危ないから避難を、という声や悲鳴が遠く感じた。
割れた空間から現れたのは見たことのないポケモン……いや、ポケモンではないのかもしれない。
野生ポケモンとだって対峙してこんなにプレッシャーを感じることはないもの。
「──綺麗」
口をついて出たのはその言葉。
それが目の前の存在に届いたのかは知らない。
けれど、目が合った。
確かに私と、あの不思議な綺麗な目が。
透き通るような体は細く、人の形をしている虫を思わせる。
突然現れたそれは、何もせずそこに佇むだけだ。
動こうとも、何かに触ろうともしない。
島キングのハラさんがカプ・コケコとその存在と対峙していた。
それから始まる攻防。
素早く力強い。
あんなに綺麗なのに、さらに強いなんて。
思えば一目惚れだったのかもしれない。
いつの間にかバトルは終盤を迎えていたのか、現れたそれは肩で息をし、そして背後に開いた空間に体を投げた。
──待って。
自然と体が動く。
ハラさんとカプ・コケコの間をすり抜けて、それが向かっていった先へ。
──待って。
怖くはなかった。
それは驚いたように目を丸くする。
──待って。
まだ知りたいの。
君がどんなポケモンなのか、ポケモンじゃなくてもどんな存在なのか。
だって、君みたいに綺麗で強い存在に出会ったことがないから。
「────」
後ろから名前を呼ばれる。
けれど全く気に止めることすらできなくて。
私の五感は目の前に奪われている。
臆することなく、恐怖することなく、私は空間に飛び込んだ。
目を覚ますと不思議なところにいた。
白い砂漠。
あちこちにある岩も白く、中には宝石のようなものもある。
綺麗なところ。
ふと、自分の影がかかる。
横になったまま視線を上に向けると、追いかけたものがいた。
心配そう……になんてはしていない。
ただ、起きなかった私を観察していたのか。
表情は変わらず、澄ましたもののままだ。
ぱちりと最初のように目が合う。
綺麗。
それは私の口から出ていたのだろうか。
綺麗な目を真ん丸にすると、細い手をを私に差し出す。
──どうやら、私は彼女……?に触っていいらしい。
嬉しくて頬が緩むのも気にせず、その細い手をそっと取った。