やらかした海賊海軍天竜人を徹底的にシバキ倒す話⑨

「ちょっとおねえちゃん!やり過ぎだ!!そこら辺にしないと死んじまうよ!」

「は?知らねェよ、七武海ひとりいなくなったところで海軍的にはたかが海賊ひとり消えたのと同義だろうが。このクソ野郎は許さねェ」

「姐さん!戦争前に戦力減らすのはさすがにこちらも見逃せない!!」

「戦争なんて知るか。どうせ私は前線から外されて横槍入らねェように近海の警備だろ。私は五老星にも忠告はした。でもそうするとあの頭でっかちのジジイ共は決めた。命令に従うのが海軍だけどな、こいつは私の一存でここで仕留める」

「っ……フ、フッフッフッ……!やっぱりあいつらがねえちゃんの琴線か……もうちょいやり方考えればよかったなァ」

「黙れ喋るな囀るな。喜べよ、私の琴線に触れたお前を私が直々に手を下してやる。あのクソガキの公開処刑の前にテメェの処刑だ」

「ドフラミンゴ!貴様も何したのかわかっているのか!!」

「わかっているさ。ねえちゃんの弟たちにちょっかい出しただけだろ?」

はいシバく。
今日も海は綺麗だ、私の荒れた気持ちなんて知らないでいつものように穏やかな姿を見せる。
五老星がエースの公開処刑を決定した。
まだいい、あいつの血筋や立場を考えれば政府としての威厳を見せたいだろうから。
何が起こるかわかっているのかと詰めたがわかっていると苦い顔をしていた、だからもうそれは知らん。
私をその前線ではなく近海の警備に回すのもまだいい。
実際エースの公開処刑を知った白ひげは間違いなくここへ乗り込んでくる、それに便乗して傘下の海賊団に混じって白ひげの首やこちらの首を狙うやつらも現れるだろうからな。
カイドウなんか喜んでやってきそうだ。
その戦力に七武海が混ざるのもまだいい。
あいつらは王下七武海と呼ばれるくらいだ、政府から正式に戦力として認められている。

「でもな、私の弟たちに手ェ出そうとしたこのクソ野郎はたたじゃおかない」

普段持ち歩くことのない剣を持っているのはそのクソ野郎を処すためだ。
刃物を持ち歩くのは苦手なんだよ、すっぽ抜けて関係ない人間に当たったら大変じゃん。
ライフルは別にいい、遠距離にはぴったりで、こちらが弾を充填しなきゃ暴発しない。
おつるが既にボロボロで血塗れのドフラミンゴの前に立ち、センゴクが私の剣を持つ手を抑える。
どうせ私は前線から外されるんだろうなと思ってマリンフォードの自宅にいる弟たちに非戦闘員が避難する船に送ろうと、家に立ち寄った時だった。
……弟たちが誰かをリンチしてるんだが?
下の弟が誰かに関節技を決め、上の弟がその誰かに容赦なく警棒を振り下ろす。
聞けば、私の名前を出して連れ去ろうとしたんだとか。
いや、弟たちにそれはアウト。
下手すりゃ新入海兵より腕っ節強いから。
弟たちに怪我はないからそれだけはよかった。
弟たちがボコボコにしたのは数人、どいつも見たことのあるシンボルマークがあって、ああこれあのクソ野郎の仕業だなと。
弟たちは私の部下に避難船への案内を頼み、私は普段持ち歩かない剣を片手に七武海の招集された部屋へ赴いたわけだ。
それを話せばセンゴクもおつるもあちゃーと頭を抱える。

「琴線どころか逆鱗じゃないか……」

「ガープだっておねえちゃんの弟たちを海兵にするって言ってぶん殴られたんだから……」

「ねえちゃんの弟って言うくらいだからな、そこそこ強いやつらを派遣したつもりだったが……まさか傷ひとつつけられず返り討ちなんてな」

「誰が育てたと思ってんだ。そこらのチンピラなら余裕でボコボコにできる弟たちだぞ」

「一応おれ七武海なんだけどなァ……その配下をチンピラ扱いか」

正直我が弟ながらルーキーたちより強いんじゃないかって思うよ。
あくまで育てたと言っても自分の身を守れるようにだから。
さて、このクソ野郎はどうやって処してやろうか。
センゴクの手を振り解き、改めて剣を構えた。
その時だ、部屋のドアが乱暴に開かれたのは。

