やらかした海賊海軍天竜人を徹底的にシバキ倒す話⑫

「……アラマキさァ」

「……」

「なんっでこの前あんだけ捕縛にしろっつったのにしねェんだよ」

「……」

「黙ってちゃわかんねェからな。サカズキからもちゃんとお前が言い分言えるように締めるのは後にしてくれって言われてんだから」

今日も海は綺麗だなァ……何隻海賊船沈んだのかなァ……
正直世界徴兵で集まったやつらは三等兵も全部すっ飛ばしてそれなりの位置に立つ人間が多いせいか、仕事が荒い。
そりゃあ戦力としては申し分ないよ、でもここは海軍なんだよ。
ただ暴れたいならどこかの国の傭兵でもやればいい、けれど、暴れられる国は数あれどわざわざ世界徴兵の機会に入隊したんだからやるべき事はやってもらわないと困る。
私の階級は中将、こいつの階級は大将。
中将が大将に説教垂れんなって気持ちはわかる、けれどわざわざサカズキが私に頭下げたんだからちゃんと話してもらわなきゃ私もサカズキも困るんだよ。
どうやらサカズキに憧れているらしいけれど、あのサカズキだって最初は雑用だった。
そこで上官への礼節やらやりたくもねェけど天竜人への態度やら、海軍としての働きは何かを叩き込まれて今では元帥にまで登り詰めたんだ。
何もかもすっ飛ばして大将になるのは凄いことだと思うよ。
でもだからって全部見逃すわけじゃない。

「……褒められたくて」

「ん?」

「サカズキさんに、褒められたくて……」

……拗ねた子どものような表情でそう言うもんだから思わず目を丸くした。
なんで同じ正義を掲げる人間はこうも似るのだろう。
アラマキと私にお茶を出していた副官も目を丸くしている。
サカズキの徹底的なスタイルが大好きなんだと、だからようやったのうって褒められたいんだと。

「褒められたくてやることが悪いのかよ」

「いや、それは別に悪くねェよ」

「ならっ……!」

「あのクソガキも私に褒められたいって張り切っていた姿を見ていたからわかるよ」

同時にサカズキの気持ちもな。
元帥になって見えるものは増えただろう。
ただ殲滅させるんじゃだめだ、頂上戦争後から二年が過ぎていてもまだ混乱な世界に海軍の力を見せつけるなら、それだけじゃ無理なのだとわかったはずだ。
私は何年も何十年も口酸っぱくして言っていたよな?
なんで海軍が捕縛するのかって。
殲滅するなら智将と呼ばれたセンゴクらしく、海賊には海賊をぶつけりゃいい。
なんで敢えて捕縛をするのか?
人から命を奪うよりも、難しいからだよ。
海賊はそんなことしないだろ、海賊は何もかもを奪っていくだろ。
例外は何人かいるけれど、海賊の本質ってのは欲しいモンは奪うってところ。
そこに人の命も当たり前にあるんだよ。
でも私たちは海軍だ、海兵だ。
ただ命を奪うなら、エースだって公開処刑なんてことせず黒ひげから引き渡されたその場でやればよかった。
意味があるから公開処刑に踏み切ったんだろ政府は、私の忠告も苦い顔して殺してさ。

「ただ力を誇示したいなら海軍じゃなくていいはずだ。どの海兵にも言っているけどさ、殺すんじゃなくて捕縛っていう殺すよりも難しいことを海軍はやってのける力があるんだと、示さなきゃいけない。殲滅だけなら海賊と変わらない暴れん坊の馬鹿だ」

「う……」

「サカズキはやり過ぎるところはあったけどね、今もか。それでも命令でなければ基本的に捕縛するようにあいつも努力しているよ」

まァ、手加減してられない相手ってのは一定数もいるけどな。
そんなド正論と昔話は置いておいてだ。
机の引き出しから書類の束を出してそれをアラマキの前に置く。
これ?全部お前が書くべき書類。
アラマキは戸惑ったようにその書類の束を掴んでパラパラと捲り、それからなんとも言えない顔で私を見た。

「これ……まさか……」

「お前がこの前沈めた海賊のリスト。それと討伐の報告書。なんでちゃんと捕縛しろっつってんのか、私の書類業務を増やすんじゃねェってのも込みだからだよ」

「多いだろ!もうちっと……せめて半分、いや三分の二……!」

「は?」

「……なんでもねェよ」

「じゃあやる気になるものをやるよ」

サカズキ大好きっ子には一番効くやつあるんだけどさ。
お茶を啜りながらその書類を指差して口を開く。

「今日中に終わらせたらサカズキの昔話でもしてやろうか」

「めちゃくちゃ気合い入れて頑張ります!!」

よかったなサカズキ、やる気出たってさ。
上の元帥の部屋でぶえっくしょいと盛大なくしゃみが聞こえたような気がした。

 

物騒な女、可愛げのねェ女、面白くねェ女。
サカズキさんに姐さんって呼ばれていて、サカズキさんからの信頼も厚くて、ほんっとつまらねェ。
中将のくせに大将のおれに説教垂れる、なんなら締められる、物理で。
これがめちゃくちゃつえーんだ。
なんの原理か知らねェけど締められいる間は能力使えねェし、かと言って真正面から殴りかかれば「えいっ」なんて軽い掛け声でぶん投げられる。
能力が使える距離で能力使っていってもただのペーパーナイフで切られるし、なんなら一度頭冷やせと言われて海に放り投げられた。
……能力者を海に放り投げるなんて鬼か、ただの鬼だわ。
いいんだか悪いんだか、何故か一部の将校からは「サカズキの再来」だなんて呼ばれてるんだけどどういう意味でだ。

