アブソルと雨宿り

しとしとと雨が降る。
ポケナビでこの後の天気予報を確認すると、雨はこのまま続くらしい。
126番水道の秘密基地、急ごしらえだけど好きなぬいぐるみやクッション、オブジェに囲まれたカーペットの上で寝そべっているアブソルの横に体を横たえた。
ルネシティまでもう少し、でも雨が降って来たし夜も遅いから今日はここで休んでから明日の朝ルネシティに向かおう。
途中のトレーナーさんたちともたくさんバトルをしてみんな疲れている、ベッドで体力は回復しても疲れるもんね。
今日一日どこからどこまで移動して、何があったのか旅の始まりから使っているノートに軽く書いておく。
たくさん書き込んだノートの端は少しボロボロになってきていて、引きこもりだった私がここまで来たんだなぁと感心した。
ユウキとハルカはマグマ団とアクア団を追ってルネシティの近くまで来ているらしい。
凄いな、あのふたりは。
私なんか怖くてできない。
トクサネシティから見えたあの大きな光、ルネシティの方角だと言っていた。
つまり、ここら辺にマグマ団とアクア団がいる。
……ただのポケモンバトルならいいの、私もトレーナーだから戦えるから。
でも、悪い大人相手って、また違うよね。
怖い。
マツブサさんやアオギリさんは、それぞれ信念があって行動しているとはいえ、やっていることは悪いことだもの。
ミナモシティにアジトがあるとも思わなかったし、そこでずっと生活していたんだと思ったら後で怖くなってしまったし。

「……こわい、なあ」

「……」

「ねえルル、私怖いよ」

私にはできないよ、ユウキやハルカのように、立ち向かうなんて。
誰かにそうしろと言われたわけではない。
もちろんユウキとハルカが誰かに言われたわけじゃない、でも、彼と彼女は旅の途中で託された。
大人が子どもに託すには重いものだと思う、でもふたりは迷うことなく託されたものを受け取って、強くなって、ここまで来た。
兄さんに無理矢理連れ出されて無理矢理旅に出された私なんかとは大違い。
なあなあでここまで来た私なんかとは。
アブソルの横でノートを広げたまま体を丸めれば、アブソルは片方の前足を上げて、まるで抱き込むように私の体に回した。
大丈夫だと、着いていると、そう教えてくれるように顔を擦り付けて額をぺろっと舐める。

「グウゥ」

「……うん」

ルルがいる。
大好きなアブソル、お兄ちゃんみたいで、大切な唯一のパートナーで、大好きで大好きで仕方ないアブソル。
私の方が背は大きくなってしまったけれど、でもやっぱりずっと頼りにしている大好きなルル。
ずっと冒険をしてきた。
戸惑いながらもアチャモだったバシャーモと出会って、成り行きばかりの道のりだったけれど、今ではサーナイトもキノガッサもコモルーもミロカロスもいる。
ひとりじゃない、私とアブソルだけのふたりが世界は、いつの間にか私と六体の世界になって。
ユウキやハルカのようにマグマ団とアクア団に立ち向かえたことはないけれど、でも戦ったことがないわけじゃない。
だって私のルルは強いの。
ずっと守ってくれた、他のみんなもそう。
みんなが強くなっているのに、私だけ引きこもっていたままの名前じゃないはずだもの。

「明日はルネシティ、最後のジムがあるから、頑張ろうね」

ホウエン地方の一番強いジム。
今までだって強い人たちばかりだった。
技も特性も、なんなら異常状態すらわからない私がここまで来れた。
ミシロタウンからミナモシティに帰るためだった旅が、いつの間にかここまで来た。
だったら大丈夫、ユウキとハルカのようにはなれなくても、最後のバッジを手に入れて、サイユウシティのポケモンリーグまで辿り着けば、きっと変われる。

「大好きだよルル、ずっと一緒にいようね」

「……ウゥ」

大丈夫、一緒だから。
ああ、アブソルからお日様の匂いがする、とても安心できる。
おやすみ、とアブソルに声をかけて目を閉じればアブソルも応えるように声をかけてくれた。
まだ私は知らない、この先に何が待ち構えているのか、私の身に何が起こるのかも、八つ目のバッジを手に入れても、サイユウシティには行けなかったことも。

2023年7月25日