「びっくりしたああ!オマエら来るからボコられるのかと思ったー!!」
「はァ?やるわけねえだろねえちゃんとイザナに締められんだからさァ」
「つーか感謝される側なんだけどなァ、強盗未遂から助けてやったのオレらじゃん」
「いやそれは感謝してるけどオマエら襲撃に来てたじゃん!!」
「それな」
「まさかガチ襲撃あるとは思わなかったわ」
懐かしいなーなんて笑えば佐野真一郎は青い顔で笑えねえよ……と呟いた。
ねーちゃんに内緒で今日は真一郎の仕事場であるバイクショップに来ている。
来た理由?こいつがずるずると言うこと言わねえでひよってるからだよ!
付き合ってもう五年経つんだろ?オマエもねーちゃんもいい年だってのに真一郎がひよってんから発破かけにきた。
何にひよってんのかって決まってる、プロポーズ。
ねーちゃんが昨日ぼそりと「もう私から言うかー」なんて言って綺麗な箱型のケース持ってたからこれやべえな、と兄ちゃんと話してさ。
逆プロポーズ?男ならオマエからプロポーズしろよ!ねーちゃんなら逆プロポーズもできる人だからな!?
もしも真一郎が結婚考えてなかったとか、プロポーズ無理だとか、そんなこと言い出したらオレの関節技と兄ちゃんの警棒が火を噴くのも辞さねえ。
差し入れ、とコンビニで適当に買ってきたコーヒーや菓子を渡せばへらりと真一郎は笑った。
ちなみにオレと兄ちゃんが助けてやった、ってのはマイキーの誕生日プレゼントにバイク盗みに来た場地と羽宮を止めた件。
ウケるよな、オレらもねーちゃん見てねえところでやっちまうかって真一郎に会いに行ったらガチな強盗来てんの。
オレらやっちまうかって思ってたけど殺る気はなかったから、いやほんと、それはほんと。
ボコせばいっかぐらいだったから。
それが真一郎の命助けるんだからどう転ぶかわかんねえよな、ウケる。
真一郎も無事、場地も羽宮も真一郎の広い心でお咎めなしだから笑える話になった。
「さっさとねえちゃんにプロポーズしろよ、何にひよってんだよ情けねえな」
「ぐうの音も出ない」
「ねーちゃん待ってくれてんけどそろそろ待ってくんねえよ?」
「心の準備!準備させて!」
「もう指輪買ってるくせに何言ってんだ」
「ちなみにエマちゃん情報」
「妹と義弟たちが仲がいい!」
ねーちゃんとイザナが会う?と言って真一郎がいないところでエマちゃんやマイキーには会ってるからな。
真一郎とねーちゃんがどこにデート言ったとか、エマちゃんがドラケンに片想いだとか、もっぱら恋バナしてるけど。
ぜってえエマちゃんとドラケン両片想いだわ、オマエらもさっさとくっつけ。
マイキーもほんとだよなーオレの兄妹奥手で困るわーなんてたい焼き頬張ってた。
「つーか待って、今もあんだけオレんとこに襲撃来てるのに認めてくれてんの……?」
「うん、ねえちゃん真一郎といるとすげー楽しそうにしているし」
「イザナとねーちゃんがガチでオレら止めるから、そういうことなんだなって」
随分前から認めてるに決まってんだろ何言ってんだオマエ。
オレらがネンショーにいる間に付き合ったのがつまらなかっただけだ。
オレらの知らないところでオレらのねーちゃんが誰かの女になってるのが嫌だった。
大人から見たらオレらなんかまだまだガキだろうし、ガキっぽいことしてるとは思ってる。
でも、真一郎だってねーちゃんだって、なんならあの真一郎過激派のイザナだって本気なんだから、オレらだって認めないわけねえじゃん。
こいつがオレらの義兄ちゃんになるんだなって思えばすとんと受け入れられた。
兄ちゃんが実は真一郎が兄貴かぁ、なんてちょっと浮き足立ってんだしさ。
オレもマイキーとエマちゃんが義弟で義妹かーなんて受け入れてるし。
あとはちゃんと形として真一郎とねーちゃんがくっつくだけ、はよ結婚しろ。
「もうオレら計画しっかりしてんだよ、ねーちゃんのバージンロードは伯父さんが歩いて、オレら家族席」
「お色直しの時はオレと竜胆が一緒に行くの、な?しっかりしてんだろ?ちなみにイザナは真一郎の家族席な」
「オレより先を見てるのこっわ」
「さっさとプロポーズしろ!」
「プロポーズ!プロポーズ!」
「義弟たちの手のひら返し!」
うるせえ認めたんだから感謝しろ。
真一郎がねえちゃんに次のデートでプロポーズする、と渋い顔で決めた当日。
オレと竜胆はこっそりとそのデートの様子を見に来た。
しなかったらまじで殴り込む、オレの警棒と竜胆の関節技が火を噴く準備はばっちりだ。
「なんか今日はふたりともそわそわしてんなあ」
「特に真一郎な。なに、あのふたりって手ェ繋ぐのもあんななの?甘酢っぺー……」
焦れってえな、そのまま乱入してやろうか。
物陰から飛び出そうとすれば竜胆に首根っこを掴まれた。
オマエオレより力あんだから加減しろ。
いつもはツーリングらしいけれど、真一郎もねえちゃんも一段とめかし込んでいるからか、手を繋いで街中をのんびりと歩いている。
