目が合った。
敵と思い、殴りかかったが難なく避けられ、ついでに主犯格の男を引っ張った彼女は声には出さなかったが私と目が合うと何かを呟いた。
それが馴染みのある言葉だったから、彼女の表情が追い詰められていたから、彼女の──名字名前さんの立場をなんとなく察することが出来たのだろう。
助けを求める表情だった。
泣き出しそうな表情だった。
よく見たことのある表情だった。
敵を吹き飛ばした直後に倒れたから、それ以上はわからないが、なにか事情があって敵として今回立っていたのだろうか。
「名字名前……確か、指名手配されているあの敵の娘さんだったかな」
「ああ……雄英を卒業した後、スカウトを全て蹴ってフリーターをしているのは担任だった相澤くんから聞いたが」
保健室で塚内くんが椅子に腰をかけて唸る。
オール・フォー・ワンとはまた違った凶悪さで知られているとある敵。
彼に娘がいるとわかったのは2・3年程前だったか。
その娘が雄英の生徒だとわかったのも同じ時期だ。
なぜ敵が彼女を引き込んだのかはわからない。
考えられるのは、彼女の個性だろう。
自分の身体能力と他人の個性を〝強化〟することができる個性。
個性持ちなら欲しいと思えるような個性だ。
推測だが、あの脳無という敵にも、他の2人にも個性を使っていたのかもしれない。
おそらく他人に使用する場合は制限があったりするのだろう、でなければ何もしていなかった彼女が倒れるとは思えない。
「彼女が住んでいたアパートはものけの殻……既に退去した後だったよ」
「A組の名字少女は行き先を知っていないだろうか?」
「……あの子、自分の従姉が敵だったことに混乱してるんだろうね……塞ぎ込んでいて、話ができる状態じゃない」
プロヒーローの方の名字さんにも連絡は取ったけど、仕事が終わったらこちらに顔を出すそうだ。
塚内くんの言葉に頭を悩ます。
打つ手が見当たらない。
彼女は私を見て求めていたのに、それに応えることができない。
確かに彼女は口にした、ヒーローに求めていた。
──たすけて、と。
きっと、今まで言えない言葉だったのだろう。
あんなに、辛そうに顔を歪めて、声に出せなくて。
なぜ敵連合にいるのか、まさかと思うが父親がいるのか、それとも別の何か……例えば弱みを握られているとか。
「塚内くん」
「なんだい、オールマイト」
「彼女、〝たすけて〟って私に言ったんだぜ」
「……そうか」
「好き好んで敵になったんじゃないんだとしたら、ヒーローが助けるべきだろう」
嘗てはヒーローを志していた少女。
その声を私は聞いたのだから。
たすけてと、求められたのだから。