やらかした海賊海軍天竜人を徹底的にシバキ倒す話⑪

「だーかーらァ……殲滅じゃなくて捕縛にしろっつってんだよテメェの頭ん中には何が入ってんだおが屑かァ?」

「いってえええええええええ!!」

「はわわ……」

「とてもデジャヴ……ねェサカズキ」

「言うなボルサリーノ……」

今日も海は綺麗だなァ……時化てるけど。
あの頂上戦争から二年が過ぎた。
時代が変わればもちろん海軍も変わるわけで、サカズキが大将から元帥になって、クザンが退役して、世界徴兵でふたりが新しく大将について、まあそりゃいろいろ変わるわな。
変わらねェこともあるけれど。
新しい大将のうちのひとり、緑牛ことアラマキはどうやらサカズキに憧れているらしく、掲げる正義もそっくりそのまま。
いや、いいんだよ、徹底的な正義でも。
だけど誰が捕縛命令出てんのに殲滅しろっつったよ、サカズキだって頭抱えてんだろうが。
大将のひとりは私に締められるようにでも教育されてんのか、私の仕事は書類業務がメインだって知ってるだろシバくぞテメェ。
逆エビ固めをアラマキにしているわけだけど、サカズキは頭を抱え、ボルサリーノは遠い目をし、イッショウはおろおろしている。

「離せババア!お前中将だろうが!!大将になんてことしやがる!!くっそ、なんで能力使えねェんだ!?」

「お前こそ私を誰だと思ってんだよ弟風情がおねえちゃんに逆らってんじゃねェ、えいっ」

「ぎゃああああああああああああ!!」

「姐さん、そろそろそのくらいに……」

「はァ?」

「なんでもねェです、はい」

いやァ、躾がいがあるわァ。
イッショウが間に入って止めようとしたのでそちらを向けば、イッショウはなんでもありやせん、と首をブンブンと横に振った。
見えないはずなのに器用だな。
ちなみに元帥を降りて大目付になったわけだけど、なんか少し嬉しそうだった、これで胃痛が少しマシになる……!なんて息巻いてたけど。
アラマキの能力はなんだったかな、忘れたけどどんな能力だろうが捩じ伏せるだけなモンで。
しっかし折れるか折れないかくらい力入れてるけどこいつ丈夫だな。
サカズキでも素直にごめんなさいは言えたぞ、言う前に沈めたことがほとんどだけど、まだサカズキの方が可愛げあるぞ。
アラマキを締めながら私の部下がこの書類に不備が……と持ってきたので書類を作成した人間の名前を確認して突っ返すように指示を出す。
両手空いてなくても仕事はできるんですよ、躾もするけど今は仕事中。
葉巻を咥えたサカズキが「姐さん鬼か」と冷静に突っ込んだけれど鬼じゃなくておねえちゃんだと返しておいた。
そうそう、シャボンディ諸島に麦わらの一味が現れたらしい。
消息不明でもう解散したのかと思っていたけれどそうじゃなかったそうだ。
あの頂上戦争でも兄のエースを救うために現れたルフィ。
……ま、元気ならいいけどさ、私と遭遇したらまずは職務質問だな。
サカズキが海軍本部の位置を変えたのと同時に私も警備やら巡回の時はほとんど新世界に赴くようになった。
それだけサカズキはやる気らしい。
頂上戦争後はプラスなこともあればマイナスなこともあった。
言わずもがな戦死者も多く、インペルダウンからの脱獄囚も多く、マイナスがほとんど。
でも世界徴兵ではアラマキとイッショウという戦力になる人間が大将になったわけで、前より一層頂上戦争後のルーキーたちを押し止めることはそれなりにできている。

「姐さん、アラマキ動いてないよォ」

「あ、ほんとだ。根性見せろよ情けねェなァ」

「情けねェで済ます相変わらずの鬼っぷり……」

「姐さん、追加で仕事頼んでもええか」

ぴくりともしなくなったアラマキを解放し、少し乱れた服を直していればサカズキがそう口にする。
あー……なんとなく察した。
そういえば今日はその日か……

「二年前に私の弟たちに手ェ出したクソ野郎は来てるんだろうな?」

「……来んかった」

「……二年前まで頻繁に来ていたくせに、意気地無しめ」

私の言葉にイッショウは首を傾げ、ボルサリーノははァ、と溜め息を吐く。
残念そうなサカズキと私の目標は、あのフラミンゴ野郎。
王下七武海の招集の時はサカズキが「お前絶対来いよ絶対だぞ」と念押ししてはいるけれどサボタージュされているんだよな。
見つけたら処す、それがサカズキと私の方針だ。

「すまんな、新入りもおるから頼んます」

「はいはい」

「一体何をなさるので?」

「フラミンゴ野郎がいたら処す予定だった。でもいないから新入りへの釘刺しだけ」

「姐さん、窓から吊るすのは釘刺しじゃないと思うよォ」

あちらさんにも姐さんは怒らせるなって言ってるけれど、と続けたボルサリーノだけど、まあ吊るされるんだろうなみたいな顔していた。
部下からこれだけはと渡された書類に目を通し、それから伸びているアラマキの頭に書類を乗せる。

