やらかした海賊海軍天竜人を徹底的にシバキ倒す話⑤

「いいか!振り返るなよ!攻撃もするなよ!とにかく逃げるぞ!!」

「お頭!もう軍艦そこまで来てるぞ!!」

「やだあああああああああ!!」

「駄々っ子みてェな声出すんじゃねェ!!」

「だって嫌だろ!二日酔いでマストにお前が海賊旗になれよって姉さんに括られんだぞ!?」

「命あってのなんとやらだ!生きててよかったなァお頭ァ!!」

「心が死ぬ!!徹底的に死ぬ!!今度こそ!死ぬ!!」

今日も海は綺麗だなァ……少しだけ荒れているけど。
目の前を進むのはかの四皇、赤髪の船、めちゃくちゃ騒がしい。
いや巡回してただけなんだよ。
新世界の巡回ってだけで四皇に出会すこの遭遇率……何かのゲームの色違いに会うくらい確率低いような気はするけれど私にとっては最早普通過ぎる。
部下から「赤髪の船です!」と報告を受けたので、軍艦の執務室から出て受け取った望遠鏡で見たらお互い望遠鏡越しに見張りと目が合った。
見張りは狙撃手だったんだけど、私と目が合うと顔を真っ青にして下の甲板にいる船員たちに「非常事態発生だァァァ!!」と叫ぶ。
いやいや、お前ら他の海軍と出会してもそんなこと言わねェだろ。
それを見た部下たちは「中将が今まで何をしてきたのかとても、とてもよく伝わります」と遠い目をしていた。
そんな目をすんなよ、海兵の仕事を真っ当にしているだけじゃん。
ついでに何をしたんですかと副官のポジションにいる大佐に聞かれたので答える。
赤髪をマストに括りつけたでしょ、副船長の顎を蹴り上げたでしょ、狙撃手を銃でぶん殴ったでしょ、突っかかってきた新入りらしい男の足をロープで結んで赤髪の船から落としてやったでしょ、船医の歯を何本か折ったでしょ、それから……と指折り数えたらもういいですと止められた。
これつい先月の話なんだけどな。
十年二十年遡ったらもっとあるけど知りたい?あっ心がもたないからいい?情けねェな心は自分で鍛えろよ。

「で、如何致しましょうか」

「どこに行くか知らないけれどやるのはひとつ、職務質問」

「そんな平和な島で海賊でもないゴロツキ相手にする海兵みたいなこと言わんでください」

「海賊なんてみんなゴロツキだろ」

「四皇をゴロツキの一言で済ますのは中将だけです。その職務質問で死ぬのは相手と我々部下です」

職務質問で死ぬ海賊と海兵なんて聞いたことねェよ。
まあとりあえずあれ追いかけて。
そう言えば副官はテキパキと部下に指示を出す。
私は船首に佇んだまま、いやほらだっていつ攻撃されるかわからないからね、私なら対処できる自信あるし。
聞く内容は他の四皇にも言うことだから決まっている、YOUは何しに縄張りの外へ?だ。
ビッグ・マムは縄張り越えて国になってるし、国の外へ本人が出るのは稀だったりする、この前はなんであんなところにいたのか知らねェけど。
白ひげだっていい歳だから療養もあるらしいしね。
たまに縄張りじゃない島に停泊して怖がった島民から通報が入ることはある。
ただ、カイドウが縄張りから出たら大体どっかで戦闘だ。
その時代のいくつのルーキーたちが傘下に入ったか……戦力拡大させたくないっていうのはセンゴクとも意見が一致しているから止めに行く。
赤髪も白ひげに並ぶくらい温厚な海賊ではあるけれど、だからこそ縄張りの外へ出た時に何をするのか予測がつかない。
ほらちゃんと仕事してるでしょ私、書類業務しかしたくないのを三人しかいない大将のガキ共に気を遣ってやってんのよ。
四皇のクソガキ共をすぐ仕留めないのはそれで守られているものもあるからだ。
ほら私ちゃんと気遣いさんでしょ。

