可哀想なくらいに怯えきっているのがすぐわかった。
俺を咎めるような視線がランバネインとミラから向けられるが、俺は何もしていない。
敢えて言うなら、名前が勘違いしているのだ。
名前の半分は近界民ではなく玄界だ。
それを知ったのが最近だったからか、やけに余所余所しく俺を見かけると視線を落とし、なるべく視界から外れようと通路の端に縮こまる。
さすがに俺も何回もそれをやられたら参る、ので、こうして会議室に呼び出しを装って話をしようと思ったのだが……
「……」
「……」
「……」
見事に何も進まない。
俯いている名前は気を緩めたら泣き出しそうな顔をしている。
「名前様、紅茶を淹れますけどお砂糖はどのくらい入れますか?」
「……なくて、大丈夫です」
ミラが気を遣って席を立った。
ランバネインも「手伝う」とミラを追って会議室を出て行く。
残されたのは俺と名前。
それでも、名前の怯え具合は変わらない。
何がそんなに怖いのか。
「……父上殿は息災か?」
「……はい」
……俺では話が続かない気がしてきた。
時折こちらの顔色を伺うように視線を上げているが、自分から口を開くことはないようだ。
向かい合ったまま、時間だけが過ぎていく。
そろそろランバネインとミラが戻ってきてもいい頃合だ。
それまでに、少しは話をしなくては。
「……ハイレインさん、は」
そんな時、ぼそりと名前が口を開いた。
「私が半分玄界の人間だってこと、どう思ってるんですか」
黒い瞳がこちらを見つめる。
迷子。
まるで迷子だ。
名前は確かにアフトクラトルで生きて、生活しているというのに、何も迷うことはないのに。
「特に何も思わない。名前は名前で変わらないだろう?俺は、その話より避けられたことの方がショックだったんだが……」
「う……すみません……他の人たちみたいに、冷たくされるの、怖くて……」
「……ほう」
誰だ、その連中は。
こっそりと名前から見えないところで、〝窓〟から盗み聞きしているミラとランバネインの雰囲気が変わったのがわかった。
名前はそのトリオン量からトリガー角をつけていないが、それは半分が玄界の血が流れてるというのもあったのだろう。
よく今まで露見しなかったなと思う。
「安心しろ。俺やランバネイン、ミラはお前が半分しか近界民でしかなくとも接し方を変えるつもりはない。父上殿にもお前を任されているからな」
「……ありがとうございます」
少し、雰囲気が和らぐ。
安心したかのような名前の表情に、こちらも思わず安堵の溜め息を吐いた。
……後日、大がかりな人事移動があったとだけ、報告しておく。
その対象者は何故か酷く痛めつけられていたとも。