やらかした海賊海軍天竜人を徹底的にシバキ倒す話⑩

「な?言っただろ。カイドウなら喜んでこの機を逃がさないで来るって」

「うっっっっっそだろなんでクソババアがこんなところにいるんだよ!!」

「嘘だァ……どう考えても姉さん前線にいるだろォ……」

「赤髪もいますけど」

「関係ねェな」

「既にふたりとも中将を見て倒れそうですが」

「根性ねェなァ、お前ら四皇だろ一応。白ひげ見習え」

今日も海は綺麗だなァ……白ひげの攻撃の余波でめちゃくちゃ波高いけど。
白ひげの攻撃が来るってことは向こうでもいろいろやってんな。
向こうの戦況を伝える電伝虫は船がコーティングされてやって来たと言っていたし、そりゃ私でも無理だわ、そう来るかー。
やろうと思えば誰でもできるものとは言え、まさか白ひげがそうやって来るとは思わなかったわ。
向こうで戦っている海兵たちがひとりでも多く生き残れるように祈りながら剣を抜いて船首へ向かう。

「さて、いつものように甘くはないからな。返答次第でお前らを沈める。暴れたいだけなら相手をしてやるよ、混乱している戦場にお前ら通して可愛い弟分と妹分たちを危険に晒したくねェからな。──赤髪海賊団、百獣海賊団、お前らは何しにここへ来た?」

舐め腐ってかかってきたら本気でやるぞ私は。
ただの中将だと思ったのならここへやって来る資格はねェ、大人しく尻尾巻いて縄張りへ逃げ帰ってろ。
いつものお遊びなんかじゃない、張り詰めた空気。
それを破ったのは、まあ思った通りかカイドウだった。
カイドウは姿を自分の能力である龍に姿を変えると大きな口を開き、躊躇わずこちらへ炎を放つ。
ああそう、お前はその答えな。
私に炎を斬るなんてことはできないので、船首に立ったまま大きく下から上へ剣を振り上げた。
その衝撃で海面が跳ね、水が上がって壁のようにカイドウの放った炎を防ぐ。
全ての炎を消すことはできなかったけれど、威力の弱まった炎を今度は剣を振り払って消した。
お返しとばかりにそのまま斬撃を強く遠くへ飛ばせば今度はキングが姿を変えてそれをプテラノドンの翼で防御する。

「わかった。よォーくわかった。百獣海賊団はここで私が沈めてやる」

そのとんでもねェ威力を戦場には通せないな。
後ろにいる副官に戦闘の指示を出し、今度は視線を赤髪海賊団へ向けた。
別にいいよ、どっちも相手してやれる。
自分の強さは自分がよくわかっているし、それについてこれるように自分の部下たちは訓練してあるからね。
私のように四皇を相手できなくても私のフォローはできる。
私の部下たちだって今の階級にいるのがおかしいくらい、強いんだよ。

「シャンクス、お前は?お前もここで私とやり合うでいいの?」

「っ……おれは、戦争を止めに来た!姉さんとやり合うなんてつもりはハナからない!」

「止めれんの?お前に?四皇で一番若くて私と海賊王の戦闘覗いて海に落ちたことのあるやつが?」

「それを持ち出すのはずるいだろ……姉さんがどうしても通さないなら、カイドウと共闘する形でもおれは通るぞ!!」

白ひげの言葉を借りるならハナッタレがまあよくも大口を叩けるもんだ。
……エースがどうなっても、それを私に止める権利もない。
ただ、行き過ぎた戦闘になって、弟分と妹分たちが倒れているのは、見たくない。

「……中将、どうします?」

「知らね。私はカイドウのクソガキが暴れたいみたいだから相手をするから私と戦う気のない赤髪にまで意識を割いてやる程気は利かねェもん」

「そういうことらしいぞ、赤髪」

それなら勝手に通れ、流れ弾が当たっても知らんし責任も取らねェ。
そこまで優しくはない。
副官の言葉にシャンクスは「ありがとう姉さん!」と私に叫び、自分の船員たちに船を進めるように指示を出した。
さて、シャンクスが通り抜けるまで待つほどカイドウは優しくも甘くもないしな。
私?シャンクスはともかく自分の弟分と妹分には優しいだろ。

