「USJ?」

「ウソの災害や事故ルームの略」

懐かしいな、同期たちと「マジモンのUSJみてえええええ!」って騒いでたら誰か水難エリアで溺れてた気がする。
あの警報が鳴って、しょーちゃんや他の先生たちが職員室から出ていったのをいいことに、カリキュラムの一部を失敬してきた。
年間のカリキュラムだし、これがあればしばらくは雄英に行かなくても済むだろう。
妹を一目見ようと思ったけどあんな騒ぎじゃ無理だったし、カリキュラムを持っていった後ろめたさからあのまませんせーを待つのも罪悪感があって、そのまま騒ぎに紛れてここへ戻ってきた。
門を崩した死柄木は置き去りにしたけど。
なんで私が待たなきゃならんのか……ひとりで帰ってこい。

「お前、ちゃんと個性使えるんだろうな?」

「何、今さら。それ目的で私をここまで引きずり込んだんでしょう」

何言ってんだこいつ。
アホか、と溜め息を吐いて死柄木を見る。
すると死柄木はおもむろに私に手を伸ばした。
五指で触れたものを崩す個性。
でも私を殺すとは思えないからそのままじっとしてその手の行く先を見つめるだけ。
死柄木の手は私も伸ばしっぱなしの髪を一房、無造作に掴む。
ボロボロと崩れる髪。
それは掴んだところから先がボロボロに崩れ、その残骸が床に落ちた。
ああ、なんか不格好じゃないか。
伸ばしっぱなしだったし、傷んでいたけど私だって女の子なんだけど。
鏡で見たらおかしい状態なんだろうな、なんて人事に思ってると今度は手首を掴まれる。
器用なことに、中指は触れていない。

「迷ってるだろ。母校だからか?妹がいるから?憧れのヒーローがいるから?」

「……」

「迷っていようが計画通りに襲撃は行う。ちゃんとその使い道のある個性で脳無を強化しろ。ついでに俺と黒霧もだな」

「一度に3人できるわけないだろ、私がぶっ倒れるわ」

「できるできないじゃない。──名字名前、お前はやるしか選択肢がないんだよ」

ほんと自分が嫌になる。
どこで何を間違えたんだろう。
ヒーローになるためにあの学校に通っていたのに、なんで今は敵になったんだろう。
何を、間違えたっけ。
なるべく無表情を装っていたけれど、顔に貼っ付けている手の指の隙間から覗く赤が私を見ていた。
逃がしはしない、とでも言いたそうに。

2023年7月28日