やらかした海賊海軍天竜人を徹底的にシバキ倒す話⑧

「いやあ、海兵さんがいらっしゃったとは……ありがとうございます。逃げられてどうしようかと……」

「いえいえ、当然のことですから」

「いででででででで!!姉ちゃん!耳!!おれの耳!!」

「あ、これお代と迷惑料です。経費で落ちるので遠慮なさらず」

「何から何までありがとうございます」

「オラお前は事情聴取からだクソガキ」

「いっでええええええええ!!おれの耳がああああああ!!」

今日も海は綺麗だなァ……さっき針路をミスった部下のせいで海王類の巣に突っ込んだけど。
少しだけ軍艦が損傷してしまったのでその補修のために近くの島に停泊を決めた。
そこで「食い逃げだー!」と叫び声を聞いたので向かえば店から飛び出てきたのは見覚えのあるクソガキ。
あ、と私と目が合うと顔が真っ青になり、動きが止まったのでそのまま遠慮なく耳を引っ掴んでクソガキが出てきた店へ行き、クソガキが払うはずだった食事代と迷惑料として少し多めにお金を払う。
見知った小さなひとり用の船があったかと思えばお前か。
どこだっけな……ガープに頼み込まれて行ったことのある小さな島で会ったことがあるんだよな。
ガープが自分の孫とその兄弟分だという子どもたちにやり過ぎ行き過ぎな訓練をしているのをもうちょい手加減してやれよと言いながらも私に喧嘩を売ったクソガキを遠慮なく山の中を流れる川にぶち込んだ気がする。
何故かそのままガープよりも恐れられるようになったけど、まあ些事だ。
それからも海賊として名乗りを上げて、白ひげのところで隊長を務めるようになっても何回か会っていたな。
クソガキ、エースの耳を引っ掴んだまま引き摺り、軍艦からも見えなさそうな路地に入ってエースをそのまま地面に放り投げた。

「お前何してんの」

「痛ェよォ……おれの耳ある?ちぎれてない?」

「あるある。人間耳のひとつやふたつ引きちぎっても問題ねェから」

「問題しかねェよ!!なんで姉ちゃんここにいるんだ!?」

「船が損傷したから直すまで停泊予定」

「最悪だ……最悪だ……!」

大切なことだから二回言ったってか。
おれ自然系なのに……!と慄くエース。
別に自然系だろうが動物系だろうが超人系だろうが関係ねェから、私がシバくと決めたらシバく。
耳を押さえていたエースがしくしくと泣いているけれど、ふと疑問が過ぎった。
なんでこいつここにいんの?
こいつ一応白ひげのところの二番隊隊長だったと思うんだけど。
……そういえばこの前不死鳥の手羽先作ろうと思った時にいなかったな。
聞けばエースは白ひげのところの掟を破った人間を追いかけているのだと言う。
白ひげのところは仲間意識がとても強い。
それこそあいつの憧れであった家族に対しては特に。
迂闊に海軍も白ひげの船員を捕まえるなんてできないしね、あいつ怒り狂うから。
別に私はあいつが怒り狂おうが知らねェんだけど、センゴクが「全面戦争になるから!頼むから!姐さんやめてくれ!!」と止めたことがあった。

「姉ちゃん知らねェか?ティーチっていうやつなんだけど」

「手配書は一通り覚えているけどそんなやつ見たことないね」

でも知ってはいるよ。
昔から白ひげのところにいたクソガキだったはず。
そんな昔からいる人間が掟を破るなんて余程のことが起こっているんだろうな。

「そっか……じゃ!おれは次の島に行くな!!」

「いや食い逃げしてはいさようならで済むと思ってんなら甘いわ」

私の横から路地を出ようとしたエースの足に愛用のライフルを引っかければ見事に顔から地面に熱烈なキスをした。
転んだエースがなんでだよ!昔の馴染みじゃねェか見逃してくれよ!と叫ぶ。
別に見逃すのはいいよ、白ひげのところの人間だったからやめといたって言えばなんとかなるしな。
海軍としては見逃すけれど、昔馴染みとしては見逃さねェ。

「お前さ、何食い逃げしてんの?別にお金がないわけじゃねェよな?わざとか?わざとなんだよな」

「い、いや、これにはわけが……!」

「大体の人間はそう言うけれど私に通用すると思う?」

「思いませェん……!」

一発だけ教育的指導だクソガキ。
でも話せばわかる!なんて世迷いごとを吐かすクソガキに向けて拳を振り被れば「最悪だァァァァ!!」とクソガキの悲鳴が響き渡った。
それから顔を腫らしたエースがちゃんと出航したのを見送り、念のため本部にエースと遭遇した件、白ひげの掟を破った元クルーの件を伝達する。

『……姐さん、今回は何もしてないだろうねェ?』

「失礼だな、クソガキが食い逃げしていたから耳引きちぎろうと思っていたけど思い直して一発ぶん殴っておくだけにしたよ」

『思い直すとは』

電伝虫越しのボルサリーノがめちゃくちゃ深い溜め息を吐いた。

 

ガープのじいちゃんが上司だっていう女を連れていたら尖っていたクソガキって何すると思う?
答えはひとつ、クソ生意気に喧嘩売ってクソ程ボコボコにされて川に沈みかける、だ。
いや、だって上司って言う割にどう見てもじいちゃんより年下に見えるし!じいちゃんより弱そうに見えるだろ!!
そんなことなかった、めちゃくちゃ強かった。
ぜってーじいちゃんより強い。