「大佐、小物への対処はお前が指揮を取れ。私はあのクソガキみてェな鰻と軟骨なら食えそうな鳥を相手にする」

「了解しました!」

「誰が鰻だクソババア!!」

「あーうるせーうるせー、私はあっさりした鰻の方が好みだ」

「味付けを聞いてるんじゃねェんだよ!!さりげなくうちのキングも食いものに分類すんな!この前は食うところがねェって言ってたくせに!!」

「何?鶏がら煮込めばスープになるって?」

「ちげーよ!耄碌したかクソババアァァァ!!」

お、おれ食われる……!?と尻込みしたキングはそのくらいすればいくらあのクソガキでも少し躊躇うだろ。
メンタルへの攻撃だよ、多分、そんなつもりなかったし。

「お前ら蒲焼きと鶏がらスープな」

夜ご飯は鰻の蒲焼きにしよう。

 

でたらめにも程がある。
つーか赤髪はそのままスルーって、贔屓か、若い方が可愛いってか、おれもババアより年下で可愛いだろうが。
……嫉妬じゃねェからな、嫉妬なんてするか!
飛行能力があるこちらに分があるはずなのに、月歩を上手く使っておれとキングを相手取るババアは涼しい顔だ。
おれがババアと鍔迫り合いをしていれば、そのまま軍艦へ向かうキングへ片手でライフルを向けてノールックで撃ち、軍艦へ近づけさせない。
既に船は軍艦と衝突して、それぞれの甲板にうちのクルーや海兵共が入り乱れての乱戦だが、ババアが率いていることもあってその強さに苦戦しているようだ。

「白ひげと一緒に四皇から外れても悔いはねェなクソガキ」

「吐かせババア!!中将がひとり減ったところで海軍は困らねェだろうなァ!」

手加減なしの雷鳴八卦を打ち込んでもババアは少し体勢を崩して「いてーなクソガキ」と舌打ちをするだけ。
さすがにババアでも海に落ちればほぼ詰みだろう、と思ったが軍艦から小型のボートがいくつか出されており、それがババアの海での足場になるモンだから用意周到さを感じる。
トン、と軽い身のこなしでボートで足をつけたところへキングが刀を振り下ろした。
キングと鍔迫り合いになればババアも剣を取り上げられるはず。
しかし、キングが仕込み刀のスイッチを入れる前に懐に手を突っ込んだババアが取り出したのは小型のナイフ。

「丈夫でも目まで丈夫じゃねェだ、ろっ」

「あっ……ぶねェなババア!!」

「おまいう?当たっとけよペーパーナイフが一本無駄になったじゃねェか」

ババアじゃなくておねえちゃんだ、お前らから呼ばれる筋合いはねェけどな。
そう言って少し怯んだキングの腹に蹴りを入れ、体勢を崩したキングの顔を踏んづけて足場にし、上空にいるおれのところへやってくる。
容赦がねェ、おれが言うのもあれだが。
人獣型になり、それを迎え撃つために雷鳴八卦を振り下ろした。
ババアは負けじと下から剣を振り上げて真正面から雷鳴八卦を受け止める。
八斎戒と剣はぶつかることなく、それぞれの覇気がぶつかりおれとババアを中心に衝撃が広がった。
かの海賊王は能力者ではなかった、だが海賊王として世界を制した。
ババアも能力者ではない、見た目は無害そうな壮年の女、だが数々の時代を生き延びた紛れもない実力者だ。

「つーかよォ……おれとキング相手にほぼ無傷ってのはどんな理屈してんだ!」

「何言ってんだ、お前らが相手にしているのはおねえちゃんだぞ」

意味わからねェよ!!
……懐かしいな、腹が減って軍艦に乗り込んだ時には腹一杯食った後に足掴んで海へぶん投げられた、ロックス海賊団が壊滅した後、研究施設から逃げ出した後、何度も何度もババアと出会してはぶん投げられるわぶん殴られるわ、最近では白ひげと揃って足の小指を踏み砕かれた。
姉貴と呼べばそう呼ばれる筋合いはないと切り捨てられる。
まさかここまで強い女だとは思わなかった。
一対一ではなく、押し通るためにキングと共に戦っていてもこの女相手にここを抜けられる気が全くしない。