「まあ……姐さんはあんな感じの人だけどねェ、わっしらのこと大切に思ってのことだから変に立ち向かおうとしないのがベストだよォ」

「……あんたも投げられたことあるのか」

「いいや、わっしは生粋のいい子だからサカズキよりも回数は少ないよ」

その歳で生粋のいい子って言えるところがなんとも……なんかボルサリーノさん遠い目してるし……
それに、おれが世界徴兵で海軍に入る前から女の噂話は多かった。
天竜人を殴るわ、先の頂上戦争では横槍に来たカイドウを足止めするわ、なんならオカルトチックな記事が新聞に載せられるわ。
……天竜人を殴ってよく何も起こらねェなあの女。
生きる伝説、歩く厄災、そう呼ばれているのは誰もがしないことを怖気ることなくやるからだろうか。
そんな女の部屋で渡された大量の書類を相手にペンを走らせる。
確かに書類業務やべーわ、そりゃあおれめちゃくちゃ怒られるわ……
殲滅した海賊の手配書を討伐済みにする手続きの書類、討伐の際に出た被害額の計算をして会計へ回す書類、誰が誰を、誰が何を、エトセトラエトセトラ……多い……
それから始末書。
……あれ?これおれのじゃなくね?

「あ、それ私のだわ」

「は?」

「いやー、今年は世界会議レヴェリーでしょ。マリージョアの警備の下見に行った時に天竜人のクソガキ殴っちまってさァ」

買い物に行った時に猫拾ったみてェな言い方しないでほしい。
えっ、おれの感覚おかしい?
ちらっと副官を見ればぶんぶんと首を横に振っていた。
よかったァー、おれの感覚正しいわー。
つーか、何してんのこの人。

「五老星の教育がなってねェクソガキがいるんだよ」

「おう」

「躾には暴力が一番だからさ、ついね」

「ついで済むのかそれ」

「私は済むと思っている」

書き終えてはいるようだが……内容酷いな、始末書じゃなくて反省文じゃんか。
クソガキの躾には私のルールがあるからいいんだよ、とそれをおれの手から取ると提出用の箱へ適当に入れた。
……なんで大将にならないのか風の噂で聞いたことはあるんだけどな……マジか。
ガープ中将は自分から昇進の話を蹴っているが、この人は天竜人から超絶全力拒否でならないんだよな。
なんでも、ストレスで天竜人が死にかねないとか。
ただの噂じゃねェわこれガチの話だわ。
……あれ?一番やべーのこの人じゃね?

「……女に聞くのはさすがに失礼だとはわかってんだけどさ」

「うん」

「……おいくつ?」

「お前の曾祖父母の、そのまた曾祖父母が生まれる前から生きてんじゃない?」

何年前だよ!つーか適当!
見た目はそこそこいい歳の女なんだけどな……ババア通り越してバケモンじゃねェの。
言わねェでおこ、ボルサリーノさんじゃねェけどいい子にしよ。
しばらく無心に書類の処理をして、どのくらい時間が過ぎたか。
終わったー!と丸めていた体を伸ばせば「おつかれ」と姐さんがおれの頭を撫でた。
まるでいい子、と褒めるみたいに。
……サカズキさん、この人に褒められたくて頑張っているってこの人は言っていたっけ。
ガキ扱いするな、と言いたいけれど言いたくないというか、むず痒いというか。

「書類の提出はこっちでするよ。お疲れ様」

「……お、う」

「そのままサカズキにも書類終わったって報告行っておいで。サカズキも褒めるだろ」

よしよし、と撫でていた手が離れる。
なんだろう、サカズキさんの気持ちがちょっとわかるような。
ぎこちなく立ち上がって、入って来た時とは違ってちゃんと挨拶をしてから出ればドアが閉まる瞬間に少しだけ穏やかな表情をした姐さんが手を振ったような気がする。
褒められた。
あの、物騒な、可愛げのねェ、面白くねェ女に。

「……やべー……ちょっと、嬉しいかも……?」

サカズキさんの部下が褒められた、ってサカズキさんが知ったら、サカズキさんも姐さんに褒められるだろうか。
浮かれた足でサカズキさんの執務室に向かっている途中、そういえばサカズキさんの昔話聞いてねェ!と思い出したけど、またの楽しみにしようとそのまま足を進めた。


海軍のおねえさん
弟分の頼みなら弟分の部下の教育くらいする人。
飴と鞭の使い方が上手い、ただし圧倒的に鞭が多い。
ド正論ばっかり言うのでいろんな人の心をベキベキに折ったことは数知れず。
私も反省文提出しに行こーっと。

アラマキ
多分おねえさんの洗礼をたくさん受けて拗ねた子どもみたいになっている。
中将って、おれより下のくせに。
なのにサカズキさんに頼られるとか、ずるい。
そんな子どもみたいなこと思ってそうだなって思いました。
けれどしばらく後のワノ国での話がおねえさんの耳に入ったらおねえさんに締められる未来が待ってます。
おねえさんからはサカズキ二号と思われていることは知らない。

2023年8月5日