体力めちゃくちゃ持ってかれた、子ども生んだ感想はそんな感じですはい。
もっと感動するような感想ないのかって言われるけれどほんとに、ほんとに体力すっからかんなんだって……やばいくらいげっそりしている自覚あるんだもん……
生まれた子は私そっくりの顔立ちで、キングの特徴を合わせ持った子だった。
私に似た男の子、可愛い、めちゃくちゃ可愛い。
背中の黒い小さな翼や炎にそりゃ体力持ってかれるわって思う。
ちなみに臨月に入ってからはパパやお兄ちゃんたちがいろいろと出産祝いを持って駆けつけた。
隙あればすーぐカイドウさんとキングにメンチ切るしなんならカイドウさんとは定期的にバトルする……やめてほしい、切実に、ストレスでしかない。
まあお兄ちゃんやクイーンが止めてくれるんだけど、いやー助かる助かる。
「抱っこしないの?」
「……ちょっと、心の準備をだな……」
何言ってんの?
これだよ、何日続けるんだよ。
キングに子どもを抱っこするか聞けば毎回これだ。
気持ちはわからんでもないけど、もう何日過ぎてると……?
まだ取り上げてくれた船医でもあるお兄ちゃん以外には抱っこさせていない。
だってお兄ちゃんはともかく、父親になったのはキングじゃん。
パパもカイドウさんも「おれが!」って言うけどだめって切り捨ててるのに。
おじいちゃんたちはまだお呼びでないんです。
子どもが近くにいるからか、グローブは外しているしジャケットもマスクも脱いでいるけれどなかなか動かないキングはそのまま頭を抱えている。
うーんと私も子どもを抱っこしたまま頭を悩ませ、こうなりゃ強行手段だ!とキングに手招きした。
私の横になっているベッドに近づいてきたのを見て、はい、と子どもを受け渡す。
私から見ても赤ちゃんは小さいんだから、キングから見たらもっと小さい。
「大丈夫だよ、意外とこの子丈夫な子だと思うし」
だって私とキングの子ですから。
丈夫なのは言わなくてもわかると思うんだけどなァ……種族的に。
ルナーリア族のハーフでミンク族のクォーターだよ?逆に脆いわけがない。
そういうことが聞きたいんじゃないだろうけどさ。
気休めだよ、気休め。
私から子どもを受け取ったキングは恐る恐る大きな手のひらで抱え直し、反対の手で子どもの頬に触れる。
ちっさ……キングの呟きに思わず笑った。
すぴすぴ眠っている子どもは見れば見るほど私そっくり。
これで耳とか尻尾があったら属性もりもりだったんだろうな……と口をきゅっと結んで思うだけにする。
「……ちっせェ」
「赤ちゃんだもん」
「おれの手のひらよりちっせェ……」
「逆にそんな大きな赤ちゃんっていなくない……?」
私が知らないだけかもしらないけど。
するとふにゃふにゃとキングの手に抱かれていた子どもが泣き声を上げた。
途端にキングが慌て始めるものだからちょっと面白くてそのまま傍観しとこ、と眺める。
どうすればいいって聞かれても、そのままあやしてあげれば大丈夫なんじゃないかな、多分。
赤ちゃんをあやす大看板……なかなか見ないなこんな光景。
「名前……!」
無理ですよと目が語るもんだから笑いを堪えたまま子どもを受け取ってゆらゆら揺らしながら子どもをあやす。
こう言っちゃなんだけど面白いものが見れた。
いい子いい子、とあやしているうちに子どもは泣き止む。
目はぱっちり開けているけれどじっとしている子どもの手にそっと触れてみれば、きゅっと握り返された。
可愛い。
今は背中に炎は上がらないけれど、泣き始めると上がるからなァ……気をつけよ……
授乳している時にそんなことになったら確実に火傷する、クイーンが防火性のあるおくるみとか作ってくれないかな。
確かに出産は命懸けと言うけれど、割りと本気で危機は感じた、よく無事で元気な子ども産んだよ私、頑張った。
産んだ後もある意味命懸けはちょっと……勘弁してほしい……
「泣き虫なのは名前に似たな」
「ええ……赤ちゃんは泣くのが仕事なのに?」
「仕事関係なく泣くだろお前は」
言い返せないわ。
ぐう、と口を噤めばキングは鼻で笑って私の頭を撫で、それから私の腕から抱いていた子どもを抱き上げる。
「代わる。ずっとチビを寝かしつけたりして疲れてんだろ、少し休め」
「……ん、よろしく」
「あ、でも泣き出したら起こしてもいいか……?」
「爆睡してたらごめんね!」
よく泣いてよくお乳を飲んで寝る子だから泣く時は泣くよ!
