「オレおかしくねえよな!大丈夫だよな!?」
「シンイチローしつこい」
「お姉ちゃん待ってるよ!」
「だってデートだぞ!かっこ悪くねえ!?」
「へーきへーき、かっこ悪くても姉ちゃん気にしねーって」
「お姉ちゃんもうちょっと待っててー!」
今日はいい天気だなぁ、雨が降りそうな空だけど。
ツーリングしようぜと誘われたのはいいものの、彼氏の支度がなかなか終わらない。
というか彼氏の方が支度時間かかるってどういうこと。
ちなみに家の中の賑やかな声は全部私に丸聞こえだ、真一郎と万次郎、それからエマの声全部。
玄関でぼんやり座って待っていれば、彼のおじいさんが時間がかかりそうだからとお茶と茶菓子持ってきてくれたのでいただく。
来る途中で場地に会って真一郎とツーリングしてくると言えば駄々っ子も真っ青なレベルになっていた、ちなみに一緒にいた羽宮と松野に引きずられていった。
ずるいって言われてもな、一応真一郎の彼女なんで。
どこが好きかと言われれば、喧嘩が強いとか絶世の美男だとか、そういうんじゃなくて。
真一郎は喧嘩が特別強いわけでもないし、顔は整っているけれど絶世の美男ってわけでもない。
純粋にその人柄に惚れた、それだけ。
お付き合いして何年経つかな、五年くらい?
うちの馬鹿従兄弟が少年院入っている間に付き合い始めた、どっちから告白したとかは覚えてない、むしろお互いここまで来たら付き合う?くらいのノリだったから。
いい年齢だからそろそろもうワンステップ先に行こうかと話もしているけれど、馬鹿従兄弟がめちゃくちゃ嫌がるしなんなら私が見てないところで真一郎襲撃しようとするからそれどころじゃない。
まあその度に吊るしてんだけどね。
でもまだかなー、待つの飽きたなー。
ツーリング、と言っても私はバイク乗れねえので真一郎の後ろに乗るだけ。
なるべく身軽にしとこうと思ってたから小さなクロッキー帳やペンも持ってきてない。
こんなに待つとは思わなかった、いやマジで。
「お姉ちゃん、ごめんね。真兄がなかなか決まらないって……」
「聞こえてるから知ってるよ。まだならエマが話し相手になってくれる?」
「うん!」
相変わらずぎゃあぎゃあと真一郎と万次郎の話す声は聞こえるけれど、ひとりでここで待ってるのもな。
エマと話をするのは、エマが想いを寄せている龍宮寺のことがほとんど。
なんで付き合ってねえんだろって思うくらい両片想いで私でももどかしく感じる。
さっさと付き合えよ……
それから私と真一郎の話。
付き合ってどんなところに行ったとか、この先どうしたいのか。
もうエマは知っているし私から言おうかと思ったら凄い勢いで止められた。
真一郎から言い出すのを待ってってさ。
「嬉しいんだよ。お姉ちゃんが本当のお姉ちゃんになるんだって、ニィだって喜ぶよ」
「そう、というかイザナまで話行ってんの?」
「ウチやマイキーが話さなくてもお姉ちゃんの弟たちが話してるでしょ。真兄のところに殴り込みに行くって息巻いてたふたりを蹴って止めたのニィだもん」
それは初耳。
だから前にふたり揃ってボロボロの時があったのか、ちょっと納得。
イザナの方が強いもんなー、それにしても蘭と竜胆が全くめげない、懲りねえなあ。
今日だって真一郎と早めの時間に真一郎の家で待ち合わせって決めたもんな、ふたりが起きる前に出てきた。
ケータイイカれんじゃねえかってレベルで電話してくるだろうからケータイは電源落としたし、時間が確認できるように普段はしない腕時計をしてきている。
……それにしても遅くねえ?