「姐さんの弟たちに手ェ出した海賊は貴様かドフラミンゴォ!!」

何故か怒り心頭のサカズキ。
なんでお前がそんなブチ切れてんの?ちょっとおねえちゃんわからねェわ。
まあでもなんだかんだ大将たちは弟たちが小さい頃から交流あるからな……やんちゃした弟たちを吊るしたら少しは話を聞いてやってくれと仲裁に入るのは大体が大将たちだった、主にサカズキ。
逆にねえちゃんやり過ぎ……と大将たちをシバいた時も私を止めるのは弟たちだった。
怒られる同士、ある意味気が合っているのかもしれない。

「そうだよ。こいつのシンボルマークが入っている人間だったから」

「なら火拳の前にこいつを処してええな!?」

「もちろん」

「待った待った待った待った!!」

「おねえちゃんもサカズキも落ち着いておくれ!!」

後から慌ててやってきたクザンとボルサリーノも加わり、それぞれが私とサカズキを羽交い締めにする。
クザンなんか羽交い締めにした挙句に私の足下凍らせやがったんだけど。
おつるがとりあえずお前は一度お逃げ!とドフラミンゴを窓から逃がすのを見て無理矢理足の氷を剥がし、思い切り剣を振り被って斬撃を放った。
チッ、掠っただけか。

「姐さんは早く警備についてくれ!!サカズキ!お前もさっさと持ち場へ行け!!」

「姐さん、見つけたら姐さんに報告でええな?」

「警備に向かう前に仕留めるわ、よろしく」

「もォォォォォ!!」

言っとくけど私はこれっぽっちも悪くねェからな。

 

「意外でした。あなたは火拳と面識がありましたし、てっきり今回の処刑は反対されるかと……」

「公開処刑は、反対だね。秘密裏に処刑なら別にいいけど」

「理由をお聞きしても?」

「公開処刑にしたら間違いなく白ひげが全勢力率いてマリンフォードに乗り込むだろ。どんだけこっちにも被害が出ると思う?間違いなく、覇気も使えない海兵や入りたての新兵は死ぬよ。顔見知り以上の知り合いだから反対する?そんな甘いこと言ってんなら私はロジャーや他の海賊たちの処刑も止めていたし、今頃はもっと混乱した大海賊時代だろうね」

そんな会話がこれから近海の警備へ向かう軍艦のところから聞こえてきた。
ああ、あの人か。
あの人が前線に出れば問題ねェと他の海兵たちの間で言われちゃいたが、まさか近海の警備に行くなんてな。
持ち場へつく前に声はかけておくか、最後に会ったのは何年前だろう。
新兵だった頃はそれはそれはめたくそにやられた。
不名誉なことにサカズキ大将以来のある種大物だなんて呼ばれ方もしている。

「姉貴」

「ん?……ああ、スモーカーじゃん。久しぶり」

「おう。姉貴は前線に出ねェのか」

「横槍防止に行くんだよ。私がいなきゃ海軍もそれまでだって思われたくない気持ちも五老星のクソガキ共も思ってんじゃない?」

……五老星を、クソガキ……
恐れ知らずどころじゃねェな。
ほら見ろ、たしぎなんか震え上がってんじゃねェか。
たしぎは会ったことなかったな。
震え上がっているたしぎの背中を叩き、挨拶くらいしろと声をかける。

「は、はじめまして……!たしぎと申します!」

「はいはじめまして。スモーカーも部下いるなんて、随分成長したんだね」

「姉貴は相変わらずだな。さっきドフラミンゴの野郎をボコボコにしたって聞いたぞ」

「あれはあのクソ野郎が悪い」

そのままやっちまえばよかったのにな、と零せば咎めるようにたしぎがおれの名前を呼び、姉貴は逃げられて残念だよと肩を竦めた。
いいんだよ、多少過激な発言してもこの人は「それなー」くらいにしか言わねェから。
怒られるのは上官に対しての態度がなってねェ時や、明らかな規律違反をした時。
何度叩きのめされたか……普通能力者を海に放り投げるか?
幸いガープ中将がいたからいいものの……
たまには本気でかかってきていいぞと言われて本気でやればワンパンで伸びたことも、自然系のはずなのに覇気も使ってねェ姉貴に絞め技されたことも……思い出したら少し気分が悪くなってきた、やめておこう。
けれど、間違ったことは言わない姉貴だ。
実際何度も除籍になりかけているおれが言うのもアレだが……
悪いこと、やってはいけないこと、それを惜しみなくどんな部下にも分け隔てなく物理で叩き込む。

