同じ舞台に立てない野球少女

部屋から出たのは、雷門イレブンが来てからだった。
モヒカン頭の不動くんに手を引かれて、なぜかベンチへ。
聞けば、特等席で見せるのと監視込みらしい。
いやいや、確かにいつ逃げようかと考えてたけど。
今も考えてるけど。
うーん……私の態度から有人なら不本意でここにいるの気づいてくれそうなんだけどな、多分行方不明扱いだろうし。
3日間くらいあの部屋にいたから外のことはあまり情報入ってない。
意図的に遮断されてたのかも。
あの部屋出た瞬間にメールと着信履歴の嵐。
チームメイトから、同級生から、有人から。
不可抗力だし、まずおじさんに協力してないし。
止めることもできない、し。
どうしよう……

「暗い顔してどうした」

「源田」

そうそう、現在試合は前半終了してもうすぐ後半が始まるところ。
ドリンクくらい寄越せと言った不動くんには中身をぶしゃあとかけてやった。
一番消耗してるのは源田と佐久間。
体に負担のかかる必殺技らしい。
確かに威力はあるだろうけど、体が発育途中の中学生にとっては負担の方がでかい。
必殺技なんて今のところ存在してない野球部が口を出せることじゃないけどこれは言える、選手生命断ち切るつもり?

「やめないの、試合じゃなくて、その技を使うことは……佐久間も」

「やめない。この技を使えば鬼道に勝てるんだ……!」

「……体が壊れるよ、それでも?」

「お前にはわからないさ、俺たちの気持ちなんて」

動かすのも辛いだろうに、源田はその手で私を宥めるように頭を撫で付ける。
突き放す言い方のくせに。
ああもう、もどかしい。
1発ガツンとぶん殴って怒鳴ってやりたいけど、そんなの解決にならない。
ちらりと向こうのベンチへ視線を向けると、有人と目が合った。
ごめん、私じゃ止められないし2人を揺さぶることもできない。
そんな私の心境を察してくれたのか有人は首を横に振る。
そして始まる後半戦。
見てるしかできないのは辛かった。
そりゃ私はサッカープレイヤーじゃないもの、私はベースボールプレイヤーだ。
同じ土俵に立つことすらできないのもわかってる、わかってるけど。
試合が終了して佐久間が倒れた。
その場に駆けつける、ようなことは視界の端の違和感でできなくて。
……なんか、変な音しない?気のせい?変な揺れも、小さいけどあったような。

「名前さん!」

その直後に大きな揺れ。
これは、潜水艦爆発したんじゃね?
おじさんならやりかねない、てかどこだ。
有人の姿も見えなくて、呼び止めてくれた木野さんにごめんと一言。
私も、おじさんに会わなきゃ。

2023年7月28日