エマの顔を見合わすと、どちらからともなく大きく息を吐いた。
「ちょっと真兄見てくるね、待っててお姉ちゃん」
「ありがとうエマ、遅いとひとりで行っちゃうよって伝えて」
「わかった!真兄!!お姉ちゃんひとりで行っちゃうよー!!」
エマが呆れたように言いながら家の中に戻る。
バタバタと慌ただしい足音が段々近づいてきて、悪い!の声に振り向けば真一郎が来ていた。
ツーリングって言ってたからライダーススーツ、それから真一郎がお揃いで買った私のヘルメットとジャンバーを持っている。
「おっせえよ」
「悪い!名前と出かけるから気合い入れてたんだ!」
「気合い入れても入れなくても真一郎は真一郎でしょ、なんでも気にしないよ」
「う……そうだけど!そうじゃねえの!」
「ふーん」
見送りに来てくれたエマとおじいさん、万次郎に行ってきますと声をかけ、真一郎のバイクが停まっているところに足を向けた。
真一郎から渡されたジャンバーは私には少し大きめだけど冷たいであろう風を防ぐには十分過ぎる。
バイクに跨ってエンジンをかけた真一郎の後ろに座る前にヘルメットを被り、しっかりとベルトを締めた。
髪は項で緩く纏めているし、ヘルメットを脱いでからまた纏め直せばいいか。
「どこ行くの?」
「適当に流そうと思ってさ、海岸線沿いなんてどう?」
「いいね、景色が綺麗なところ好きだよ」
「今日は絵は描けねえけどさ、オレのおすすめのところ見よーぜ」
こういうところ、好きだなあ。
真一郎の好きなものも、私の好きなものもうまいこと混ぜ込んで一緒に楽しめるようにしてくれる。
だから真一郎は人を惹きつけるんだろうな。
学生の時に真一郎に告白されたやつは絶対損してる、でもそのおかげで私が真一郎とお付き合いできたんだけど。
掴まっとけよ、と言う真一郎の言葉に真一郎の腹に腕を回してしっかりと掴まった。
ぴたりと真一郎が一度動きを止めてからぎこちなくバイクを走らせる。
頼むからそういうの慣れてくれ。
風を切って冷たかったけれど、身を寄せた真一郎はとても温かかった。
灰谷兄弟の親戚のおねえさん
佐野真一郎とお付き合いしている世界線。
いろいろあったけどとても平和な世界線、真一郎くんも生きてるし、佐野家とイザナくんの擦れ違いはあったけれど和解している。
ワンステップ先は入籍のこと。
おねえさんから言おうかな、と思ったら凄い剣幕でエマちゃんに止められた、お願いだから真兄を待ってあげて!
相変わらず灰谷兄弟とは同居しているし、天竺メンバーだって灰谷家に遊びに来る。
真一郎くんのまっすぐなところが好き、人を惹きつけるのでぶっちゃけ他の人を惹きつけ過ぎて妬くこともあるかもしれないようなないような。
佐野真一郎
おねえさんとお付き合いしている。
初代黒龍を率いていた頃から仲良かったけど、付き合い始めたのは五年前。
それまで武臣さんやワカくん、ベンケイくんにはさっさと告って付き合えとせっつかれていた、でも告白らしい告白はないまま恋人になった、自然体。
おねえさんと結婚考えているけれど大体灰谷兄弟が立ちはだかる、その度におねえさんかイザナくんが灰谷兄弟を締めることも多い。
おねえさんのことが誰よりも好きだと胸を張って言える男。
今回かっこいいところ見せたいのもあったから支度に時間かかった。
灰谷兄弟
真一郎くんとおねえさんがお付き合いしているのをよく思ってはいない、けどおねえさんが幸せそうだからモヤモヤしている。
佐野真一郎襲撃未遂事件を何度か起こしてはおねえさんに吊るされたりイザナくんに蹴り飛ばされたりしていた。
佐野家
はよ結婚しろ。