初めて足を踏み入れる森は鬱蒼と木々が生い茂っていた。
意外と薄暗くて、足下に道具が落ちていて、きっと落とした人も気づいてないんだろうなって思いながら道具を拾って、そのまま鞄に入れる。
私からしたらキズぐすりはとても高いものだし……とてもラッキーかな。
それにしても本当に薄暗い。
『名前さま……わたしあまりここはすきじゃないです……』
「グウゥ」
「え、どうしたの」
虫取り少年とのバトルでケムッソたちをコゲコゲに焼いたヒエンを褒めているとレインがいやいやするように首を横に振った。
ルルも嫌そうに顔を顰めている。
え、なんで?どうしたの?
とりあえずささやかな賞金を受け取り、草むらから出た。
ポケモン図鑑でフルにバトルをしていたヒエンの体力とPPを確認してからレインの視線に合わせるようにしゃがむ。
レインがケガしたとか、そういうのではなさそうだけど……
『わたしもルルさんも、むしはにがてなんです』
んん?
『ヒエンは、とくいですけど』
ヒエンは得意……?
あ、もしかして相性のこと?
ヒエンは炎タイプだから虫タイプに強いのは納得できるとして、ルルとレインはなんでだろう。
タイプとか見落としてるかな?
そのままポケモン図鑑を操作して、アブソルの項目とラルトスの項目を順番に表示した。
アブソルのルルは悪タイプ、ラルトスのレインはエスパータイプとフェアリータイプ。
ポケモン図鑑にタイプの相性表なんて載ってないし、そもそも私が全部覚えてるわけじゃない。
どうしよう……虫タイプ相手にルルとレインは出さないようにして、今度ユウキやハルカに聞いてみよう。
「チャモ?」
「待ってね、少しメモするから」
鞄の隅に入っていた小さなノートを取り出して、ピカチュウ柄のボールペンで『悪タイプ、エスパータイプ、フェアリータイプは虫タイプに相性悪い?』と少し丸っこい字で書く。
うーん……相性を考えるとここでポケモンを捕まえておいた方がいいのかな……
今のところ、ここで出会ったのはケムッソ、カラサリス、ジグザグマとスバメだ。
虫ポケモン……ケムッソか、カラサリスを手持ちにしようかな……さっきの人は虫ポケモンは育つのが早いって言ってたし、加えても悪くはなさそう。
「よし、ヒエン、もうちょっとがんばってね」
「チャモチャモ!!」
ヒエンの頼もしい声に笑って、もう一度草むらへ足を踏み入れた。
―side:?―
なんとも不思議な女の子だ。
昨日見かけたあの男の子はあの男の子で見所のあるトレーナーだったけど、あの子はあの子でまあまあな感じ。
連れているポケモンが珍しい。
新米トレーナーだとは思うけど、ミシロタウンから来たと思うのにアブソルがいるなんて。
アチャモはオダマキ博士からもらったのだろう。
ラルトスもあまり出てこないけれど、トウカシティの手前で根気よく探せば遭遇することはできる。
でもああやってテレパシーを使うラルトスは見たことないな。
元々の潜在能力が高いのかな……それとも、あの子自身がラルトスの力を無意識に引き出すトレーナーの器なのか。
まあ、どちらでもいいけれどね。
「ヒエン火力抑えて!焦げる!!」
さあ、調査に戻りますか。
踵を返し、ちらりとあの三つ編みの女の子に視線を向けると、焦げて倒れているポケモンと胸を張っているアチャモを見て慌ててモンスターボールを取り出していた。
「……まあ、極々普通の新米トレーナーだよね」
嬉しそうな顔とか、ポケモンたちへの接し方は嫌いじゃないかな。