やらかした海賊海軍天竜人を徹底的にシバキ倒す話⑥

「今日という今日は許さねェ。テメェのそのツラもっとボコボコにして簀巻きでマリージョアから三日三晩吊るして干物にした後に海王類の巣に沈めてやるよオラァ」

「姐さんさすがにだめだよォ、もうさっきの姐さん渾身のパンチで伸びてるんだからさァ」

「だえだえだえだえ耳障りな鳴き声しやがって、ただの泣き声にしてやろうか」

「そろそろ反省文……じゃなかった、始末書じゃ済まないってェ」

「こんなクソガキを放置している五老星にも一発ぶち込まなきゃ済まねェっつーの。わかった、妥協案だ。海王類の巣にはぶち込まねェけど代わりにヒューマンショップに目玉商品としてぶち込んでやらァ」

「妥協案って意味わかってるかァい?海兵が天竜人を売りに出しちゃだめだろォ……」

今日も海は綺麗だなァ……さっきそんな綺麗な海で仕方なく海賊船沈めてきたけれど。
どうどう、と馬でも鎮めるようにボルサリーノがしゃがんで私を後ろから羽交い締めにする。
事の発端は、シャボンディ諸島で暴れている海賊を捕縛しに来たことだ。
まあいつものことなんだよ、本部に近いとこういういざこざ多いからさ。
でも間が悪かったというのか。
天竜人が奴隷買いに来てやがったから。
その護衛についていたのはボルサリーノ。
騒動を起こした海賊を捕縛するのに手間取っていたからか、あろう事か天竜人が「遅いんだえ!役立たず!」と私の部下を弾きやがった。
ギリギリ致命傷は免れたものの、深手だ。
むしろそれにキレないと思う?
ブチ切れだわ今ならマリージョアの天竜人全員吊るせる気がする私なら余裕でいける。
誰の部下に発砲してんだクソ野郎、そうやって発砲した天竜人をぶん殴り、伸びたところを追撃しようと思ったらボルサリーノに止められた。
ボルサリーノも割りと本気で私を止めているけどそれで止められると思うなよ、私を誰だと思ってんだ、海軍のお姉さんだぞ。

「済まなかったえ!お前の部下とは露知らず……」

「はァ?私の部下だったら撃たなかったって?私の部下じゃなかったら撃ったってこと?海兵の時点で私の弟分と妹分なんだよぶっ飛ばすぞクソガキ」

「ひえええ……!!」

「姐さんってばァ……」

邪神が荒ぶっておられるえ!!鎮まりたまえ!!だめだえ生贄用意しても鎮まらないえ!!諦めるしかないえ!!
そう天竜人がぎゃあぎゃあ騒ぐ。
そもそもだな、見た目ただの人間と変わらないしなんなら人間と同じなのはその二足歩行だけで頭ン中パッパラパーなクソガキが同じ人間や別種族を奴隷にして好き勝手にこき使ったりおもちゃにしたりしてるのも気に食わねェんだよ。
それを許す世界のシステムも気にいらねェなァ。
私がいるところでは私がルールだ、従わねェならぶん殴る。
横暴?好きに言ってろお姉ちゃんだぞ私は。
海賊の捕縛どころじゃなくなったシャボンディ諸島。
どこかの新聞会社に『厄災また天竜人を殴る!』『コラム:歩く厄災から逃れるには』『世界最大の謎!海軍の姉はどのくらいやべーのか!!』みたいなクソ程くだらねェオカルト雑誌みたいな特集を組まれ、五老星は頭を抱えながら私を呼び出し、センゴクは白目を剥いてぶっ倒れ、一部の海賊や革命軍、特に七武海のフラミンゴ野郎とカイドウんところのプテラノドンとガープの息子がスタンディングオベーションだったらしいと変な情報が出回り、ドレスローザとワノ国といろんな国の特産品が私宛に大量に送られてきた。
私?反省文たくさん書いた。
しばらく反省文はいいかな、部下に渡された瞬間海軍本部の窓からぶん投げてばらまいた、またセンゴクがぶっ倒れた。
ぶん殴った天竜人が「わちきの妻になるなら許してやるえ!!」とふざけたことを抜かしやがったのでもう一発ぶん殴ってやったらその天竜人の父親が「本当に愚息の教育がなってなくて済まないえェェェ!!」と泣きついたことだけ、追記しておく。

「おねえちゃん!そろそろセンゴクの胃に穴が空くよ!!」

「何言ってんのおつる。元帥みんな胃を痛める生き物なんだよ常識常識」

「何言ってんだい!!そんな常識だったら誰も元帥になんてなりたがらないよ!」

それな。
本部に戻り、最初に聞いたのはセンゴクが胃痛で医務室に運ばれたって話だ。
情けないな、メンタル鍛えろ、今までの元帥みんなが通った道なの知ってるだろ。
さすがにガープもねえちゃんそろそろ人の優しさを弟以外に分けてやってくれんか……と諭された。
いや優しいじゃん、誰も死んでねェんだもん。

「そんなことよりお前の子どもから御礼品って名目でいろいろ送られてるんだけどどういうこと?」

「あのバカ息子ォ……!」

お前も大変だな、と言えば大変にしてるのはおねえちゃんだよ!とおつるが悲痛な声を上げた。

 

