ねえ黒霧、ひとつ頼みがあるんだけど。
1時間だけでいいから外に出ていいかな、別に警察行ったりヒーローの事務所行ったりはしないよ。
もちろん、顔も割れてるから手配されてるだろうけど、捕まる気もさらさらない。
昨日のUSJでぶっ倒れるまでお前らに力貸したんだから御褒美くらいもらってもいいでしょ?
なんてとてもお願いというか強要というか、そんな感じで外に出て大体15分かな。
人目を気にしつつ、やって来たのは小さな頃よく遊んでいた公園。
もう暗いから子どもも大人も1人もいない。
キィキィとブランコを揺らしながら俯く。
……らしくなかったかもしんない。
思わず、あこがれであるヒーローが目の前にいて、この人なら気づいてくれるんじゃないかって、口にして。
死柄木にも黒霧にもそれが見られなかったのが救いだろうか。
気づかれたら後が面倒だな、仕事増やされる……ほぼ軟禁に近いけど。
「……名前」
不意に名前を呼ばれて顔を上げた。
包帯を巻いて……というより包帯に巻かれてそうな量だなおい。
公園の入口に立っていたのはしょーちゃん、相澤先生。
「復帰が早いね、プロヒーロー。昨日の今日なのに」
うちのあれは相変わらず痛い痛いって喚いているってのに。
撃たれただけで死にゃしないのにさ。
ブランコから降りて、背筋を伸ばしてしょーちゃんと向き合う。
この前は、教師と教え子。
昨日は、ヒーローと敵。
そして今日は、どんな立場なんだろうか。
包帯の隙間から覗く目は私を咎めるようで、表情が見えない分なんだか寂しく思ってしまう。
「ここなら今でもしょーちゃんが通るんじゃないかなって待ってた」
「そうか……それがわかってたなら、何人かヒーロー連れて来たんだがな」
「連れて来ないでしょ、しょーちゃんは。なんだかんだ私に甘くしてくれるからさ、そんなことは滅多にしないよ」
「その根拠は?」
「ちっちゃい時から甘やかしてたから?」
私を育ててくれたおじさんおばさんが従妹に手一杯で構ってくれないって拗ねてた私と遊んでくれたのはしょーちゃんたちだったじゃないか。
その私の言葉に呆れたようにしょーちゃんは溜め息を吐いた。
「あとね、ひとつだけ、伝えておこうかと」
「は?」
元の関係にちゃんと戻れるとは思わない、思えないから。
時間のある今のうちに。
幼い頃からずっと大切にしてきたものを伝えなくてはと、そう思ってここに来たんだ。
「私さ、ずっとしょーちゃんのこと好きだったし、これからも好きだよ」
これだけは、嘘なんかじゃないから。