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いつか誰かが気づいてくれると思って叫んでいた。
けれど、気づいてくれていても、誰も応えてはくれない。
もしかしたら、私は元々存在しなかったのかもしれない。
そう思うくらい、現実は残酷だ。

「いつまでそうしてるんだよアル中か」

「……うるさいな」

「その年でそれはどう考えてもおかしいだろ」

「成人してからはいつもこうだから別におかしくない」

ショットグラスの最後の一口分を煽ろうと思ったら横から取られてあっという間にそれは塵になった。
ガラスだったそれは原形がわからないまま隙間風に攫われて消えていく。
いつもよりやけに縮まっている距離に不思議と嫌悪感は覚えない。
それほど精神的にキてるのかも。
素顔を晒したままの死柄木がわざとらしく溜め息を吐いて私にペットボトルを差し出した。
……今日は血の雨でも降るのだろうか。
受け取るのを躊躇っていると、舌打ちをしてそれを私に押し付ける。
冷たい。
ちゃんと掴むのも億劫に感じながら受け取って、ぱきっと音の鳴る蓋を外して中身を口に含んだ。
味も匂いもなにもない、ただの水。
今までが今までだったから変なもん入ってるとか思ってたけど、きっと入っててもこうやって口にするような気がする。

「いつにも増してブス」

「……うるさい」

目を弓形に細めて死柄木が笑う。
どうせ泣きすぎて目は腫れぼったいし顔は浮腫んでますよ。
髪だってぼさぼさになってるし。
声だって酒飲みすぎで少し焼けた感覚がして気持ち掠れているし。

「けど前のお前と比べたら、今が可愛げあるよなあ」

「うるさいっつってんじゃん」

「褒めてるんだよ」

「いらない」

「素直に受け取れば楽だろ」

思わず息を飲んだ。
それは言葉もだし、現状もなのだろう。
頭ではわかってる、もうここから抜け出せない、でもここにいてはだめだって。
けれど心は全く違う、ここにしかいる場所ないって、もう憧れてたところにはかえれないって。
ぐちゃぐちゃになりそうな顔を誤魔化すように顔を伏せると、死柄木がそんな私の肩に腕を回し、宥めるようにぼさぼさの髪を掻き回す。
少しも髪が塵に崩れないのは器用に五指で触れないようにでもしてるのだろうか。

「可哀想な名前」

うるさいうるさい。
可哀想なんかじゃない。
可哀想なんかじゃない、はずなのに。
ぐいっと体を引き寄せられて、死柄木の肩に顔を埋めた。

2023年7月28日