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名字名前。
雄英OG。
個性は〝強化〟で自分自身の身体能力だけでなく触れた他人の個性を任意で強化することが可能。
生まれてまもなく母方の名字家に引き取られ、従姉妹たちと育つ。
父親は、オール・フォー・ワンに次ぐとも言える──通称〝Mr.ストレングス〟という敵。
本人も、その事実を知ったのは卒業間近だった。
それが、ヒーローへの道を閉ざしたのだろう。
周りからの反応と、自分の心と頭のギャップが彼女を追い詰めたのかもしれない。
自分はヒーローになるんだと意気込んであと少しで実現するんだという時に、自分の親が敵だと知った彼女はどう思ったのだろうか。
きっとそれは、誰も知ることはない。
治療を受けながら、空いた時間で名字名前の資料に目を通す。
助けてと、USJで彼女は口にした。
助けてと、あの場で手を伸ばした。
──応えられなかった。
最初は事情を察するのが遅れて後手に回ってしまったから、次こそはと思っていたのに。
最後の最後で、その手を掴むことができなかったのだ。
私はオールマイト、NO.1ヒーローだと、平和の象徴だというのに。
闇に飲まれそうな女性ひとり、引っ張り出すことができなかった。
オール・フォー・ワンとの戦闘だった、なんてのはただの言い訳だ。
心のどこかで、彼女の身の上を知って、敵の子は敵だと思っていたのかもしれない。
無意識のことだ、そんなこと思ってなんかない……なんてのは、自分で言うのは簡単だろう。

「敵連合も拠点を変えただろうからすぐ探しに行くのは無理だ」

「……そうか」

「……残念だけど、彼女のことはもう敵として処理するしか──」

「もう少しだけ猶予がほしい!私が助けると決めたんだ、投げ出すわけには……」

「……わかった、掛け合ってみるがあまり期待はしないでくれ」

塚内くんが新しい資料を渡しながら頷く。
あと、雄英高校の教師として気にするのは……名字名前さんの妹、正確には従妹の名字少女だ。
プロヒーローである従姉の名字さんは問題ないだろう。
すでに調査を開始して新たな敵連合の拠点を探し始めているかもしれない。

「でも、敵の……しかもあの〝Mr.ストレングス〟の、娘だなんて……あの子はどんな気持ちだったのか……」

「……少なくとも、いつも助けを求めていたのだと思うよ」

助けを求める顔をしていたのだから。

2023年7月28日