「大分安定したな」
「めちゃくちゃ痛かったけどね」
痛くして悪かったよ、とごまかす様に頬を撫で、耳に髪をかけて耳に触れる。
俺が開けたピアスホールは安定し、腫れが引いてそれなりに過ぎた。
ごついファーストピアスにも見慣れ、そろそろ以前渡した別デザインのモンに付け替えてもいいんじゃねえか?
左の耳朶と軟骨のピアスに触れて言えば、名前はそっかーと返す。
するりと俺の腕から抜け出た名前は寝室に入り、ごそごそとどこかを漁っていた。
にゃあ、と飼い主に声をかける飼い猫の背を撫でれば飼い主のようにするりと逃げる。
……付き合いそれなりに長くなっているはずなんだが、冷たいな。
寝室から聞こえていた音が止まると、名前が何かを大切そうに持って戻ってきた。
俺の隣に腰かけ、握っていた手のひらを開く。
それは俺がファーストピアスと一緒に渡したいくつかのピアスだった。
欲しいな、と名前が呟いたことのあるリングピアスや似合うだろうと思ったフックピアス。
こいつの誕生石であるアレキサンドライトを使ったものや、猫の形をしたもの。
それから、どうせなら俺の好きなようにしてやろうと、ゴールドのリングピアスやアメリカンピアスも。
「次どれがいいかな。全部可愛いし綺麗だから選べなくて」
そう言って困ったように笑う名前に好きなモンを着ければいいだろと返す。
何もこれしか着けてはいけないわけじゃない、街に出て新たに気に入ったピアスを買うでもいい。
「順番に着けてもいいんじゃねえか。まあ、目立たないようにするなら無難に……これとか」
俺より小さな手のひらに、宝物を広げるかのように乗せられた一組のピアスを指した。
キューピックジルコニアとエメラルド。
俺の目の色と同じ組み合わせのそれ。
残りのピアスをローテーブルに置いた名前は俺のその選択に特に何を言うでもなく、左右のファーストピアス合わせて二つを外すと安定したピアスホールを指先で撫でる。
「全然痛くない」
「そりゃよかったな」
無意識なのかなんなのか、俺が言ったピアスを俺の目と同じように名前は耳朶に着けた。
残りのひとつ、軟骨のピアスはまだ安定具合が心配らしく、相変わらずごついものが着いている。
その軟骨のピアスはゴールドのモンだから、まるで名前が俺色になっていくような、そんな感覚を覚えた。
スマートフォンのインカメラを起動し、ピアスの位置を確認すると今度は俺を見上げて髪を耳にかける。
よく見えるそのピアスの色に、自然と口角が上がった。
「似合うじゃねえか。髪をまとめて耳を出したらもっと見えるな」
「ありがと。でもそれはさァ……なんか、恥ずかしいんだよね」
「あン?」
「いやさ、天谷奴さんの目の色と同じものだし、天谷奴さんが好む色もあるし」
今更恥ずかしくなったのか、真っ直ぐ俺に顔を向けていたはずが顔を赤くして逸らす。
ほォーん?
わかっていたんだかいないんだか。
腕を伸ばし、ピアスを飾られた耳に触れた。
指先でなぞるように往復すれば、くすぐったいのか顔を動かす。
何度か繰り返し、正面を向いたところで顔を寄せて唇を重ねれば名前の顔がさらに赤くなった。