え、とそんな顔をしたキングとキングの手でうとうとし始めた子どもを横目にベッドに横たわって目を閉じる。
大丈夫、だってキングもパパなんだし。
思っていたより疲れていたのか、眠りに落ちるのはとても早くて。
次に目が覚めたのは盛大にほにゃほにゃ泣いている子どもの泣き声と慌てたようにキングが私の体を揺らしてからだった。
代わる代わる息子がカイドウさんや叔父貴の手に渡っていくのを見ながら大きく息を吐いた。
まだ日が浅いんだからあまり構い過ぎないでねと言ってベッドに横になる名前の目の下には薄らと隈がある。
まだ夜泣きなんかはないが、純粋に出産の疲労が残っているらしい。
……それもそうか。
半分とはいえルナーリア族の血が流れているわけで、いくら名前でも体力を根こそぎ持っていかれただろう。
加えて赤ん坊は二、三時間で空腹を訴えて泣く。
疲労も溜まっている名前にはかなり負担だ。
それに根を上げねェんだから、女ってのは強いな。
うとうとしている名前の頭を撫でてやれば弱々しくはあるが尻尾が揺れた。
一方で息子はぐずりはするがその度にカイドウさんと叔父貴があやしている。
……カイドウさん、手慣れてはいるんだけどな。
「名前そっくりだよなァ……ほら、じいじだぞ!」
「キングにもそっくりじゃねェか……おじい様だぞ言ってみろ!」
「……まだ話せねェよ」
誰よりも浮かれているのがそれぞれの海賊団のトップってひでーな。
思っても黙っとくか……
そんな賑やかさを余所に、賑やかな場が苦手な名前は気にした様子はなくいつの間にか眠っていた。
さっき欲しいモンはあるかと聞いたら間髪入れずに「睡眠」と答えるくらいだ、日中も起きていてもうとうとしていることが多い。
どのくらい名前が眠たいか、あのクイーンのカスがライブフロアでクソうるさくしても爆睡できるくらいだ。
「カイドウ、お前今のうちにちゃんと孫抱いとけよ。来週には名前と揃っておれのところに里帰りするんだからな」
「わかってるわかってる」
……そう、来週には名前は子どもと叔父貴のところへ里帰り予定だ。
もうすぐ年に一度の金色神楽を控え、例の二十年になる時期。
何もないとは思いてェが、名前への負担が大き過ぎるってことでその時期が過ぎるまではなまえと子どもは叔父貴のところへ身を寄せる手筈になっている。
例の二十年に関しては名前も知っているし、ワノ国の巡回に出た時に嫌な感じ凄くするからあまり行きたくない……としゅんと耳を垂れさせていたのは新しい。
全て終わった頃には帰ってくる。
名前が言い出したというよりも叔父貴が絶対そうしろとカイドウさんな念を押した。
叔父貴も金色神楽に参加はしねェが、最近ワノ国に現れたクソガキ共の動向も気になるようだ。
「何も起こらねェがな」
「さァな、侍ってのは強いんだろ。腕っ節だけじゃねェ、忠義ってのがよ」
「心配か?お前が?このおれを?」
「お前の心配じゃねェよ可愛い娘と孫の心配だばーか」
「あン?」
「おん?」
やめろやめろ、ふたりの孫もいるのに睨み合ってんじゃねェ。
カイドウさんが息子を手に乗せたまま叔父貴と睨み合うのでそっと息子を回収してゆらゆらと揺らす。
「おっかねェじいじたちだな」
そう言ってもまだわからねェだろうが。
売り言葉に買い言葉、それぞれ「よォーし表に出ろ兄弟!今日という今日ははっきりさせてやろうじゃねェか!!」「後で吠え面かくなよカイドウ!白黒はっきりさせてやらァ!!」と罵りあいながら部屋から出て行った。
その際、叔父貴が「てめェにじいじと呼ばれたくねェよクソガキ!」と言い残して。
なんだ、聞こえていたのか。
調子に乗ってお義父さんなんて呼んでたらはっ倒されていたな……危ねェ危ねェ。
