黒霧はとても困っている

「重い痛い退け」

「お前より軽いし細いし退く必要はない」

死柄木の言葉の直後、その顔面に名前の拳が叩き込まれた。
……ああ、また始まった。
ソファーで惚けていた名前に伸し掛るように体を寄せていた死柄木が毎回名前に殴られる……そこから「この暴力女……!」「あんだとびっくり手だらけ男が!」なんて綺麗な流れで始まる喧嘩。
最近ではマグネやトゥワイスが止めに入るが名前のグーパンに沈む回数の方が遥かに多く、止めきれない。
今回もぎゃいぎゃいと殴り合いが本気の殺し合いになる前に死柄木をトガが、名前をMr.コンプレスが止める。
マグネと荼毘が倒れたテーブルや椅子を直し、床に落ちる寸前でキャッチしたグラスをスピナーが置いた。
トゥワイスは名前に殴られたことのある頬を押さえて壁際に避難している。

「どけエセマジシャン、喧嘩売ったのはそいつ」

「いやいや、それでも不意打ちのグーはだめだって」

「弔くん」

「あ!?」

「名前ちゃんに構ってほしいからってちょっかい出しちゃだめですよ」

……は?
トガ以外が動きを止めた。
指摘された死柄木とコンプレスに制止されている名前の表情が変わる。
名前は何言ってんだこいつとでも言いたそうに眉間に皺を寄せ、実際トガに同じような言葉を向けていた。
本当に怒ると口が悪い。
一方の死柄木は、赤かった。
隠していたものがバレてしまったかのような、恥ずかしいというような、そんな表情。
きっとその表情を見たのはトガと私だろう。
すぐに死柄木は体を翻すと壁際に置かれている椅子に座る。

「名前ちゃん」

「あ?何?」

「あまり邪険にしないであげてください」

「知るか」

コンプレスに殴りかかる寸前だったらしい名前はその手を下ろすと自分のスペースになっているソファーに戻った。
……なんというか、コメントに困る。
微笑ましげにしているのはトガとマグネで、他は驚きの表情だ。
いやでも本当に、困る。
何がとは言えないけれど。

2023年7月28日