店頭販売のコーヒー片手に歩く姿は本当に恋人だ。
真一郎は終始顔に赤みがかっているけれど、ねえちゃんは落ちついたからなのかいつもと同じ表情を少し穏やかにしている。
それからふたりは街中を歩いて、たまに店に入って楽しそうに話をしていた。
ねえちゃんの好きな店、真一郎の好きな店。
驚いたのが真一郎のエスコート、なんだ、あいつやればできんじゃん。
人柄に惚れたってねえちゃん言ってたし、まあなんとなくわかる。
今では引退したけれど初代黒龍の総長だったもんな、喧嘩強いわけじゃねえし、なのに真一郎のところにはワカとベンケイがいるし軍神と名高い明司だっていたし。
殴り込みだ、なんてオレと竜胆が何度も真一郎のところに会いに行ってるからオレらだって真一郎に惹き付けるものがあるのはわかる。
オレらはふたりで上も下もなく六本木仕切ってんけど、確かに真一郎のところは居心地いいんだろうなってさ。
どのくらいふたりを尾行していたか、そろそろデートも終盤じゃね?ってところでふたりはレストランに入っていった。
もちろんオレと竜胆も時間を置いて入って、ふたりからは見えないけれどこちらからはしっかりふたりが見える席に座る。
「バイク乗らないのも悪くねえな、名前とゆっくり歩けるし」
「楽しかった。真一郎もそうやってライダースーツじゃないのも新鮮だね」
「お、おう……!名前も、そのワンピース可愛い……似合ってる……」
当たり前だろねえちゃんが似合うワンピースやらヒールやら用意したのオレらだぞ、似合わねえわけねえだろ。
ふたりは五年付き合ってんだよな?なんであんな初心なの?不思議でしかねえよ。
普段甘めのカフェラテを頼む竜胆がブラックでコーヒーを飲んでゲロ甘ェ、と呟く。
わかる、オレもブラック飲んでるはずなのにくっそ甘ェんだわ。
ところでメインディッシュもデザートも終わったけどプロポーズまだ?
なんて竜胆と食い入るように見ていると、真一郎が大きく息を吐いて懐から可愛らしいケースを取り出し、それを開いてねえちゃんに差し出した。
「言うの、めちゃくちゃ待たせちまったけど、オレと結婚してください」
よっしゃああああ!した!したな!?プロポーズした!!
声が出そうになるのを両手で口を覆って、顔に熱が集まるのを感じながら真一郎とねえちゃんを見守る。
竜胆もオレと同じ体勢、わかる、あれ叫びたい、なんだっけ?エンダアアア!ってやつ!!竜胆はイヤアアア!を頼んだ!
ねえちゃんは一度目を丸くし、それから嬉しそうに笑うとねえちゃんも懐から似たようなケースを取り出して開いた。
「私も、今日言おうと思って……私と、結婚してくれますか……?」
やっべええええ叫びてえええ!
思わず竜胆と目を合わせれば、竜胆は涙目だ。
わかる、めっちゃわかる!
オレかっこつかねえな、なんて真一郎は照れ臭そうにしているけれど、問題ねえよ今初めて真一郎最高にかっけーから!
ふたりとも自分でよければ、と応えてお互いの指輪を交換するみてえにお互いの左手薬指にリングをつけた。
真一郎とねえちゃんが互いにプロポーズした瞬間に居合わせただけでもう幸せだわ。
……ちなみに、後日なんだけどな、オレらが尾行してたのをエマちゃんが真一郎とねえちゃんに話して、真っ赤になったふたりの代わりとばかりにマイキーとイザナに蹴られたんだわ。
灰谷兄弟の親戚のおねえさん
佐野真一郎とお付き合いしている世界線。
もう私からプロポーズしようかな、と呟いたのを蘭くんと竜胆くんが聞いてた。
めでたく真一郎くんとおねえさんとお互いにプロポーズして、晴れて婚約者に。
後日エマちゃんから蘭くんと竜胆くんがその場にいたんだよねえなんて聞いて顔赤くした。
佐野真一郎
灰谷兄弟の親戚のおねえさんとお付き合いしている世界線。
場地くんと羽宮くんのバイク強盗事件は偶然襲撃に来ていた灰谷兄弟がいたことで無事だった、命あっから笑い話になるけれど思い出すだけでゾッとする、ふたつの意味で。
おねえさんにプロポーズするのは正直ひよっていた、オレなんかで本当にいいのか?なんて。
灰谷兄弟に発破かけられてプロポーズしたらプロポーズされた。
幸せ絶頂期に突入。
仕事中は首からチェーンで指輪通しているけれど、たまに眺めては幸せそうに笑っている。
後日、あの場に灰谷兄弟がいたことを知って顔赤くしながらやっぱりかーなんて天を仰いだ。
感謝してはいる、ふたつの意味で。
灰谷兄弟
真一郎くんがおねえさんにプロポーズなかなかしないから発破かけに行った。
ちゃんと認めている、真一郎くんが兄貴ならいい。
デート中、何度乱入しそうになったか数えていない。
プロポーズの瞬間、当人たちよりも泣きそうになりながら見守っていた。
後日マイキーくんとイザナくんに蹴られる。
佐野家
灰谷兄弟よくやった!と言いたいけれどなんで尾行してたんだオレらも呼べ!とマイキーくんとイザナくんがふたりを蹴った。
おめでとう。