「いやー、褒めてほしいよね、クソフラミンゴ野郎沈めに行こうと思ったらビッグ・マムの船来ていて、それの対処したんだから。なのにもうクソ野郎捕縛終わってんの?なんで?なんでお前いたのに海賊が倒したってなってんの?何考えて部下巻き込んであんなことしたの?」
「……すいやせん」
「謝るより先に状況報告。なんであんなに海賊やら各地の犯罪者いるのに放置しているのかも、理由があればそれ以上は怒んない」
今日も海は綺麗だなァ……戦闘があったのに、この国の周辺は今は穏やかだ。
イッショウに言った言葉の後に多分ね、と付け足す。
イッショウよりは後だったけどドレスローザにやって来た私が最初にしたのは、何故かドレスローザから離れた小さな島の近くに来ていたビッグ・マムの船だった。
あれ放置しておくとめんどくさいな、と呟いた私の言葉に副官がマジですかと嫌な顔したけれど、せめてドレスローザから離そうと対処していたんだわ。
で、ビッグ・マムのところは麦わらだったかな?を追いかけ回していたからさらに後ろからビッグ・マムのところを追い回し、追い払って合流して今に至る。
めちゃくちゃ泣きながらあのでっかい船は逃げてったな……
ドレスローザに来たらもう全部終わってんし。
まあ、あのドフラミンゴが捕まったんならこれ以上は特に何もしない。
せっかくライフルの弾も大量に持ってきて剣もドレスローザに戻る道すがら研いできたんだけどな。
それに、私がドレスローザに引き返す前にサカズキから入った連絡。
大丈夫?センゴクに言って胃薬もらえば?って言ったのは純粋な親切心だったけどしょっぱい顔してたなサカズキ。
貧乏揺すりをするようにトントンと爪先で地面を叩く。
誤解されるようだから先に言っておくけど別に怒ってない、まだ。
現状報告を求めているだけだ。
中将が大将にこんなことして許されんのは私だけだろうな、と他人事のように思っていたら申し上げやすが、とイッショウが口を開いた。
イッショウから語られたのはサカズキからの連絡と変わりはない、まあ気持ちはわかるよ。
ビッグ・マムのように最初から国を作るのとは訳が違う。
二年前のアラバスタのこともあるしな、海賊が国を乗っ取る、まあ今までもなくはない。
実際カイドウはそうだろうし、ただあれは政府非加盟国だから手が出せないっていうのも噛んでいる。
政府加盟国で海賊が、しかも王下七武海が、それが問題だからな。
「……若いねェ」
それを実行できる行動力が。
そりゃあ、私だって随分昔からおかしいとは思っていたさ。
別にだからってサカズキのように面目が丸潰れだって怒ることもしない、今回のように証拠と指示が必要だしな。
一応長く組織に身を置いているから組織の顔も立てているんだよ。
はあ、と溜め息を吐けばイッショウは身を固くした。
「サカズキと揉めた件は理解した。じゃあ次行こうか」
「次……?」
「なんでまだ海賊たちを捕縛しないのか、それはサカズキの件とは全く関係ねェだろ」
「……それは」
「それは?」
「……海賊でも、この国を救った英雄でございやしょう」
「……あー……なるほど」
イッショウの言葉の後にイッショウの部下たちがサイコロで決めてるんですよ!居場所わかっているのに……!と私に告げ口をするように、イッショウを咎めるように言う。
……別に、そうやって言うのは構わねェがてめーら自分の上司がいるまでそれ言うのどうなの?
私が聞いているのはイッショウにだ、他はすっこんでろ。
その部下たちを睨むように視線を向ければひえっと声を上げて部下たちはイッショウの後ろに隠れた。
「……一応、人生の先輩として忠告はしておくけど」
「はい」
「海賊相手にそれやると生きにくいよ」
麦わらが、ルフィがいるっつってたな。
あいつは二年前に海賊として旗を掲げてから人を惹き付けて止まない。
特に頂上戦争なんかがいい例だ。
兄を、エースを助けるためだけにインペルダウンの元囚人たちを引き連れて乗り込んできたんだから。
その場に私はいなかったけど。
イッショウね気持ちもわからんでもない。
けれど海軍の人間が海賊に対してそういった感情を抱く時点で生きにくい、生き苦しい。
「ご忠告ありがとうございやす」
「ま、ドフラミンゴの野郎をボコボコにできなかった分そのサイコロで捕縛が決まるまでいるからよろしく、海賊相手なら鬱憤晴らしにしてもいいだろ?」
「……少しは手加減なんかは?」
「は?するわけねーだろ海賊だぞ」
ですよねー、と私の後ろに控えていた副官が呟いた。
「ねえちゃんが来てるゥゥゥゥ!!でも、でもあの大将のおっさんとケリもつけてェし……!でもねえちゃんからは逃げてェしィ……!!」
「私も仲間にいーれーてー」
「ねえちゃんはやだああああああああああ!!」
「地獄の鬼ごっこwith中将かよ」
「サブタイトルはどう足掻いても絶望」
「シッ!中将の耳に入ったら怖いぞ!!」
前から思っちゃいやしたが、姐さん一体何したんで……?