カイドウさんと叔父貴が部屋を出て少しすると、大きな爆発音とおそらくクイーンの悲鳴が聞こえてくる。
……巻き込まれたのがあのカスなら何も問題ねェな。
爆発音に驚いたのか、息子が火のついたように泣き始めた。
文字通り、少し前まで弱火くらいの背中の炎が強火くらいに。
慌てて泣き止ませようとあやすも、なかなか泣き止まない。
悪いと思いつつ、息子をあやしながら名前に声をかける。
先程の爆発音で眠りを妨げられていたのか、名前はむくりと起きると耳を威嚇するように前へ垂れさせてむっと顔を顰めた。
「……パパたち?」
「ああ、向こうで暴れている」
息子を抱き上げる前にクイーンから渡された防火性の布を手にしてから手を伸ばす。
受け渡せば息子をゆらゆら揺らして声をかけながらあやし、あっという間に泣き止んだ息子をそのままおれに再び戻した。
のそりとベッドから下りた名前がずんずんと部屋から出て、大きく息を吸い、それから一言。
「赤ちゃん泣いてるでしょ!そんなことするパパなんて大嫌い!!」
まさに鶴の一声ならぬ狼の一声。
カイドウさんにも刺さったのか、ふたりが崩れ落ちるような音が聞こえて静かになる。
……お前のママすげーよ、あのじいじたち止めたぞ。
カイドウさんと叔父貴が咽び泣く声もしたが、申し訳ねェけどさすがに庇えねェな。
戻ってきた名前はそのままベッドに入ると、もう少し寝る、と言って目を閉じた。
それから時は過ぎ、名前と息子が叔父貴の船に乗る日。
「体調には気をつけろよ、今お前は弱ってんだから」
「うん」
「電伝虫は持ったな?いつでも出れるからいつでも連絡してこい」
「うん」
「……寂しいなら遠慮するなよ」
返事ははきはきしているものの、寂しそうにしゅんと垂れる耳を見てそっと頭を撫でる。
名前の後ろで叔父貴はさっさと離れろと捲し立てるも副船長とおぼしき男にはいはい船長はさっさと乗りましょうねーと引き摺られていった。
締まらねェが、先程カイドウさんと何か話していたからまあいいだろう。
名前に抱かれている息子の手にそっと触れて、それから頬に触れる。
次会う時は、もう少しでかくなっているだろうか。
あまりママを困らせるなよ、と小さく言えば名前は笑って息子の小さな手を持って行ってきますと手を振った。
会えるのは金色神楽の後、早くて一週間ってところか。
名残惜しい気持ちは思ったよりあるもんだな。
叔父貴の船が出航して、少しの間名前は甲板に出ていたが副船長に促されて船室へ戻る。
それを見届けからおれも城内へ戻った。
相変わらず賑やかな城内、今はビッグ・マムもいるから余計にか。
……そういえば、疲れてるってのに名前は「私の男に変な勧誘するなババア!!」とビッグ・マムに啖呵を切っていたな。
いつも臆病でビビりなあいつのどこにそんな度胸があったのか……さすがにカイドウさんも叔父貴もびっくりしていた、クイーンとジャックはぶっ倒れそうだった。
あれはもう本能だろ、耳の垂れ方もビビっている時の垂れ方ではなく威嚇する垂れ方だ。
ま、そこで名前も息子も揃ってビッグ・マムにおれのところに来いよと勧誘されちゃいたが、生憎おれはカイドウさん以外の下につく気もねェし、名前だって絶対にそんなことはない。
「……変わるもんだな」
あの、施設で実験の度にいやだいやだと泣いていた子どもが、今では母親だからな。
さて、例の二十年まで、おそらく討ち入りがあるまで数日だ。
万が一はねェ。
パパのところに里帰りするの、凄く久しぶりだな。
私が使っていた部屋は綺麗にされていたし、服や物もそのままで、帰省ってこういうことかとちょっと感動する。
