「げっ……」
「うわ……」
喫煙所に入った瞬間、息抜きが息抜きじゃなくなった。
入口を見て、私の姿を確認しては嫌そうに顔を歪める弁護士に私も思わず心の声が漏れてしまったけどお互い様だ。
彼から一番遠いところで煙草を取り出し、火をつけて深く息を吸う。
視線はお互いに別の方向。
よりによって向こうの弁護士はあの人か……いや嫌いってわけじゃないよ、苦手なだけで。
過去に扱った案件でバチバチにやり合って向こうが勝訴した、それだけ。
まああの時の検察側がめちゃくちゃしてたしな、どう考えてもあの時の検察はよろしくない。
しかもその時検察側の証人として出廷したから余計に。
知ってること話しただけなんだけどさ。
知らないことは言わない、検察側に強要もされたけどそこはほら、私は正しいと思わなかったし。
ちなみにこの弁護士のおかげでその後真犯人をとっ捕まえることができたし、警察が冤罪を犯してしまうこともなく済んだ。
それに関しては感謝している、罪を犯していない人間がブタ箱行きになってしまうのは違うと思うもの。
「……」
「……」
終始穏やかじゃない空気が喫煙所を包む。
喫煙所を包むのは煙だけで十分なのに。
5分、10分、時間が過ぎていく。
どうせなら何かお土産を二課に買っていこうか。
なにがいいだろう。
2本の煙草を吸い終えて喫煙所を出ようと足を向けた。
「アンタ、今日も向こうの証人だろ」
ドアノブに手をかけると声をかけられる。
振り向けば、弁護士は視線をあさっての方に向けていて。
「まあ……」
「ならいい。こっちの勝ちは決まったようなモンだからな」
……調書に目を通してきたけれど、やっぱりまたそういうことらしい。
検察側はともかく、ナゴヤの警察は被告人がそうだと思ってないってことだろう。
「検察に言われたから証人として出廷はするけれど、証言まで検察側に言われてするものではないので」
まだ正せるのなら遅くないと思うし。
「私も弁護士側があなたでよかったと思いますよ、こちらが間違える前に踏みとどまれるから」
じゃあまた法廷で。
こっちを見ていないけれど軽く会釈をして喫煙所を出た。