「……お?」

「どうしました?」

望遠鏡で逐一向こうの動きを確認していたら動きがあった。
めちゃくちゃ速く船を進めて逃げている癖に、狙撃手が自分の銃身に白い布をつけて横に振っている。
所謂白旗、降参。
何もする前にそれでいいのか四皇だろ。
他の四皇は一応私の姿見たら噛み付いてくるぞ、本当に手を出したらやり返すけど。
まあ赤髪はな、赤ん坊の頃から知ってるけどな。
まだ本当にガキの頃は可愛げのある子どもだった記憶がある。
それが気がつけば四皇だ、人間どうなるかわからないよね。
部下に発光信号の器具を持ってきてもらい、それでこちらの意思を伝える。
攻撃はしない、職務質問。
そう器具を動かした後に向こうからも同じように発光信号が届いた。

『職務質問の意味わかってる?』

わかってるに決まってんだろ海賊が何言ってんだ。

 

姉さんと初めて会ったのはロジャー船長とその人の戦闘の時だった。
いや、向こう曰くおれが赤ん坊の頃から知っているらしいけれど、言っちゃ悪いがマジでいくつ?
レイリーさんだってロジャー船長とその人の戦闘に割って入ることはない。
ロジャー船長が剣を抜けば、姉さんも剣を抜く。
ペーパーナイフ以外使わせんな、そう言っていたかなァ……逆にペーパーナイフでどこまでできんのかなァ……
後に聞いた話では、七武海に加入した鷹の目の斬撃をペーパーナイフでいなしたって言ってたからペーパーナイフで人殺せんじゃねェのかなァ……
白ひげとやり合う時だって笑っていたロジャー船長から笑みは消えていた、殺傷能力のある剣を抜いていた時点で姉さんも本気だった。
船長が纏う覇王色の覇気に対し、姉さんはただの武装色の覇気。
なのにあそこまで船長の剣を防げるなんて、当時はバギーと揃って見た幻覚かと思った、幻覚じゃなかった。
それに船の上じゃなくて、その前におれたちが沈めた海賊の船の残骸の上で殺し合うんだ。
足場が崩れれば次の足場へ、お互いの攻撃を躱し、受け止め、その繰り返し。
……船長もだけどあの人やべーな。
ちなみにこの時のふたりが激突した理由は、おれたちが沈めた海賊から奴隷の子どもをその場に居合わせた姉さん率いる海軍が保護し、泣きじゃくる子どもが混乱しておれたちがやったのだと伝えたからだ。
姉さんは子どもに優しい。
その時もだし、今もそうだ。
いくらロジャー船長とレイリーさんが弁明しようがキレた姉さんは止まらない。
その戦闘が凄くて、レイリーさんの言いつけも破って船から身を乗り出すように見ていたおれとバギーは、落ちた。
船長と姉さんの攻撃が重なるその瞬間、襲ってくる衝撃にまだまだガキの体が耐えられるはずもなく、呆気なく、海へ。
それを見た姉さんはロジャー船長の体を背中に担いでいたライフルで撃つのではなく剣を持つのとは反対の手で薙ぐ。
その頃からバギーは能力者だったし、おれのように自力で浮かぶことはできなかった。

「シャンクス!バギー!」

「チッ……!」

船長がおれたちの名前を叫ぶ。
船長が動くよりも先に姉さんは後に海賊王と呼ばれる船長に背を向けて迷いなく海へ飛び込んだ。
おれはふたりの戦闘でできた残骸にしがみついていたから溺れはしなかったけれど。
予想外のことに誰もが動けない。
姉さんが海へ飛び込んで、一分か二分か、けれど長く感じた時間が過ぎて、姉さんが海からバギーを小脇に抱えて上がった。
なんなく近くの小さな波に揺られる残骸に足をつけ、それからおれも首根っこを掴むように引き上げられる。

