別に笑っているわけでも怒っているわけでもないんだよなあ。
くっついては離れての繰り返しで。
戯れに唇を舐めたり、甘く噛んだり。
あまりしないことをするもんだから恥ずかしい、割と本気で。
私に構ってほしそうにしていた飼い猫は拗ねたようにキャットタワーに登ったし、目の前の天谷奴さんは特に何も話さないままキスを繰り返すし、私は何をするのが正解?
温い温度に身を任せたまま視線をうろうろさせる。
テレビはつけっぱなし、珍しく簓くんが写っていた。
「こっちだろ」
テレビ消さなきゃな、と少しテレビを観ていたのがお気に召さなかったらしい。
やや不機嫌に、やや乱暴に私の頬を掴むとまた唇を重ねる。
そのまま私の上体をソファーに押しつけるように大きな体を倒した。
重い、自分が何キロなのか考えてやっているのだろうか。
いや、これは考えてないな。
いつもの飄々とした雰囲気はどこへやら。
ふと、唇が離れた隙に彼の両頬に手を当てる。
きょとんと目を丸くするけど、そのまま目を細めて手に擦り寄ってきた。
猫か、猫は飼い猫で十分なんだけどな。
「どうしたの天谷奴さん」
「……いや」
わしわしと少し乱暴に癖のある黒髪を撫でる。
……少し白髪が見えたけど黙っとこう。
皺のある目元を親指で撫で、頬を揉むように撫でれば満足したかのように表情を緩ませて私の上に寝転んだ。
だから、重い。
もぞもぞと器用に体勢を変えて、私の胸元に頭が収まるように移動し、逞しい腕はいつの間にか私の背に回っている。
テレビのリモコンも天谷奴さんの手の中に収まっていた。
簓くんの出番が終わった番組のチャンネルからいつも観ているニュース番組へ。
それから電源はオフ。
流れるようなリモコン操作、手際はいい、本当に。
ポイっとリモコンをソファーの下に投げ捨てると、深く息を吐いて天谷奴さんは腕に力を入れて私の体を抱きしめ、そのまま胸に顔を埋めた。
いろいろ物申したいけどそれしたら空気読んでないやつ……
「なぁに零さん、今日は甘えんぼさんなの?」
「そう、って言ったら甘やかしてくれんのか?」
「今日くらいはね」
たまにはお巡りさんが詐欺師のおじさん甘やかしても誰も見ていないんだからいでしょうよ。
悪ィお巡りさんだなァ、なんて呟いてこっちを見るもんだから今度は私から唇を重ねた。