2人とも目元は隠してるけどすんごい驚いてるなー。
そんな風に呑気に思いながら氷嚢とティッシュを鼻に当てる。
両手使ってるから凄い体勢になってるのは気にしないでいただきたい。
けど多分これ無理だな、問い詰められる気がするんだわ。
処置台に座る私の傍らには血塗れのティッシュも転がっている。
「本人は思ったより痛がってませんし、折れてはいないと思いますが心配でしたら病院に行った方がいいかもしれませんね」
硬球じゃなくてよかったわね、影山さん。
うい。
保健室の先生に頷けば、新しいティッシュ箱を置いてくれた。
ピッチングマシンを使ってバッティングと守備の練習をしていたわけだが、順番を待ちながら散らばったボールを拾っていたら、カットボールが顔面に当たったのが保健室に来た原因。
見事に鼻に直撃して、その場で鼻血を大量に出して涙目だった私はチームメイトに連れられて今に至る。
今も微妙に鼻血止まってない、鼻声ちゅらい。
先生はこれ職員室に用事があるらしく、大丈夫になったら部活に戻ってもいいわよ、と言い残して保健室を出た。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
少ししてハッと我に帰った有人は処置台に座ってる私のところに駆け寄った。
「だ、大丈夫か……?」
「はにゃにボールぶちゅかっちゃだけ」
「……」
そんな顔しないでくれるかな。
鼻押さえてるんだから声が変になるのはしょうがないでしょ。
眩暈とか、頭痛とか、そういうのないから大丈夫だとは思うんだけどな。
そうそう、大量出血し過ぎて練習着も凄いことになってる。
練習着のユニフォームは白だから、これ洗濯して落ちるかわかんないや。
おじさんは携帯電話を取り出すと、どこかに電話をかけはじめた。
「止まってる?」
1度氷嚢とティッシュをどかして有人に聞けば、その直後につうっと熱いものが伝う感覚。
おっと、止まってなかった。
「聞くまでもないだろ……というか出血酷くて口周りも悲惨だ」
上向かないで押さえてろ、と有人がティッシュを何枚か取って私の鼻に当てる。
それを自分で押さえて氷嚢ももう1度当てた。
電話を終えたおじさんは、有人に部活に戻るように言うと、私に近づいてきてそのまま頭をぽんぽん叩く。
「では総帥、失礼します。名前、お大事にな」
「うい」
保健室を出る前に有人はおじさんに一礼をしてそのままドアを開けて出ていった。
私の頭をぽんぽんしていたおじさんは、その手を止めると「病院行くぞ」と声に出す。
……おお、意外。
心配してくれてる。
「にもちゅぶしちゅにおきっぴゃ」
「顧問に電話して届けさせるように言っておいた」
さすが行動めっちゃ早い。
その後息を切らして荷物を全部届けてくれたキャプテンにお礼を言って、おじさんと車で病院へ。
折れてはいないでしょう、と言われたけど塗るタイプの痛み止めを処方してもらった。
おじさんも表情に出してはなかったけど、安心してくれたみたい。
ちなみに真っ赤に染まった白いユニフォームはうっすらとシミが残ることに。
何回か冷たい水で手揉み洗いして洗濯機回したけど落ちきらなかった。
……ん、しょうがないか。