「なんでてめェはそんなに強いんだよ……!」

「言ってるだろ、おねえちゃんだからだって。おねえちゃんってのは弟分と妹分が間違ったことをすりゃ全力で怒ってシバいて吊るして躾けるけれど、降りかかる火の粉も払ってやるんだよ」

おれとの空間の空いた鍔迫り合いを力任せに押し切り、体勢を崩したおれの腹に反対の手で持っていたライフルで打撃を打ち込む。
ライフルは!!銃!!鈍器じゃねェから!!
よろめいたおれにもう一発と、ライフルを振りかぶったババアだが下からキングが向かって来ているのに気づいたのか、そのままおれではなくキングに向かってライフルを振り下ろした。

「はいひとり脱落っ」

「ぐあっ!」

「キング!」

諸にババアの鈍器を脳天に受けたキングはそのまま下にあったボートに派手に落ちる。
ボートあってよかった……海なら助けられねェ……!
頭に受けた衝撃に立ち上がれないキングを一瞥し、はんっとババアは鼻で笑って他のボートに降り立った。
……驚かねェぞ、ルナーリア族の頑丈さに打ち勝つなんて、驚かねェぞおれァ。
龍形態になって熱息を放てばババアは海面に剣先をつけてそのまま振り上げて熱息を相殺する。
睨み合っていると軍艦からババアね副官らしい男が電伝虫片手に声を上げた。

「中将ォ!マリンフォードでの戦闘が!赤髪が介入したことで終結したそうです!!」

おれは金棒を、ババアが剣を構えたところで響き渡った声。
……結局、ババアに足止めされたか。

「戦況は?」

「はい!火拳と白ひげは死亡!しかし、黒ひげがインペルダウンの囚人を解放し、白ひげの能力を奪って逃走しました!!」

「はァ?黒ひげェ?」

「どういうことだババア」

「知らん、聞いてろ」

「マリンフォードもですがインペルダウンでも死傷者多数!元帥から帰還命令が出ています!!中将の指示をください!」

うちのクルーを海へ蹴り落として声を張り上げる副官。
おいおいSMILEとはいえ能力者だぞ容赦ねェな。
ババアは舌打ちをひとつ零し、それから剣を下ろした。

「……私に戦う理由はなくなったけど、どうするカイドウ。続ける?」

「……ふん、白ひげのジジイが死んだなら用はねェ」

ここでこの女とやり合っても消耗するだけだからな。
龍の姿のまま、思うように動ける様子のないキングを回収し、クルーにも引き上げるように声を張り上げる。
ババアも引き上げるよ、と静かに指示を出した。
……白ひげのジジイめ、上手くやりやがったな。
この目で見ることはできなかったが、それはそれは人生の最期を飾る最期だったのだろう。
ちらりと船に戻ってボートに立っているババアを見れば、少しだけ、見間違いかもしれねェが少しだけ、寂しそうな顔をしていた。
あのババアも、あんな顔できんだな。
さっさとワノ国へ帰還するぞ、と舵を切らせる。

「……カイドウさん」

「あ?どうした」

「おれ、鶏がらスープになってないですよね……」

「……なってねェなってねェ、おれも鰻の蒲焼きになってねェから」

「こわかった……ねえさんこわかった……」

なんか幼女みてェに泣き始めたんだが!?
お前がMVP!頑張った!よしよし!!と慰めながら追ってこない軍艦にほっと息を吐いた。


海軍のおねえさん
四皇ふたりにも物怖じしない普通の海軍のおねえさん。
鰻の蒲焼きと鶏がらスープが食べたい気分。
ひとつの時代の終わりを感じて、少し寂しいと感じた。

カイドウ
おれだってババアより年下で可愛いだろうが!!
おねえさん相手に怯まなかった頑張った人。
例外なく少年青年時代にシバかれているし、昔は姉貴と呼んでいたかもしれない。
クソガキみてェな鰻って、せめて逆だろ!!
さめざめと泣いたキングを慰めた。

キング
メンタル的な意味で頑張ったMVP。
まさかの鶏がらスープ候補。
おれの初恋返せ!と叫べたらと思ったけど無理、そんな余裕ない。
こわかった……泣き始める様子は怯える幼女。

シャンクス
一度は怯んだものの啖呵をきった。
後々よく姉さんにあれだけ言って無事だったなおれ……!

2023年8月5日