やらかした海賊海軍天竜人を徹底的にシバキ倒す話⑦

「いやー久しぶりだわー。ところで礼儀って知ってる?ところ構わず視察に来た海軍中将に攻撃しかけるのがここの礼儀なら全員ぶちのめすぞクソガキ共」

「放せババア!!」

「えいっ」

「いったたたたたたたたたたたたた!!」

「も、もうやめてやってくれ姐さん!一応そいつおれの部下……」

「じゃあ部下の躾がなってねェテメェがしばかれてェんだな?」

「トンデモナイデス存分ニヤッテクダサイ」

今日も海は綺麗だなァ……ハリケーンやばかったけど。
ちょっと数年前の話をしよう。
頼りにしている数名の部下を連れて司法の島エニエス・ロビーに五老星とセンゴクからのおつかいで来た。
まあ別にいいよ、中将だし上からの命令にはある程度従いますとも。
ただし、その相手がかつてバスターコールを発動させたクソガキのクソガキだったら多少躾はするけどな。
案内された長官室にはクソガキだけでなく、これから潜入するらしい諜報部員たちもいた。
まあお察しよ、長官以外とは顔合わせはしたことなかったけれど舐めた口叩くモンだからさァ。
わかってますとも、見た目はそこら辺にいるフツーのおねえさんの私が中将だなんて、海軍が舐められることになるのも。
わかってますとも、そういう輩には暴力が一番だとも。
驚くことにこちらへまるで腕試しかのように攻撃をしかけてきたのはあのロブ・ルッチだった。
知ってる知ってる、殺戮兵器だっけ?
私の前じゃただのクソガキだけどな。
中将ならそれなりに対処できるだろうと言われたんだわ。
部下が前に出ようとするのを制し、遊んでやるよクソガキと呟いて突っ込んできたクソガキの動きに合わせるようにグーでカウンターを叩き込む。
え?見えなかった?まだまだスピード抑えているんだけどなァ。
長官のスパンダムが「やめろ馬鹿野郎!」と叫ぶも向こうはそれを無視、いや長官ならちゃんと自分の言うこと聞くように躾しろ?
私のグーパンが顎に入って体勢を崩したところにこの前サカズキに食らわせたキャメルクラッチをキメた。
それから冒頭へ戻る。

「殺戮兵器って呼ばれているらしいけど、なにそれ子どものおもちゃ?お前子どもと遊んでんの?お優しいねェ」

「やってることと言葉が合っておらん……!」

「おっ、おれですらこの女に刃向かっちゃならねェとわかるぞ……尻尾巻いて逃げていいか!?」

「せめてお前らおれを守れよ!長官だぞ!?」

「しかし……あの方の前では誰もが等しくクソガキですよ」

そうそう、そこの女の人わかってんじゃん。
私からしたらみんなクソガキだ。
ちなみにたくさん私に締められているサカズキやクザンでも絞め技から抜けられるのにしないのは、抜けても追い討ちされるのをわかっているからで、このクソガキのように指銃で抵抗はしない。
クソガキからこちらの顔へ向けられた指銃を真正面から受け止め、指を反対に折ろうとすれば、尻尾巻いて逃げたいと吐かしていたクソガキと鼻の長いクソガキが間に入った。
そのふたりからも蹴りやら指銃やらがやってきたので絞め技をキメていたクソガキから手を離し、懐から抜いた愛用のペーパーナイフでそれを捌く。

