104番道路(S)

翌朝。
私の言ったとおり、昨日より早めにトウカシティを出ることが出来た。
道具も少し買い足したし、お小遣いも少し残っているから安心かな。
ただ、朝に私の髪を握っていたラルトス──レインがなかなか手をはなしてくれなかったくらいで。
わたしがあんでみたいです、って言ってくれたのは嬉しいんだけど丁重にお断りした。
カナズミのポケモンセンターについたらやらせてあげると約束をして、残念そうに落ち込んでいたけど考えた名前を言えば180度表情が変わって笑顔になっていたのは本当によかったと思う。
由来は、言わない。
私のフィーリングみたいなものもあるけれど、改めて口に出すのは、なんか恥ずかしい。

「わあ、ここ海だったんだ……!」

さくさくと砂浜を歩いて波打ち際にまで寄っていく。
バトルガールとバトルをし、見事アサナン相手にに勝利を収めたラルトス──レインは私の後をついてきて、恐る恐ると波打ち際に足を踏み入れた。
どうやらここにまでは来ないらしい。
あ、じゃあヒエンも見たことないのかな。
ルルも久々だろうから、少し出そう。
そう思ってルルの入ったボールとヒエンの入ったボールを宙に放る。

「チャモ!?」

「……グゥゥ」

「海だよ海。この先は……」

マルチナビでマップを開いてこの先に何があるのかを確認した。
この104番道路の南側と面しているのは105番水道、それに連なるように106番水道があって、ムロタウンがあるらしい。
ムロタウン……石の洞窟っていうのがあるとか。
波打ち際でバシャバシャと水遊びをするレインと、その標的になってるヒエン。
……ん?ヒエンて炎タイプだから……苦手なんじゃ?
案の定、逃げながら抗議するように鳴いている。
レインはそんなことを気にしていないのか無邪気だ。

「チャモオオオオオ!!」

「そろそろ行こうか。またトウカシティに来るんだし、その時にここに寄ろうね」

『はい!』

「チャモ!モチャアアアア!!」

レインを先にボールに戻しても怒り心頭なのか、可愛い声で訴えるヒエンを暴れないでね、と抱き上げて波打ち際から離れる。
それにルルもついて来て、溜め息をついた。
呆れているのかな、ルルの方が私よりもお兄さんだし。
目に見えて怒ってますよ、という表情のヒエンを宥めるようにわしゃわしゃと撫でる。

「ガウゥ」

「チャモ!!チャモ~!」

「ほらヒエン、暴れないでってば。ルルもあんまり火に油注がないの」

炎タイプなだけに大炎上必至だろう……
砂浜から上がって、小さな木造の小屋の横を通って向かうのは目の前の森。
トウカの森。
そういえば、森に入ったことないからちょっとドキドキするな……
海っ子だったから、余計に。

「……中は暗いのかな」

鬱蒼と生い茂る木々を見て、中の様子を想像しながら木のトンネルをくぐった。

2023年7月25日