととか欲しいものある?って聞いたら「名前の家に泊まりたい」だって。
私の家でできることなんて、そんなに多くないけれど、何回か聞いてみても答えは変わらないので、私なりに改めて吏来をおもてなししてみよう。
吏来がうちにやって来たのはお昼前から。
ちょっとうちでコーヒーを飲んで、他愛ない話をして、それからランチは外へ出る。
私の家の近くにあるカフェのランチが美味しいんだよって話をして、そのお店に入った。

「こうやって明るい時間から一緒なのは珍しいかもね」

「お互い仕事の関係で夜に会うのが多いもんな」

ランチメニューのサンドイッチを食べ、この後どうしたいのか吏来から詳しく聴取する。
どうやら、なにかこれを、というわけではないらしい。
ただ、私と過ごしたいんだって。
その素直でまっすぐな言葉に顔に熱が集まるのがわかる。
そうだ、吏来は確かに惚れやすいし与えたい人だけど、与えられたくないわけではないんだ。
なんなら、私からはなんでも欲しいのかな……?
いや、あの、こう思うのは自意識過剰なのかもしれないけど。
私でいいのなら、と小恥ずかしくなりながら言えば、吏来は「名前がいいんだ」と穏やかに笑った。
でもどうしようかな……おうちデートってやつ……
どちらかというと私の家でより、吏来の家で過ごすことが多かったからなぁ。
ランチを終えて、カフェを出る前に吏来が口を開く。

「名前の作ったご飯が食べたいな」

……難易度高くないですか?
吏来みたいに美味しくておしゃれなメニュー作れないよ、だったらデリバリーか食べに行く方がいいんじゃない?
と言ってみても、吏来は緩い表情で同じ言葉を繰り返した。
そりゃ……基本的に自炊だから作れないわけじゃないんだけど……!
吏来に、作るっていうのが、難易度高く感じて……!

「……なに食べたい?」

私の言葉に吏来はわかりやすいく表情を明るくする。
うう……かわいい笑顔……!
私には断れない。
さらっとランチは吏来が奢ってくれた。
……これは、腕によりをかけて夜ご飯を作らなくては。
家に帰る前に買い物してもいい?と吏来に聞けば付き合うよ、と私の手を取る。
自然と指を絡める握り方に、照れる前に嬉しいと思う自分もいて、それを握り返すように少し指先に力を入れると吏来が私よりも嬉しそうに笑った。
寄ったのは最寄りのスーパーだ。
自炊でほとんど決まった食材や、家での飲むお酒とおつまみを買いに愛用している。
買い物かごを手にすると、当然のように吏来がそれを取り上げた。

「こうするとさ」

「うん」

「……俺たち新婚みたいだね」

……しんこん、シンコン、新婚……?
その言葉にひょわ、と変な声が喉を通っていく。
いや、あの、えっと、ま、まだ入籍してないよ……?

「り、吏来どんなもの食べたい……?」

「名前が特別な日にひとりでも作っているものがいいな」

吏来の言葉を聞かないフリをして、夜のリクエストを聞いたら難しそうなリクエストがきた。
自分が特別な日に作っているもの、かあ。
いくつか今日はこんな日だからこれ作ろうかな、ってものはあるけれど、何がいいかな。
季節を考えると、夏らしいものがいいよね。
それに、ただお酒のおつまみになるようなものじゃなくて、少し上品なもの……ビールに合うよりワインに合うもの……
吏来とゆっくりスーパーの中を移動して、これとこれと、それからあれ……と頭の中でメニューを考えながらかごへ食材を入れていく。
さすがに何を作るのかすぐにはわからないとは思うけど……!
簡単に和えるだけのものもあるから、そこまで時間はかからず作れるもんね。

「わくわくするなあ」

「ほんと?それならよかった」

まだ作り始めてもいないけれど、今の時点で吏来は本当に嬉しそうだ。
思い返せば、去年初めてしっかりとお祝いができたからね。
それまでは吏来には恋人いたし……あ、変にマイナス思考になるからやめとこ。
こうして吏来からこうしてほしいって言われるのは初めてなんだよね。

「帰りにはケーキ屋さんよってもいい?ケーキだけは予約しておいたんだ」

「……本当?」

「甘すぎないケーキにしておいたからね。今日でもいいし、明日でもいいし、一緒に食べよう」

目を丸くした吏来、だんだんと口元が嬉しそうに震えてくる。
買い物を終え、吏来が買い物袋を手に私の手を握る。

「名前に無茶ぶりしすぎたかなあって思っていたんだけど、すごいね名前は」

「だって、好きな人のお誕生日はしっかりお祝いしたいしね」

「……やばい、もう泣きそう」

「リクエストの料理もまだ作ってないし、日付も変わってないんだから早いよ」

手を繋いだまま、信号待ちのタイミングで吏来が私の頭に頬を寄せる。
真夏で暑いけれど、意外とそんなものは気にならなくて。
家に帰ったら、夜ご飯の支度を始めるまではクーラーの効いた涼しい部屋でのんびりするのがいいかも。
会話はなくても一緒にいるだけで満足だし……あ、この夏にどこか行きたいねって話をしていたから、一緒に調べるのもいいよね。
ほら、早く帰ろう。
私からのプレゼントは一緒に過ごしたいって言ってくれたから。
信号が青になり、吏来を促すとありがとうって、とても柔らかく笑ってくれた。
ちょっと早いけれど、お誕生日おめでとう吏来。
一緒にいるから今日と明日が吏来のお誕生日みたいなものだよね。

 

2026年7月25日