「姐さんも懲りない人だねェ」

「逆だろ、私じゃなくてクソガキ共が懲りないんだよ」

「おォ〜……それ何枚目の反省文だい?」

「わかんない。多分三桁入った」

めんどくさいから全部同じ文章をひたすら書いてるけどね。
そう言って心底面倒くさそうに溜め息を吐きながら書類を書いている姐さんを横目に近くのソファーに腰かければ姐さんの部下さんがお茶を持ってきた。
まあ正直言うとねェ、スカッとしたのは事実なんだよォ。
わっしらではどうしようもできないことは、姐さんならどうにかしてくれるからねェ。
わっしが新兵の時から姐さんはそのまま。
一体どれ程の時を生きているのかは知らないけれど、恐ろしい程に変わらない。
姿形はもちろん、有り様も。
どの海兵も、なんならルーキーの海賊も、最初は姐さんを見て思うことは何か。
こんなただの女が中将?そんな女が中将なら自分なら余裕で大将になれる、案外海軍って大したことない、エトセトラエトセトラ。
けれど巷で出回る姐さんの話が全て本当だったと実感するんだよォ。
伝え聞いた話の中には海賊王と互角にやり合ったとか、元帥は全員姐さんの弟だとか、まあ後者は正確に言えば弟分なのだけど。

「五老星もさァ、五老星になる前から私がいるのわかってんだから天竜人の教育ちゃんとやれよって思うんだよね」

「それを言えるのは姐さんだけだろうねェ」

「だって私はちゃんと教育してるよ。部下たちも弟たちも」

「……ああ」

「なんでそこで遠い目をした?」

とある元海軍大将とはまた違った方向の教育だからなァ。
あの人が軍人を育てるのであれば、姐さんは人を育てると言えばいいか。
わかりやすい例はサカズキとクザン。
捕縛の指示をやり過ぎて殲滅したり、サボってどこかへ消えたり、その後に待ち受けているのは姐さんからの物理特化のお説教。
人の話聞いてねェのか、自分の仕事ほっぽり出してなにしてんだ。
口悪く横暴な時は目立つけれどド正論もド正論。
海兵の中には腕を買われた元ゴロツキみたいな人間もいる、それを屈強な海兵として育てるのはあの人、真っ当な人間として教育し直すのが姐さん。
いやァ……尖っていたサカズキが本当に一番姐さんの世話になってるだろうねェ。
この前も「テメェまた殲滅しやがってこの前の捕縛できた馬鹿はどこ行った」と何か絞め技されていた。
姐さんが天竜人を殴っても反省文以外のお咎めがないのは純粋に戦闘力だ。
というかどんな海賊も革命軍も姐さんの姿を見たら一目散に逃げ出す。
現四皇もそうだ。
職務質問だとか言って追いかけようとすればどんな船もびっくりするくらい速くなる。
多分船も嫌がってんだろう、姐さんが近づくのを。
そんなどんな勢力に対しても抑止力になる姐さんを手放すのは惜しい。
例え暴発することはあっても当たれば能力者でも確実に仕留められる銃があれば手放すのは惜しいだろう?
……まあ、大将にしたら天竜人がストレスで弱るからなんて理由で全ての天竜人から姐さんを大将に絶対するなと変な圧力かかってるけどねェ。
正直言うと、それはそれで見てみたい。
海賊や革命軍以外が恐れる天竜人を弱らせるところ。
きっと世界の情勢全て変わるんだろう。

「そういや何か用あって来たんじゃないの?」

積み上げられた書類を部下に運ぶように指示を出す姐さんが大きく伸びをしてわっしに声をかける。
お茶を飲み干し、それから姐さんをまっすぐと見据えた。

「いやァ、お礼だよ。姐さんの部下だけじゃなくてわっしの部下も撃たれていたからねェ」

「……もういっぺん殴ってこようか?本当にマリージョアから吊るそうか?一時間ありゃできるよ」

「おやめなすって」

思わず真顔になって言えば姐さんは肩を竦める。
本気だったのにな、なんて恐ろしいことを恐れずに言う姐さん。
それでいい。
姐さんは誰も思いついても決して実行できないことを本気でやりそうなくらい、凶暴で横暴で、誰よりも優しいところが姐さんらしい。

「じゃあわっしは戻るよォ。センゴクさんに呼ばれてるからねェ」

「あ、ついでにそれ持ってってくれる?」

「……なんだいこれ」

「よく知らんが匿名で送られてきたドレスローザとワノ国とその他諸々たくさんの国の特産品」

「……慕われてるねェ姐さん」

「いや、ボルサリーノたちに慕われてるだけで十分嬉しいよ」

少しだけ表情を緩めた姐さんに珍しいこともあるモンだなと思いながら適当に言われたものをもらって部屋を後にした。
数分後、やってられっかー、と淡々とした声で部屋の窓からばらまかれた書類の雨にセンゴクさんが倒れたのをガープ中将が支えたのを目撃することになる。


海軍のおねえさん
うちの部下に発砲したクソ野郎はどこの天竜人だオラァ。
どこかの新聞会社に妙なオカルトチックな特集を組まれていたおねえさん。
たまにその新聞を弟たちと読んでいるし、弟たちは爆笑する。
反省文飽きちゃったなァーって本部の窓から書類ばらまいた。

ボルサリーノ
その場に居合わせたからおねえさんを必死に止めた。
いつもの調子だけど内心やばいと思っている。
自分の部下も撃たれていたからスカッとした。
他の大将ふたりよりいい子だからあまりおねえさんに怒られたことはない。
わっしは生粋のいい子。

天竜人たち
邪神が荒ぶっておられるえ!!鎮めないとやばいえ!
鎮まりたまえ〜!!

センゴク
やらかしたやつらどころかおねえさんがやらかしている気がしてならない。
慢性胃痛。

どこかのフラミンゴとプテラノドンとドラゴン
スタンディングオベーション

2023年8月5日