「他の皆さんは思い思いに散ってるのにあなたは散らないんですね」
「嫌味か。行く場所なんてないから散る必要もないでしょ」
さっき死柄木とコンビニ行ったくらい。
会いに行く人もいないし、やりたいこともないし、別にいっかなって思う。
じわじわと、自分の何かが変わってるような気がするけれど。
そういえば、私を雇ってくれていた喫茶店のご夫婦は元気だろうか、雄英生も寄る場所だから、何かあれば頼るだろうな。
妹も、よく来てくれてたし。
コンビニの袋から買ってもらったプリンを取り出して封を開けた。
最近、あいつが私に甘くて戸惑うんですけど。
「お酒以外を口にするのが珍しく見えますね」
「酒以外も飲むし食べるから」
「そういえば喫茶店のパートでしたね」
「ケーキとかスイーツ作れるし紅茶も美味しく用意できるから」
「……」
「意外、っていう顔してんのわかってんだからな」
一人暮らしもしていたし、そういうのは得意だ。
ぺろっとプリンを平らげて、空いた容器をそのまま袋に入れる。
……なんだろう、なんか、変だ。
ここのところ、気が楽……?そんな感覚がする。
少し前まではしんどくてしんどくて、凄く辛かったのが、なんでだろう、少し、楽。
それを私以外に感じているのは死柄木と黒霧とトガとマグネくらいだろうか。
死柄木のあの軟化した私への態度や言動とか、トガとマグネの増した気軽さとか、黒霧はあまり変わらないみたいだけど……なんか、いつもと違うような。
なんだろう、この違和感と、変な安心感。
……安心感?何に対しての?
缶コーヒーのプルタブを開けて、それからサッと心臓から血の引くような感覚。
わかった、この場所に安心してる。
嫌だったのに、敵という立場が嫌で嫌で仕方なかったのに!
「どうしました?」
「……なんでもない」
毒されてる。
ヒーローに見捨てられたという結果に、その私に対して掌を返したかのような甘さを与えるこの状況に。
駄目だとわかっているのに。
頭じゃ理解してる、駄目だってのに。
心じゃ安心してる、ここが拠り所と。
体が冷えていく感覚を誤魔化すように、少し温くなった缶コーヒーを口にした。