船医で副船長のお兄ちゃんは何かあれば遠慮するなよと言ってくれたので、遠慮なく甘えた。
どうしても寝たい時、ゆっくり食事したい時や風呂に入りたい時、子どもをパパやお兄ちゃんに預けられたし、カイドウさんのところで過ごすよりも遠慮しないで過ごせた、と思う。
そんな今、多分鬼ヶ島では金色神楽が行われている頃、鬼ヶ島から入った連絡で船は再びワノ国の鬼ヶ島へ。
「例の討ち入りだとよ。カイドウと話をしてたんだがな、万が一はねェと思いてェが相手の戦力が未知数であいつに内緒で行くことにした」
「侍、と……」
誰だっけ、麦わらって言ってたかな。
他にもユースタスやトラファルガーだったか、二年前にルーキーと呼ばれて最悪の世代と呼ばれた海賊たち。
パパ曰く、侍が海賊と手を組む時点で雲行きが怪しいんだと。
百獣海賊団は今の世界じゃ一番と言ってもいい程の戦力なのに。
SMILEとはいえ能力者も多いし真打ちや飛び六胞、大看板も揃っている日に限ってそんなことある?
……ビッグ・マムもいるし、四皇ふたりを相手にするなんて無謀だとも思うんだけどな。
「もしも、ねェと思いたいが、もしもカイドウが敗れるようなことがあってもおれはあいつを見届けはするが助けることはしねェ。兄弟との約束だ」
「パパは、カイドウさんたちが負けると思う?」
「麦わらの動きは知ってんだろ。パンクハザードにドレスローザ、それからあのババアの国での麦わらの活躍は、その万が一を起こしそうでよォ……」
心配なんだ、助けはしねェ約束だが兄弟の行く末は見届けてェ。
そう言ったパパは少しだけ寂しそうな顔だ。
私がパパを見上げると、パパは笑って私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
「まあ、カイドウが負けるってことは他の連中も負けるってことだ。カイドウは助けねェ約束だが、他はどうしろと言われてねェしな」
「……大丈夫だと、思いたいけど」
「おう、おれもだよ」
でもさ、こういう時のパパの勘って当たるんだよ。
向こうと繋ぎっぱなしにしている電伝虫の声に、パパは姿を変えて、私はそのパパの背に飛び乗って、鬼ヶ島へ行くことになるなんて、思わなかった。
名前
狼のミンク族と人間のハーフ。
ママになりました。
疲労やばいけれどちゃんとママしているし、自分のパパへの一言にはちゃんと破壊力ある。
ビッグ・マムに啖呵を切った。
ほら、普段ならビビってキングの影にいるけれどママですし。
里帰り中、だったけど……
キング
パパになりました。
あまりにも子どもが小さくてなかなか抱き上げられなかったパパ初心者。
自分と比べたら名前だって半分くらいの背丈なのに、さらに赤ん坊となるともっと小さいんだもの。
名前と子どもが里帰りするのはちょっと名残惜しいし寂しいと思った。
現在鬼ヶ島で交戦中。
カイドウ
おじい様だぞ言ってみろ!とキングと名前の子どもに言うおじいちゃん(仮)になった。
兄弟とは相変わらず。
小競り合いはよくあることだし、カイドウなりのコミュニケーション。
現在鬼ヶ島で交戦中。
カイドウの兄弟分
カイドウ傘下の海賊団船長、名前のパパ。
じいじだぞ!と張り切るおじいちゃん。
尚、カイドウと暴れていたら「パパなんて大嫌い!!」の魔法の言葉を諸に受けた。
里帰り中の名前と孫にメロメロ。
娘と孫が里帰り中、だったけど……
息子
生まれたての赤ちゃん、ルナーリア族のハーフでミンク族のクォーターという属性もりもり。
顔はママ似、他の特徴はパパ似。
泣くと弱火程度の炎が強火になって名前が火傷するのでクイーン製の防火に特化したおくるみに包まれている。
副船長のところですやすや眠っているところ。