「ハンデやるよ。お前ら三人でかかってきな」

おれとルフィ、サボに向けた言葉は舐めているなって感じるものだったけど、舐めているというより手加減してやるよって言い方だった……証拠に三人とも足首掴まれて川に投げられた……ルフィが本気で溺れる寸前だった……
あのじいちゃんがおろおろしながら姉ちゃんのこと止めていたもん……
ちなみに初っ端でクソババアと言ったら拳骨もらいました。
さらに驚くことに、おれの親父……かの海賊王とも顔見知りだったんだってさ。
ルフィとサボがいない時に、おれのこと憎い?と聞けば何言ってんだクソガキと一蹴されたこともある。

「子どもに罪はない。まあ、お前が将来何になろうと構わないし、海賊になったんなら捕まえるだけ」

血縁なんて確かなようで不確かなことは信用しないんだよと女はおれの頭を雑に撫でた。
ガキの頃に会ったのはその一度だけ。
それからも会ったことはある。
海賊になって初めて姉ちゃんがとんでもなくやべー海軍中将なのだと知ったし、オヤジはおれがガキの頃に姉ちゃんと会ったことがあると知ったら「お前よく生きていたな……!」とオヤジやマルコたちに肩を叩かれて褒められ、いつの間にか宴になっていたこともあった。
姉ちゃんはオヤジもクソガキと呼ぶし、海賊王と本気でやり合ったこともあるんだと。
……本当に喧嘩売ったおれよく無事だったな。
カイドウとオヤジが喧嘩を始めそうな時には姉ちゃんが偶然近くにいて、邪魔だクソガキ共、と淡々と言ってふたりの足の小指を踏み抜く場面を見て血の気は引いたけど。
中将ってなんだっけ……大将より強いんだっけ……
無謀にも悪魔の実を食べてから姉ちゃんに「おれ強くなったから力試しだ!」と挑んだら見事にやられたこともある。
覇気使ってたか?姉ちゃん能力者?でも普通に海に入って泳いでいたし……
わかった、ツヨツヨの実の能力者で無敵人間なんだ。
じゃなきゃあそこまで強くねェもん、そう思わないとやってらんねェ!!
さっきもまさか食い逃げした直後に姉ちゃんに捕まるとは思わなかった……
おっかしーな、おれ能力使ってたのにめちゃくちゃ耳引っ張られたんだけど、ちぎれるかと思った……よかった無事で……いや無事じゃねェや、一発殴られただけで顔面腫れてるわ。

「海軍の中将である私が言うのもアレだけどさ、いろんな意味でお前は敵が多いんだから気をつけなよ」

「お、おう……ありがと……!」

そう言っておれの背を押した姉ちゃん。
昔からにこりとも笑わねェけど、少しだけ、ほんの少しだけ、優しかったと思う。
ガキの頃もだけど、姉ちゃんは子どもに優しいような……本当に優しかったら川に投げねェか。
ルフィもサボも、姉ちゃんのこと怖がっていたけどさ、でもじいちゃんと海軍本部に帰るって時は三人で引き止めたっけ。
海兵になるなら連れてってやるよって言われたから渋々諦めたけど。

「まあ、姉ちゃんだしな」

この一言に限るよな。
姉ちゃんは姉ちゃん、じいちゃんだってねえちゃんって呼ぶような人。
また会えたらいいな。
まさかこの後ティーチに負けてインペルダウンに投獄されてから会うだなんて思わなかったけど。
同じフロアにいるやつら全員震え上がって息を殺していたけど。
姉ちゃんってやべー姉ちゃんなんだな……囚人どころか看守も姉ちゃんの一挙一動を警戒していたから……やべー姉ちゃんなんだな……
誰だっけな、元海賊王のクルーのひとりも投獄されていて、姉ちゃんとガチバトルになってたけど、よくおれ巻き込まれなかったな……フロア半壊して看守たち泣いてたけど。
投獄されている身ながら可哀想だった。


海軍のおねえさん
何故こうも私の周りではやらかすやつらが多いのか。
まさか食い逃げ犯がエースだとは思わなかった。
一度だけ幼いエースやルフィ、サボと会ったことがあるけどガープに頼まれて一緒に様子を見るだけのはずが川にぶん投げるような稽古をするとは……
顔見知りめちゃくちゃ多いし、インペルダウンについてはおねえさんを知らない人はいない。

ポートガス・D・エース
食い逃げしたらおねえさんに遭遇して耳引きちぎられる寸前だった。
あれェ!?おれ自然系の能力者なんだけどなァ!?
子どもの頃は尖っていたからおねえさんに喧嘩売って川に投げられたひとり。
それからも何度か会ってはやられている。
インペルダウンで会うとは思わなかったしまさか自分じゃなくて囚人のひとりと喧嘩超えてガチバトルするとは思わなかった。
姉ちゃんはツヨツヨの実の能力者なんだ!!じゃなきゃあんなに強くねェもん!!

どこかの囚人
一体どこの元クルーのバレットなのか。

インペルダウンの看守たち
可哀想。

2023年8月5日