「なんだそれ!」

「ただのペーパーナイフに決まってんだろ。基本的に刃物は持ち歩かないようにしてるんだよ、戦闘って苦手でさァ」

「自分の異名を思い返してから言えよババア!!」

「誰がババアだテメェの顔面芸術品にして表に飾ってやろうか?」

「すいませんでした!!」

「で、まだ続ける?続けるならクソガキ共全員連帯責任で吊るす。続けないなら長官だけシバキ上げて終わる。どうする?」

「長官行ってください出番です」

「上司を売るなァ!!」

女の人に差し出されたクソガキ長官を見れば、クソガキは顔を真っ青通り越して真っ白になった。
いやーほんとにね、こいつの父親の時からの縁なんだけどね。
バスターコールって海軍の仕事で一番を争うくらい嫌いなんだよ私。
それをわかってかバスターコールが発動する時ってセンゴクや過去の元帥は私に対象の場所からめちゃくちゃ離れたところへ派遣するんだけどね。
それに参加したクソガキに罪はない、海軍の仕事を真っ当したから。
けれどそれで海軍というものに失望した人間もいるわけよ。
正義を志した人間がだめになっていく、それを私は好かない。
もしも自分がバスターコールに出向させられたら?
そんなん発動させたクソ野郎を代わりにボコボコにしますが?
ゴールデン電伝虫なんか野に放ってやるよ、機械全部取り外してな。

「まあなんだ、うちの弟分をとんでもねェところへ派遣させた原因であるクソガキのクソガキは、いっぺんぶん殴られようか。安心しな、二度と親子二代に渡ってバスターコール出させないようにその手をへし折ってやっからさァ……」

「ぜってーこの状況と関係ねェ!あっ、ちょ、やめ……ぎゃああああああああああ!!」

うーん、汚い悲鳴、三点。

 

「クソガキ共、任務お疲れ様」

……なんでこの女がここにいる……!?
潜入任務が終わり、ニコ・ロビンを連行してエニエス・ロビーまで帰還したのはよかった。
だが、この女がいるなんて聞いていない。
五年前と姿形の変わらない、潜入任務前におれを締め上げ長官をボコボコにし、さらに「一般市民に紛れるんならちゃんと礼儀は身につけろよ」と礼節とは何かと叩き込んだ女。
その女を見て、カクは今にも吐きそうなくらい顔を真っ青にし、カリファは固まり、ブルーノはドアドアで我先に逃げ、肩に乗っているハットリがおれの顔にしがみつく。
おれか?今すぐ逃げ出したいが?この女の前にプライドなんて邪魔なだけだ。

「そんな警戒しなくてもいいだろ、視察ついでに労わってるだけだし。ニコ・ロビンの顔見たら帰るよ」

……労るなんてことできたんだな。
思っても言わない、後が怖い。

「いやー、さすがCP9だよね。ちゃんと捕縛して帰ってくるんだから」

「……そうですか」

「うちの大将のひとりも見習って欲しいな、あいつすぐ殲滅しやがるから」

中将の言葉とは思えない。
それもそのはず、ガチの生きる伝説は年齢がわからない。
海軍の大将や海軍、CP9の長官、四皇、さらには五老星までもをクソガキ呼ばわりする女だ。
一体何歳なのか考えたくもない。
人の形をしているだけの悪魔が来よった……とカクが蹲るが、悪いが構ってやる余裕がないんだ。
思い出すのは五年前、礼節とは何ぞやと叩き込む名目でついでと言わんばかりにおれたちをこれでもかとボコボコにした女のやり方。
一言で言うなら酷かった。
悪魔の実の能力者でもない、覇気の使い手というわけでもない、見た目ならただの無害な女にCP9がボコボコにされるなど誰が思うか。
おれとジャブラは徹底的に痛めつけられたと思う。
元気のいい猫と犬だな、とこちらの攻撃はペーパーナイフでいなされ、躾には暴力が一番よく効くとどこの暴君かと思う発言をしながらおれたちに絞め技をキメたり背に担いでいたライフルでぶん殴ったり……ああ、カクは鳩尾に諸に食らって吐いていたな、可哀想だと柄にもなく同情したものだ。
カリファも女でも容赦はされず、カクのように鳩尾に一発食らってぶっ倒れた。
聞けばフクロウやクマドリも伸びたというのだから、この女は多分人間の見た目をしたただの悪魔なのだと思う。
海軍とサイファーポールは別部署、そんな別部署同士が問題を起こせばただじゃ済まないはずなのに、この女が何かの処罰を受けた話は終ぞ聞かなかった。