「クソガキ死にたいのか!!」

今思えばその時が最初で最後なんじゃないかな、姉さんが声を荒らげる姿を見たのは。
海に落ちた、海軍に、ロジャー船長と互角にやり合えるくらいの女に助けられた。
その事実で冷静でいることはできず、抑えきれない涙が溢れる。

「ご、ごめんなさい……!」

「私とロジャーの戦闘だったから助かってんだぞ!海賊とはいえクソガキが自分のリスク考えずに物見遊山で表に出るんじゃねェ!!」

「ごべんなざいィ……!」

「テメェもだぞロジャー!!自分のところのクソガキの躾くらいちゃんとしろ!」

「……すまねェな姉貴」

「テメェに姉貴と呼ばれる筋合いはねェ!!」

でもそれでロジャー船長も姉さんも頭が冷えたのか、いつの間にか戦闘は終わった。
おれとバギーは姉さんに抱き上げられ、姉さんはひょいひょいと残骸を渡り、揃ってロジャー船長に押し付けられる。
姉さんも剣を納め、回りの状況を確認すると手際よく部下に指示を出して撤退の準備をした。

「私も頭に血が上っていた、悪かったねロジャー」

「いやいいさ、おれらは海賊だからな」

「子どものいるところで戦う気は正直進まない」

「相変わらずだな姉貴は」

「だからお前に姉貴と呼ばれる筋合いはねェ」

その場はそれで収まり、おれとバギーはレイリーさんから拳骨をもらっただけで済んだ。
それからも姉さんと遭遇することは合った。
あの、女性に優しいレイリーさんからもあの女はイカれてんだよとドン引きしながら言われるくらい、聞けば中将だという姉さんはおれたちを見かけたら職務質問だとか言って「YOUは何しに縄張りの外へ?」と軍艦を横につけるし、酔った船長が絡めば容赦なく海へ投げたり足首掴んで逆さ吊りにしたり、バギーがちょっと勇気を出して止めろと言えば「はァ?」の言葉にすらなってない声で他の船員たちも圧倒されたり、とにかくやばかった。
おれも例に漏れず、生意気なクソガキは海王類の餌にしちまおうなァと海王類が真下にいるってのに逆さまに持たれて海へ放り出される寸前なこともあった。
思えばまだ子どもだったからなんだろう、それで済んでいたのは。
それが今ではこれだ。
先月は二日酔いのところを「お前海賊旗な」とマストに括り付けられ、おれを助けようとしたベックやヤソップたちを尽くボコボコにし、女が苦手なルウはビビって動けねェし、勇敢にも姉さんに立ち向かったロックスターは足をロープで結ばれて船から落とされるし、ホンゴウは何本か歯を折られるし……うっ、今日は二日酔いじゃねェのに頭が……!
おれ何かしたか!?と聞けば「この前うちの艦隊にちょっかい出したろ」と返された、すいません……
さらに、現在進行形で。

「よォクソガキ、YOUは何しに縄張りの外へ?」

姿の変わらない姉さんが隣につけた軍艦で淡々と口にする。
気絶できたらどれだけ幸せか。
くらっとよろめいたおれを顔を青くしたベックマンが支え、頑張れお頭、と嬉しくもない励ましの声をかけた。


海軍のおねえさん
四皇と遭遇したら「YOUは何しに縄張りの外へ?」と問いかける人。
やだな職務質問だよ職質ってやつ。
かのゴールド・ロジャーと対等に渡り合ったことがある。
子どもには優しい、けれどやんちゃが過ぎれば怒る。
あまり声は荒げない、淡々としてはいる、一応。

シャンクス
子どもの頃におねえさんと会ったことがある。
助けられたけれどおねえさんのガチ怒の様子に泣いた。
海軍だけどすぐ戦うわけじゃないから構ってほしくてちょろちょろしたりちょっかい出したら海王類の餌にされかけることも。
この前はマストに括られて「お前海賊旗な」をされた。
おねえさんこわぁい……

2023年8月5日