男子とは思えない悲鳴が聞こえたのは昼休みの時間だったろうか。
その悲鳴の後に聞こえた名前で誰が原因なのかわかったわけだが。
「佐久間ほっそいねー、ちゃんと食べてる?私より細いじゃん」
「お、おま……!いきなり何するんだ!!」
「魅惑の細腰を掴んで見たかった」
声のする方向を見れば、佐久間と名前がじゃれていた。
佐久間の背後から腰を掴んでいる名前。
……ああやって並ぶと初見では男女が逆に見えるのはなぜだろう。
佐久間は髪の長さとその綺麗な顔立ちから女子に見られることも少なくもない。
反対に名前は女子にしてはとても短い髪に、同い年の生徒の中では高いであろう背に男子に見られることがほとんどだ。
2人とも規定の制服を着てはいるが、体育や部活のジャージ姿になれば男女逆転してるように見える。
「名前がゴツ過ぎるんだよ」
「鍛えてるから!」
佐久間の腰から手を離して腕を見せつけるように動かしてニッと笑った。
俺もそこへ加わるように近づけば2人揃って俺の名前を呼ぶ。
「名前、セクハラで訴えられても知らないぞ」
「やだなー、中学校の女子生徒が男子生徒へのセクハラ行為で送検とか」
「リアル過ぎる……!」
あっけらかんとして言う名前と想像したのか嫌そうな表情をする佐久間。
……しかし、男女逆転してるからカップルに見えなくもないな。
名前の体格は身長もあるし、部活の筋トレやらで鍛えてどちらかというとがっちりしてる。
からかうように言っても自慢されるもんだから逆に落ち込む男子もいるんだよな。
「でもさ、最近ちょっと困ったことがあってね」
「珍しい」
「源田、あまり突っ込むとロクなことない」
「おっぱいが大きくなってきた」
噴き出したのは俺と佐久間だけじゃなかった。
やけに教室に響くようになったその言葉は、他のクラスメイトの耳にも入ったらしく、弁当を食べてる途中のやつや、談笑してるやつも、顔を真っ赤にして視線を名前に向ける。
俺も顔が赤くなってる気がする、熱い。
カッと顔を赤くした佐久間は何か言いたげに口をパクパク開閉させるがなかなか言葉が出ない。
「なんかね、ブラウス着る時にボタンするとキツく感じるようになったからさ。練習で着てるアンダーとかも」
「名前」
「おじさ……じゃなかった、総帥に相談したら新しいの用意してくれるって言ってはいたんだけど」
「名前」
「走ったりすると揺れて痛いんだよねー」
「おま、お前は女子だろ!!話の内容慎め!」
俺が名前の話を止める前に佐久間がキレた。
赤い顔のままだから威圧感なんてものはないが。
気のせいだろうか、視線がチラチラ胸元に向けられている。
いや気になるが。
名前の口から言われたら気になるが。
というか総帥に言ったのか、さすがにあの人が頭を抱える図が浮かぶ。
佐久間の顔が赤いのを指摘して名前がケラケラ笑い、それに対して佐久間が怒鳴った。
いつも名前が主導権を握って話を進めるもんだからこういう展開に慣れてはいるが、今日の内容はまた一段と……濃いというか……
「源田は佐久間よりがっちりしてるよね」
「……ああ、まあな」
「名前!お前ちょっと話聞け!!」
……鬼道を通して総帥に報告した方がいいんじゃないだろうか。
あなたの姪が公衆全面でこんな話してました、と。