「それだけ言いに来たんですか」

「ん?まあそうだね。あとニコ・ロビンってどんな子かなって見に来たくらい。手配書は小さい時のままじゃん」

「はあ……」

「さすがに任務明けの人間を労わってやる気遣いくらいできるよ」

急募、この女の言う気遣いの解説。
そんな女に恐る恐るカリファが「今回長官は無事ですか……」と問いかける。
やめろ聞くな絶対無事じゃない。

「あのクソガキは私が来たのに挨拶のひとつもねェから一発ぶん殴ったけど」

ほら見ろ。
正直あの長官がこの女に殴られるのは見ていてスカッとするが、いつそれが自分たちに振りかからないか気が気でない。
女はぷるぷるぷるぷる、と鳴く電伝虫を取り出すともうちょいしたら戻るよと手短に相手に伝えて電伝虫を戻した。
……よかった、早く帰ってくれ。

「……ニコ・ロビンの奪還に来ている一味がいるらしいですが、中将殿は対処されないので?」

「あれでしょ、麦わらの一味。お前らに私が加わったらただのイジメになるだろ。それに新世界入りの経験がない海賊を私がいなきゃ撃退できませんでしたって言いたくないでしょ」

無意識に抉ってくるなこの女。
それはそうだ。
CP9が海軍中将の力がなければ小さな一味を壊滅させられないなど、あってはならない。

「ただまあ……聞くでも聞かないでもいいけど、サカズキみたいに徹底的にやらないとああいう仲間ひとりのために立ち向かう人間の心はへし折れないよ。油断はしねェことだね」

じゃ、頑張ってね。
おれたちの合間を縫うようにすれ違ってひらひらと手を振りながら女はニコ・ロビンが投獄されている場所へ向かった。
ドッと冷や汗が流れる。
……もしも、もしもあの女がその気ならおれたちなぞすれ違った瞬間に殺れただろうな。
あの女と殺し合うのだけはごめんだ。
勝てる気なんて湧いてこない。

「……ちょ、わし吐いてもいい?」

「何言って……きゃああああああ!!カク!カク!?」

……女の姿が見えなくなった後、顔を青くしていたカクが緊張感に堪えられずに吐いた。
おれは殺戮兵器……殺戮兵器だから吐かなくて済んだ……まあ、肩に止まっていたハットリが吐いたが、気持ちはわからなくもないのでそっと労わっておく。


海軍のおねえさん
CP9へのおつかい(という名の視察)に五年前に訪れていた。
見事にトラウマだけ植え付けて帰った人。
ほら一般市民に紛れるんなら礼節ちゃんと叩き込まなきゃだよね。
バスターコールについてはそういう命令だから仕方ないとは思っているけど嫌悪するもののひとつ。
大袈裟だな、とも思っていたりする。
ニコ・ロビンに会いたい理由?バスターコールから生き延びた女の子ってどんな子かひと目会おうと思って。

ロブ・ルッチ
噂の海軍中将のおねえさんにボコボコにされた人。
若気の至りってやつだ、勝てると思ったしただの女だから飾りだと思っていた。
五年前の自分に止めとけと言ってやりたい。
おねえさん絡みになれば普通の感性になる。

カク
過去のボコボコにされて吐いたし、今回もトラウマで吐いた、可哀想。

カリファ
同じくボコボコにされたことあるけどワンパンで伸びただけまだラッキー。

ブルーノ
おれは……逃げる……!

スパンダム
姐さんと呼ばねェと殺られる……!
呼ばなくても父親がバスターコール発動させたので子どもが同じ轍を踏まないように目をつけられている。
多分、エニエス・ロビーで発動させたとおねえさんが知ったらボコボコにされる。

他のCP9
例に漏れずボコボコにされた。

2023年8月5日