あっしには果敢にも立ち向かってきた麦わらが姐さんの姿を見るや突然泣きに入った。
姐さんから怒りや敵意の感情は読み取れない。
なんなら「ちょっとおイタしたクソガキとっちめてやろ」みたいな……お仕置しとくかーみたいな軽いものしか感じ取れない。
ドフラミンゴのことを話す時はとても敵意と殺意に満ちていた。
聞けば先の頂上戦争の前にドフラミンゴが姐さんの弟御方に手を出したって話だ。
あれはまた別だろう、姐さんの話は海軍になる前から知っていたのだ、あのオカルトじみた存在の、天竜人でさえ恐れる姐さんの逆鱗を逆撫でて地雷を踏み抜くなんてどれ程のことか。
そうだとしても生きる伝説、歩く厄災、世界のトラウマメーカーは一体どこまでどこのどいつにトラウマを植え付けているんで……?
ああでもだめだ、言っちゃなりやせんね、あっしいい子ですから。
麦わらを〝猛虎〟で飛ばせば姐さんがあっしの横を駆け抜ける。
……見えねェからこそわかるのだろうが、姐さんちょっと楽しんでやいやせん?
凪というか、戦闘であっても姐さんは穏やかな人だ。
姐さんが走っていった先からキィンと金属の擦れる音が聞こえた。
「てめェか……あの鷹の目が口酸っぱくして見たら逃げろっつーやつは!」
「なんかちょっとミホークの太刀筋に似てるな、弟子かなんか?」
おや、姐さんが剣を抜くのは珍しい。
いつも刃物は扱いが難しいからとライフルを好むのに。
ペーパーナイフ以外は好まない、そうぼやきながらも嫌々剣を奮う姿はあったが。
恐らく姐さんと剣を交えているのは海賊狩りだろう。
が、姐さんをただの中将止まりの海兵と思っちゃならねェ。
四皇相手に無傷な、この世でかの海賊王と並ぶ強者に違いねェんですから。
案の定と言うべきか、海賊狩りの悲鳴と何かが飛ばされる音と衝撃波がこちらへ襲ってきた。
「やっべ、つい力があり余っちった」
ついで済むか。
そう思ったのはその場に居合わせた全員だろう。
「姐さん、ガレキ落とすんで退避を」
「はいよ」
ほらほら、危ねーから国民の皆さんはさっさとすっこんで。
姐さんに声をかければ姐さんが国民に声をかける。
まあ、麦わらには落とす気ねェんですがね。
そんなあっしを見て、呆れたように姐さんが「やっぱりお前海兵として生きにくいタイプだよ」と溜め息を吐いた。
ドレスローザの後処理も終え、ドフラミンゴを護送するために軍艦に乗り込む。
「あっしに生きにくいと言っておりますが、姐さんもさぞ生きにくいのでは?」
殺ろうと思えば海賊狩りも殺れただろうに。
蕎麦を啜りながら言えば、同席していたセンゴクさんが笑った。
そりゃあそうだ、ロジャーの頃から、いやその前から姐さんは生きにくいだろうさ。
あっしよりも姐さんと過ごす時間が長いからだろう、困ったようにセンゴクさんはそう言葉を漏らす。
いつから海軍にいたのか、いつから生きているのか、それは姐さん本人以外誰も知らない。
知っているのは、あの人は海軍どころか海賊にすら姉と慕われていること。
天竜人、五老星でさえあの人の扱いに頭を悩ませていること。
子どもには底なしかと思うくらい優しいこと、まあ躾はしているんでしょうし、あっしらも姐さんから見たら子どもなんでしょう。
弟御を、それはそれは大切にしていること。
「なんならロジャーをクソガキと呼んで互角にやり合ったくらいだ、我々の曾祖父母、そのまた曾祖父母の頃から生きていたって誰もが納得する」
「……だからガチの生きる伝説と言われるわけですか」
見た目はあっしよりも遥かに若く見えるらしいというのに。
……いつか、姐さんと酒でも飲みながら姐さんの身の上話でも聞きたいもんでさァ。
と、ふと軍艦の甲板に悲鳴が聞こえてきた。
これは……ドフラミンゴの……?
「……」
「……」
「……あー……あっちはおつるちゃんがいるから大丈夫だと思うがな」
「……せめて生きててくれねェと困りやすがね」
今頃、ドフラミンゴは檻越しでよかったと何よりも誰よりも感謝していることだろう。
海軍のおねえさん
いろいろ処理してたらドレスローザのことは全部終わっていた。
不完全燃焼。
久しぶりに会ったルフィにあーそーぼーって感じで言ったらめちゃくちゃ泣かれた。
地獄の鬼ごっこwithおねえさん〜どう足掻いても絶望〜
ただし未遂である、本気出したら多分鬼側として無双する。
ドフラミンゴのところに「よォこの前振り」と珍しく悪人面で笑って泣かせた。
イッショウ
サカズキと怒鳴り会うより冷や汗かいていたんじゃないかな。
おねえさんがルフィに声をかけた時はちょっと可哀想だと思った、でも言いやせん、あっしいい子なんで。
生きにくいよと忠告されたけど、それは姐さんもじゃないんですか。
モンキー・D・ルフィ
なんでねえちゃんがいるんだよォォォォォ!!
ガチ泣き。
でも逃げ切れました。
逃げ切った直後はギャン泣きしてた。
ロロノア・ゾロ
こいつがミホークが震えつつ青褪めながら言ってたやべーやつ……!
強者と戦うってところではワクワクしてたけど吹っ飛ばされた。
まだおねえさんのやべーところは見てない。
ドンキホーテ・ドフラミンゴ
檻越しでとてもよかったけどにんまり悪人面で笑ったおねえさんを見て悲鳴上げて泣いた。
センゴク
まあ姐さんだからな。
おつる
頼むから檻壊さないでよおねえちゃん。