「私が戻ってくるまでに書類書き直さなきゃお前を本部から吊るして枯れ木にするからな」

「……へい、姐さん」

辛うじて返ってきたアラマキの言葉に鼻を鳴らし、コートを翻して七武海の招集されている部屋へ向かった。

 

悪い子は〝ディー〟に食われてしまうか、歩く厄災がやってくるぞ。
恩人から教わった言葉、ディーは間違いなくDの一族のことだろう。
けれど、歩く厄災とは一体何なのか。
そういえば、生きる伝説歩く厄災世界のトラウマメーカーと呼ばれた女海兵がいたような。
まさかな。
まさかな……!
恩人にその歩く厄災のことを聞いたらめちゃくちゃ怯えて泣き始めるもんだから終ぞわからないままだったが、今わかった。
今、窓から逆さまに吊るされてわかった……!
なんだただの若作りの年寄りじゃねェか、なんて言わなきゃよかった……!

「ほんっとさ、ノースブルーの出身の人間は私の前でやらかすか喧嘩売るって決まってんの?フラミンゴ野郎も然り、お前も然りか?もうルーキーだから知らねェだなんて言わせねェぞ?」

「高い高い高い高い!!下ろせババア!!」

「口の利き方がなってねェクソガキはこのまま括りつけて吊るしちゃいましょうねェ……海軍本部新名物で吊るされた死の外科医なんてどう?」

「ああああああああああああ!!」

「……うっわ」

「ああ……おねえ様相変わらず若々しくお強い……!」

なんで能力が使えねェんだよ!!
知っている、この女があの生きる伝説歩く厄災世界のトラウマメーカーだと、知っていたはずだ。
そんなものガープのように老齢で強いからだけだと思っていたが、根本的に違う。
覇気を使っている様子もねェ、何かの能力者か?
他の能力者を無効化する能力でも持ってんのか?
いやそれだけじゃ解決しねェくらい、この女には数々の逸話があった。
今回招集された七武海で出席したのはおれ、鷹の目、女帝。
鷹の目はうっわ、と一言だけ発するとそこに座っているはずなのに息と気配を殺し、女帝は何故か頬を赤らめてこの女を見ている。
それだけでこの女の立場や実力を感じ取れた。
あの鷹の目がそこまで自分を察せられないようにするくらいだ、間違いなくこの場で一番強い立場にいるのはこの女。

「おねえちゃん、そろそろ議題に移った方がいいんじゃないか?」

おれの足首を掴んで窓から逆さまにし、上下に動かして落とすか落とさないかの動きをしている女につるが声をかける。
女はおれの足首を掴んだまま、手首の時計を確認すると溜め息を吐いておれをそのまま部屋の中へ、なんなら床へ叩きつけた。

「手間取らせんなクソガキ、時間が押しただろうが」

「っ……てめェ……!」

「あ?やんのかクソガキ七武海の席空けてやろうか?おん?」

「おやめトラファルガー、あんたじゃおねえちゃんに敵わないよ。おねえちゃんもそのくらいで勘弁してやっておくれ……」

あのな、ロー……歩く厄災は、一見無害な女の人に見えるけれどとんでもねェお人で躾のなってねェのがガキでも海へ放り込むんだよ……!うっ、思い出すと頭が……!
べしょべしょに泣きながらそう発した恩人は、おそらくこの女と会ったことがあるのだろう。
……二年前に出会わなくてよかった、でも出会っちまった……!
二年前ならこの女相手に立ち向かうどころか逃げられる気もしねェ、なんなら頂上戦争でこいつがいなくてよかった。
けれど今はどうだ、もう七武海の招集に応じねェからな!!絶対だ!!

「おつる、おつるが言ってもあのクソ野郎は来ないの?」

「絶対行くもんか!ドレスローザから出ねェからな!!って泣いていたよ」

「自業自得だろうに被害者ぶるなって伝えておいて」

……誰かなんとなくわかった。
お前何したんだ……おれがあいつを倒す前にこの女に処されんじゃねェのかな……
それはそれで複雑。
さらに、多分だが、躾のなってねェ海に放り込まれたガキってドフラミンゴじゃねェのかな……知りたくなかったそんな事実。
女が席について書類を片手に今回の議題を口にする。
さっさと終わらせてパンクハザードへ戻ろう……そうしよう……


海軍のおねえさん
二年後も変わらず。
大将のうちひとりは必ず私に締められるくらいやり過ぎるジンクスでもあんの?
ドフラミンゴ絶対処す、絶対にだ。
パワーアップ?いえいえ通常運転です。

サカズキ
元帥になって締められることはほとんどなくなったけど代わりに胃痛がするようになって葉巻を吸う本数が増えた。

ボルサリーノ
わあ……デジャヴ……

イッショウ
見えなくてもアラマキの悲鳴でわかるこの惨状。

アラマキ
影でサカズキの再来と言われている。
逆エビ固めで関節ボロボロにされた。

トラファルガー・ロー
まさかドフラミンゴのように吊るされると誰が思うのか……
歩く厄災は絶対こいつのことだ……やべー女じゃねェか……
いくつか知りたくなかった事実が判明してめちゃくちゃ複雑。
海軍本部新名物の吊るされた死の外科医になるところだった。

ジュラキュール・ミホーク
おれは今空気……空気……

ボア・ハンコック
おねえ様!相変わらずじゃな!!好き!!

2023年8月5日