「……で、火拳と面識があったって?」

「なんだ、聞いてたの?まあ……ロジャーのクソガキに子どもが産まれるって話もされたことあるし、実際子どもの頃に会ったこともあるしね」

「意外だな、姉貴なら全力で止めるかと」

「知っているみんなに言われるけどさ、私は海軍でエースは海賊。そんなこと言ったらキリがないだろ」

なるほど。
辛くねェのかと聞けば、目を丸くした姉貴が珍しく少し寂しそうな表情を見せた。

「私はいつだって見送る側だからさ。そうだな……弟たちが立派になるまでは、見送る側かな」

「柄にもねェこと言うなよ」

そう、柄にもない。
けれど、そうか、姉貴はいつだって見送る側か。
海軍も、海賊も、いつだって見送ってきた人。
見知った誰かが死ねば、海賊でも「残念だね」と言って寂しそうにする人。
どういう理屈か知らねェが、誰よりも長く生きている人。
だから少し前にあのクソガキに会いに行ってきたよと姉貴言う。

「中将、そろそろお時間です」

「そう。じゃあスモーカーとたしぎ、死なないようにね」

「ああ、姉貴も気をつけてな」

「は、はい!ありがとうございます!」

姉貴の部下が姉貴に声をかけると、姉貴はおれたちにひらひらと手を振って船へ向かった。
……まあ、姉貴のことなら大丈夫だとは思うが、柄にもねェこと言っていたからな。

「す、すすすすスモーカーさん!!話しちゃいましたよ!私!!あの!中将と!!」

「わかったわかった、はしゃぐな」

「綺麗な人だったなァ……もっとお近づきになれますかね!!」

「……その前にこれから何が起こるのか理解しておけよ」

おれたちだって、これから戦争なんだ。
姉貴が近海の警備に出るなら余計な横槍はほとんど入らねェだろう。
刃物は持ち歩かない主義の姉貴が剣を提げるくらいだ、警戒はしているな。
キャッキャとはしゃぐたしぎに思わず溜め息を吐いたが、あの人真顔でとんでもねェことするんだぞとも言えず、けれどいつかあの人が海賊をシバキ倒す姿を見て卒倒するんだろうなと少しだけ同情した。
いつだって憧れがとんでもねェ砕かれ方をすると現実逃避をしたくなるものだ。


海軍のおねえさん
今回はガチおこプンプン丸ムカ着火ファイヤーになっていた。
弟たちに手ェ出したら未遂でも処すに決まってんだろ常識的に考えて。
海賊たちと顔見知りが多いけれど、それと処刑をするか否かは別問題として割り切っている。
キリがないからね。
但し、公開処刑は反対。
どれだけの被害が出るのかわかっていないのかお前らは。
この後近海の警備に向かう予定。

ドンキホーテ・ドフラミンゴ
おねえさんの逆鱗踏み抜いた人。
そこまで怒るとも思わなかったし、あわよくば弟たちを盾に引き込もうと思っていた。
失敗して痛い目を見た人、頂上戦争前に死ぬところだった。

サカズキ
はァ!?姐さんの弟たちに手ェ出した!?
許さん処す!

センゴクとおつる
100%ドフラミンゴが悪いけれどめちゃくちゃ怒るおねえさんを必死に止めた。

スモーカー
新兵の頃にめちゃくちゃ締められた経験がある。
憧れの目を向けるたしぎにちょっと同情……絶対ドン引きするぞ……姉貴はやべーから。

たしぎ
噂の中将じゃないですか!!
わー!私お話しちゃった!!

2023年8月5日